スパイに憧れていた。
と告白してしまうと、若くはないとばれてしまうだろう。
その昔、世界は東西の均衡の元に秩序立てて構成されていた。
その頃、今となってはわずかな期間だが、スパイという職業が少年達のあこがれだった時期があった。
信じられないかもしれないが、その頃のスパイは正義の味方だったのだ。
現在のように、あちらこちらの謀略の影に、ソレやコレの影など見えない時代。
女王陛下のインテリジェンスは、プリンセスは守らないなどとは知らない時代。
その頃、洟垂れ小僧の目にはスパイという職業は ウルトラ警備隊とまさしく同義語として映っていたのだ。
そしてもうひとつの理由はガジェットだ。
身につけた小型で高性能なそれらのおかげでヒーロー達は、何度命を救われただろう。
危機一髪のお供には、小粋でスマートなガジェットが欠かせない。
ボンド・マティーニのレシピや、ボンドガールのスリーサイズなんかよりガジェットの性能に首ったけの年頃が、この僕にもあったのだ。
「ジェームズ・ボンドのガジェットってリアルに再現できるの? 」という記事を読むまでもなく、夜空のムコウを乗り越えてオトナになってしまった僕には、それらが実現不可能でしかも実現できたとしてもボンドガールのウェストサイズほどには興味を引かないことは知っている。
そして、自分がおいそれとアストンマーチンのステアリングを握れないことも知っている。
そう、僕は大人になった。
しっかりと。
確実に。
だが、それでも「『007 スカイフォール』で使用のXperia TLが発売 」などというニュースを読めば心が躍る!
なにせ『007 慰めの報酬』で、スマートフォンはズームカメラとMI6の画像認識プログラムへの転送で黒幕達を瞬時に検索するという実現可能なガジェット力を 十二分に発揮して、久しぶりにボンドガールのウェストサイズを忘れさせてくれた。
現在のスマートフォンが実現可能な機能は、過去のどのガジェットをも凌駕している。
ダニエル・クレイグ以前のボンドが持ち得なかった、現実に その力を発揮してくれるガジェットはどうしても手に入れたくなる。
いや違う。
進んで正直に訂正するならば、アストンマーチンのステアリングも握れず、よく冷えたウオッカマティーニを 飲むべきBARも失い、ボンドガールとはすれ違いすらしない男には、せめてソレを手に入れるくらいしか選択肢が残されていないのだ。。。