ユニコーンの名を持つガンダムを駆り、人の可能性を信じ続けた男は、バナージ・リンクスの前にも存在した。
ユニコーンのパーソナルマークをつけたガンダムで、人間離れした戦果を上げ続け、文字通り「白い悪魔」と恐れられた男。
その男、アムロ・レイは、初めて広く認知されたニュータイプである。
ニュータイプの定義はいまだに曖昧だが、彼は人間以外の何者かにカテゴライズしなければ説明のつかない存在だった。
建前は英雄扱いだったが、「ラプラスの箱」の中身を知る人々に、彼は幽閉されることになる。
だってそれはそうだろう。
あやふやだった「宇宙に適応した人類」というやつが本当に誕生したのだ。
さらに大戦の英雄という肩書も加われば、体制を打倒する神輿にはピッタリだ。
愚民は官僚より英雄を好む。
その英雄に「ラプラスの箱」という正当性まで与えてしまうわけにはいかない。
ジオン・ダイクンの思想を継承する、いまだ潜ったまんまのジオンの残存勢力と結びつけば、せっかく築き上げた連邦政府というOne Worldは一気に瓦解しかねない。
誰もが取り越し苦労だと鼻で笑っていたラプラスでの工作からおよそ80年。
放置されていた箱の保全プログラムは再度活性化し、ジオンの残党狩りも加速させなければならない。
そのためには特権を持つ先鋭化した部隊をつくる必要がある。
しかし、ゲシュタポのような部隊を作るには、それなりの理由が必要だ。
であるならば、デラーズ・フリートなるものが極秘に進めている「星の屑作戦」にある程度目をつぶる必要があるだろう。
小さな芽を摘まず、最後の局面で叩き潰してしまえばいい。
コロニー落としという恐怖にさらされた愚民は、ゲシュタポの誕生を容認するであろう。
しかし、そうして生まれたティターンズの急速な台頭がエウーゴを生み出すことになる。
連邦を2つに割った戦乱は、皮肉にも、アムロ・レイにモビルスーツという最大の武器を与えてしまうことになってしまった。
しかし、再び宇宙に自由に上がれるようになったニュータイプは、呆気無くその生命を落としてしまう。
しかも、「赤い彗星」というジオン最後の英雄を道連れに。
箱を封印するものには、お誂え向きのストーリーだ。
しかしあの地球を取り巻いた虹色の光は、一体何だというのだ。
「世界に人の心の光をみせなけりゃならないんだろ!」と叫んだ、あの局面でも人間の可能性を信じ続けたニュータイプから放たれた光だというのか。
「宇宙に適応した人類」がそこまでの奇跡を起こす力を持つというのなら、どうあっても開封させるわけにはいかない。
重力にしばられ続けた人類に、ソレに抗う力はない。
かつてララァ・スンがその肉体を不要とし、時の地平を行き来できる存在になったように、アムロ・レイもまたそのような存在となった。
ア・バオア・クーでもその選択をすることはできた。
しかし、その時はそれを選ばなかった。
「ごめんよ、まだ僕には帰れる所があるんだ。」とララァ・スンに伝えたそれは、今となってはやるべきことがあったからだと理解するのが正しいだろう。
それは、「世界に人の心の光をみせること」。
そしてその最中、サイコフレームと同化する意識の中で、彼はバナージ・リンクスという新しい可能性を見つけたのだろう。
時の地平のなかで。
託せる若者がいるのなら、もう自分の肉体はいらない。
あとは、見守りさえすればいい。
今度は、ララァ・スンとともに。
そして世界に見せた虹色の光は、箱を秘匿するものの背中を押した。
可能性という言葉をすっかり忘れていた老人は、それを光というカタチで目にしたのだ。
老人は、ずっと探していた「我が唯一つの望み」にようやく出会うことができたのだ。