写真家ショーン・オコンネルからウォルター・ミティへの贈り物は、予想外に2つとなった。
当初予定されていた贈り物を紛失したウォルター・ミティは、それを探す旅に出ることで、2つ目の贈り物を手に入れることになった。
それは、若き日に手に入れる直前で諦めてしまった、冒険の日々。
ウォルター・ミティは、そもそも「Step Out!」することを怖がるような人間ではない。
若き日の彼は、モヒカンに刈り上げた頭で、バックパッカーとして世界を旅する計画を立てていた。
しかし、息子のモヒカンを自ら整え、旅の後押しをしてくれた父の突然の死が、その計画を奪い去った。
残された母と妹のために脇目もふらず懸命に働いたことは、充実していない彼のプライベートが物語っている。
だからこの物語は、生まれ変わるための冒険談などではない。
本来あるべき自分を取りもどす「ウォルター・ミティの帰還」なのだ。
もちろん、男が一歩踏みだすには、惚れた女の後押しが必要だ。
しかし、それすらも点火プラグに過ぎず、ガソリンもエンジンも100%自前のものだ。
非日常の冒険は、始まってさえしまえば、困難なことはない。
坂道をスケボーで疾走するように、ただ駆け抜けていけばいい。
目の前の生を実感しながら、ただただゴールに向かえばいいのだ。
しかし、日常の冒険は困難だらけだ。
いつ始まったかも知らされず、無論ゴールも非公開。
ワクワクドキドキは消え失せて、生の実感すら湧かない日々もしょっちゅうだ。
だから、エンディングで再会を果たしたウォルター・ミティとシェリル・メルホフに弾けるような笑顔はない。
おだやかに噛みしめるように微笑み合う。
それは、職を失った二人が、現実の日常生活という大冒険の入口に立っていることを、自覚していることに他ならない。
ウォルター・ミティは、これまで2つの大冒険を成功させてきた。
ひとつ目は、突然、一家の主を失った家族を支えるという大冒険。
世間は一切気づかない、その地味な冒険は、働きぶりで信頼を勝ち取るという大きな宝物を手に入れることができた。
「LIFE」の表紙は、そのオマケにすぎない。
ふたつ目である今回の冒険で、彼は本来あるべき自分を取り戻した。
そしてなにより、これから迎えるゴールのわからない長い大冒険を、ともに乗り越えていく伴侶と出会うことが出来た。
これから迎える3つ目の大冒険も、彼ならきっとやり遂げることだろう。
だってそれはそうだろう。
なにしろ彼は、「Who Made It」の言葉とともに「LIFE」の表紙を飾った男なのだから。
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