長く続く人気シリーズの中でも全てが秀作であるとは限らない。
その中で、本当に優れた作品は一握りだ。
007では、ダニエル・ボンドのシリーズであり、バットマンではノーランのダークナイト三部作であり、そしてルパン三世では、「LUPIN the third ~峰不二子という女~」の流れをくむ本作がそれにあたるだろう。
ノーランのダークナイト三部作では、バットマンがアーカムの精神病者とは一線を画す、ただのコウモリ男ではないダークナイトであることを理解させてくれた。そして、ダニエル・ボンドのシリーズでは、世界中のカジノと酒場で有名なだけのジミー・ボンドではなく、女王と契約を結んだ騎士のような英国諜報部員のジェームズ・ボンドに出会うことができた。
そして、このシリーズのルパン三世では、なれ合うことなくアンダーグラウンドに生きるものたちの危ない匂いを嗅ぎ取ることができる。
暗い歴史を呑み込んだまま連綿と続くヨーロッパという舞台は、そうしたものたちに似つかわしい。
モードでハードボイルドな次元大介
クラシックなスタイルでいいやつの次元大介は、今回登場しない。
そこにいるのは、モードなスタイルに身を包み、にこりともしない本来的なハードボイルドのプロのガンマン次元大介だ。
彼が戦うのは、誰かさんのためではない。
ただ己が生き延びるためだ。
そして、この稼業で、ガンマンとして生きていく誇りのためだ。
だから、ただのビジネスパートーナーであるルパンの末裔を名乗る男は、一切関係がない。
「お前には関係ねえ!」
という言葉には、巻き込みたくないという思いやりなど微塵も存在しない。
ただただ自分自身の誇りにかかわる問題に、どこの馬の骨ともわからぬ男に余計な首を突っ込んで欲しくないだけなのだ。
何しろ、こっちは自慢の早撃ちで、あの風変わりで趣味の悪いヤエル奥崎にかなわない力量差を見せつけられたばかり…
357マグナムという大口径の弱点を指摘しながら勝ちほこる敵に、「ロマンのわからねえ奴だ」と捨て台詞を返すのが、精一杯の状況なのだ。
ルパンという受容
ビジネスパートナーとしてしか付き合わない次元大介に対して、ルパン三世は相棒としての懐の深さを見せる。
その根底には、射撃のプロとしての次元大介への絶対的な信頼がある。
だから、彼はその次元が早打ちで敗れる姿に、本人よりも衝撃を受ける。
しかし、お節介なこの男は、そこで見捨てることをしない。
さらに、峰不二子の罠にも、間抜けな男を演じて引っかかるふりをする。
自らは標的となっていない状況で、命がけで次元大介を救い出し、ガンマンとしてのプライドを取り戻す舞台を用意する。
このおちゃらけた男の懐の深さが、他の誰をも信用していないプロ達を取り込んでいくハブになっているのだろう。
そうしてルパン一家なるものが形成されていく匂いを理解することができた。
357マグナムを使う理由
次元大介が、357マグナムを使うのには理由がある。
「LUPIN the third ~峰不二子という女~」の中で語られたそれは、実用的なものではなく、甚だ感傷的なものだ。
しかしだからこそ、その感傷的な理由を、その理由を生んだ女との思い出を守るためにも負けるわけにはいかない。
そうして果たす再戦では、やはり勝つことはできなかった。
早さでは。
しかし、乗り越えられなかったスピード差を、その大口径のマグナムは補ってくれた。
感傷的な理由で使い始めたマグナムは、こうして実用的にも彼のメインアームとなったのだ。
ともに生命の危機にさらされ、ともに難敵を倒し、とびきり美味い「後の一服」を分かち合う。
これで男同士の友情というものが生まれないわけがない。
優秀な機能で認め合っていた存在は、そこに「信頼出来る」という枕詞が加わることになった。
こうして優秀なビジネスパートナーは、得難い相棒に昇華したのだ。
そうして、尖りきっていたガンマンは、ようやく歯を見せて笑うのだ。
隣でバカ笑いしているお節介のこそ泥とともに。
次回作は?!
狡猾で冷徹な警官である銭形は、ルパン三世、次元大介、峰不二子の3人が難敵を打ち破り行動を共にしたことを理解する。
単独でも厄介な存在がチームとして相乗効果を生み始めることは、また一段と厄介な状況を生む。
そうしたことを憂い、覚悟するシーンが描かれる。
そして、マモーの姿も!
次回作は、五右衛門編となるのか、そこにマモーはからむのか?
いずれにしても目の離せないシリーズであることは間違いない。