ディストピアと呼ぶのも憚られるような荒廃しきった世界。
枯渇寸前の資源と、使い続けるしかないガラクタで構成される世界を舞台に僕らが目にするのは、とてもシンプルでぶっきらぼうな叙事詩だ。
剥き出しの叙事詩
社会も秩序も道徳も消え失せて、この世界を支配しているのは、欲望よりももっとプリミティブな本能と呼ばれる類のものだ。
そんなプリミティブな世界で繰り広げられるには、物語という図式すらまどろっこしい。
叙事詩というカタチこそがふさわしい。
あらゆるものが崩壊し、もう何者にも縛られないはずなのに、ただ生きることだけには縛られている。
生きる意味など感じられるはずもなく、義務感だって存在するはずもない。
それでも、生きていくことに縛られている。
その先に希望と呼べるものが存在しないことだけは身に染みているのに。
これが、生き物の悲しい性というものなのか。
A LOVE STORY
「あなたの名前は?」
「俺の名はマックス」
この叙事詩は、マックスとフュリオサのシンプルなラブストーリーである。
ただ名前を知りたいと思った。
ただ名前を知ってほしいと思った。
水や石油なんかよりあっという間に地上から消え失せてしまったであろう愛というものの存在を、まだ二人は思い出せてはいない。
でも、シンプルに湧き立つ感情があったのだ。
生活というものが存在していない世界で、共に暮らそうなどと思い至るはずもない。
ただ、名前を。
欲に結びつくことのない想いは崇高な結晶だ。
全編モノクロ版
情弱な僕は知らなかったが、全編モノクロのバージョンも公開されている。
圧倒的な叙事詩に飲み込まれるのを体験するためには、通常のフルカラーバージョンがお誂え向きだろう。
モノクロバージョンは、シンプルなストーリーを、マックスとフュリオサのささやかな表情の揺らぎを感じやすいのかもしれないね。
僕も、ぜひ、チェックしてみたい。