衝撃の結末をうたう作品は山のようにあり、そのほとんどが肩すかしだ。
しかし、本作の結末は本物の衝撃であり、見ているものに動揺すら与える。
僕の衝撃的結末ランキングでいえば、ミッキー・ロークの「エンゼル・ハート」とブラッド・ピットの「セブン」を超えてしまった。
イタイ映画
アメリカ映画でありながら、武器として使用されるものは、ほとんど銃以外のもの。
それは大ぶりな先割れハンマーであったり、日本人にはおなじみのカッターナイフであったり…
そうしたものによる日常的に想像しうる痛さを、スパイク・リーは真っ向から描写する。
そう、痛い映画なのだ。
しかし、本当に痛いのはこの物語そのものだ。
物語そのものに比べれば、そうした暴力描写のシーンは、おままごとにしか見えない。
後になって思えば、衝撃的な結末に向けての肩慣らしをしてくれたスパイク・リーの思いやりなのかもしれない。
狩撫麻礼の原作
そもそもは、土屋ガロン(狩撫麻礼)原作のコミックが韓国で映画化され、それをスパイク・リーがリメイクしたものである。
僕は韓国版は見ていないが、中間のものが存在したとしても、狩撫麻礼原作のコミックがハリウッドで映画化されたという事実は、長年その作品に親しんだものとしては、うれしい驚きであることに間違いない。
なにせハリウッドでの映画化という商業の波に最も遠いところにいるように見える作風だからだ。
復讐の物語
ある日突然、監禁生活を送らされる羽目になる主人公。
しかも、その間に妻は殺され、自分が容疑者になっている。
なぜ自分をここまで追い込むのか、その相手も動機も全くつかめないまま、彼は復讐することだけを心の支えに日々を乗り越える。
生きている一人娘を思い、手放せなかったウォッカの瓶には目もくれず、ひたすら体を鍛え続ける。
気づけば20年となる頃、彼は唐突に解放される。
20年間、復讐することしか頭になかった彼は、シャバを疾走する。
そうして、あっという間に倒すべき敵にたどり着く。
自ら姿を現し、その正体と監禁理由を探せとゲームを持ちかける敵。
ここまでの早い展開に、ずいぶん雑に作ったリメイクだなぁと感じていた。
しかしそれは、早まった浅はかな考えだった。
復讐される物語
これは、主人公が復讐する物語だと思い込んでいた。
しかし、これは主人公が復讐される物語なのだ。
20年間の監禁生活が解けた後でも、主人公に対する復讐は進行しており、20年間という時間は、罰としてではなく仕込みのために必要な時間だったのだ。
そして主人公は、敵を探る中で復讐されるべき明確な罪を自分が犯していたことを思い知らされることになる。
主人公が原因で一家心中となり、ただ一人生き残った敵は、その復讐のためだけに生きてきた。
それを実行するために必要な資金力を手に入れ、シナリオ通りに復讐が完結するの見届けると躊躇なく自らの命を絶つ。
そう、彼はあの日からこの時まで、死ぬことを延長していたに過ぎないのだ。
自ら犯した罪の重さに耐え切れず、さらに用意されたシナリオ通りに新たな罪を犯してしまったことに気づく主人公。
しかも、何があろうと守りたかった娘を、その共犯にしてしまった。
自らが味わった苦しみを等しく与えようとした復讐者はフェアーにそれを遂行した。
主人公は、そうされるべき理由が自分にあることを理解しており、それが娘をも汚してしまったことに絶望する。
スピリタスのように
僕は、復讐を果たす物語は好きだ。
主人公が、それをやり遂げることにカタルシスをおぼえる。
しかし、本作ではそうした類のものは得られなかった。
ただ、強い酒が食道を焼くように、何らかの痕跡が残っている。
後口の良い爽やかなカクテルばかりの日常には、時折こうしたスピリタスが必要だとは思うのだが…
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