そのドラマでは、なにも起きないことを僕らはよく知っている。
そして、またなにも起きないことを願いながら、新しいエピソードに手を伸ばすのだ。
ただオトコが飯を食う。
それだけの物語だ。
いや、物語というにはドラマは生まれないし、ドキュメンタリーというには主人公の独白が多すぎる。
僕らは、そのオトコが飯を食う風景を見ているのだ。
食がメインといったって、登場するものは、特別な食材や、伝説の調理法でこしらえられた美食と呼ばれるようなものではない。
決して行列に並ぶことを強制しないような、決してブームになることのないような、そこらの店が出す当たり前のメニューばかり。
しかし、そこらで長いこと続けてきた店が出すメニューは、当たり前に美味そうだ。
彷徨う街も、タウン誌に特集されるような華やかなところではない。
誰もが、いつかどこかであくびをしながら通り過ぎた経験があるようなところ。
誰もが、その路地裏のにおいは嗅いだことがあるぜと話しかけたくなるような…
そうしたものを、なぜいつも見てしまうのだろう?
しかも、またなにも起こらないでくれと願いながら。
僕らは、現実に起こるドラマに疲れすぎているのだ。
ひねりはなく、どんでん返しもなく、アベンジャーズの一員が駆けつけることもないくせに、ただただ苦味だけは、よくできた脚本のように強烈に味あわされる、落とし所のない現実のドラマというやつに。
そうしていつか、なにも起こらないことを願うようになる。
よいことが起きてほしいという願いは、もうとうに忘れてしまって…
そして画面の中のオトコを見つめる。
そのオトコには、なにを食べるかで悩む以上のドラマは生まれていない。
そうして彼が、ソコソコの値段の、ソコソコに美味いもので腹を満たし、おだやかに歩き去る姿を見送る。
ああ、今日もまた、なにも起こらないイイ日だったねと思いながら。
そして、自分の明日も、またなにも起こらないイイ日であることを願って眠りにつける。
もっとも、その前に、この刺激された胃袋を落ち着かせる方法を見つけなければならないが…
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