ヴェスパー・リンドが陰であるならば、マドレーヌ・スワン(レア・セドゥ)という女はボンドにとって陽である。
そこには、フェロモンを過多に供給しオトコの道を踏み外させるオンナとは別の生き物の、強い日射しでオトコを照らす強いオンナの姿がある。
ボンドを救う女
マドレーヌ・スワン(レア・セドゥ)は、これまでのボンドガールとは一線を画す歯ごたえがある。
護身用に銃の説明を始めようとするボンドに、手慣れた手つきでマガジンを抜き、チェンバーの弾丸をはじき出し、ハンマーを戻してみせる。
うんざりした表情は、そんなことが身についている自分に向けたものなのだろう。
絶体絶命のボンドを、安定したウィーバースタンスからの的確な射撃で救い、テンプス・フーギットというラテン語のことわざを瞬時に理解し、オメガの時計型爆弾をベストなタイミングで使用する。
“Tempus fugit.” On this day in 2015, director Sam Mendes and crew filmed Bond’s watch exploding in Blofeld’s lair from SPECTRE. pic.twitter.com/5PuppliPxw
— James Bond (@007) May 6, 2020
しかしその存在が最もクローズアップされるのは、ボンドに違う道を選択させたことだ。
自らも、Mr.ホワイトという父親と決別することで、陽の当たる道を歩く選択をした。
だからボンドに、生き方は選べると伝える。
暗い夜道で、追って追われる孤独な生き方を選ぶのかと。
しかし、いい女の常として、そのことを哀願したり強要したりすることはない。
あるのは、問いかけだけだ。
私はこうして生きていく。あなたは、どうするのと。
かくして、ボンドは待っている女のもとに行くことを決めた。
それまで、どんな女よりそばにいて、どんな女より頼りになったワルサーPPKを投げ捨てて。
もう、それは必要ない。
これからの人生に、ただ一つ必要なものは、目の前で微笑んでいるのだから…