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「鬼平犯科帳 本所・桜屋敷」観た人のためのレビュー「鬼平ビギンズ」

ついにU-NEXTで、鬼平犯科帳 本所・桜屋敷の配信がスタート。
池波正太郎生誕100周年を記念してリブートされたSeason 1の第1作。
火付盗賊改方長官の就任から始まる物語は、青春時代の因縁を呼び起こし、長谷川平蔵が鬼になる決意につながる。

『鬼平犯科帳』SEASON1

主演・松本幸四郎で制作する新たな「鬼平犯科帳」が2024年、ついに誕生!テレビスペシャル+劇場版+連続シリーズ(2本)の計4作品に豪華キャストが集結。新たな歴史のスタートを飾る「鬼平犯科帳」SEASON1をとくとご覧あれ!

『鬼平犯科帳』SEASON1 公式ポータルサイト|池波正太郎 生誕100年企画

テレビスペシャル「鬼平犯科帳 本所・桜屋敷」(90秒予告)

ダークナイト&ライトナイト

悪党の事情を肌で知りながら、常設のFBI SWATとも言える強い法執行機関を束ねる長谷川平蔵は、ダークナイトでありながら、ライトナイトであるとも言える。

かつて、「本所の銕」の二つ名で恐れられた無頼漢、長谷川銕三郎も、今では、長谷川平蔵として火付盗賊改方長官に就任することとなった。
悪い噂もつきまとう平蔵に身構える同心達の心を、彼は一瞬にして掴んでみせる。
圧倒的な剣の腕前、広い度量、それでいて細やかな配慮をする。
何より彼は、初対面の同心達を全てフルネームで呼んでいた。
そう、この男は、かなりの人たらしなのだ。
再会した相模の彦十が密偵を申し出るのは、決して強請られているからなんかじゃない。
それに彼には、何ともいえぬ愛嬌がある。
愛嬌のある人間は、どんなに堕ちようとも、泥にまみれることはないと狩撫麻礼も言っている。

だが、そんな彼も、本当に盗賊に加わってしまいそうな局面があった。
若さゆえの、無垢な好奇心が、その選択をさせてしまったのだ。

松岡重兵衛

すんでのところで平蔵が道を踏み外すのを止めたのは、松岡重兵衛だ。
彼こそが、高杉銀平道場で平蔵を鍛え、今ほどの腕前に育て上げたのだ。
だが、その恩人は、忽然と姿を消す。
松岡重兵衛は、厳格な身分社会では生きにくい境遇に生まれついた者だったのだ。

おふさ

原沙知絵と菊池日菜子が演じた「おふさ」はインプレッシブだった。
満開の桜のような菊池日菜子 Eraと、もう決して桜が咲くことはないと思える原沙知絵 Era。
強いコントラストを放つ生き様に、Life is …と呟くしかない。

桜は、毎年咲くだろう。
どんなに厳しい天候だろうとも、必ずそれを乗り越えて、ごく短い期間とはいえ、花を咲かせる。
では、人はどうだろう。
満開の桜を咲かせられるなんて、もしかしたら一生に一度のことなのかもしれない。
「おふさ」にとっては、高杉銀平道場の隣の桜屋敷にいた頃であり、平蔵の親友、岸井左馬之助もそれ以降、花は咲かせていない。

人の営み

松本隆によれば、時の河を渡る船にオールはないらしい。
そう、僕らは船頭もいなければ櫂もない小舟で河を漂っている。
流れに流れ、今現在は、ここに、このようにいる。

生まれついてのものもあり、意識していない選択もあり、予想外のラッキーと思いがけない不幸をくぐって、今ここにいる。
そんな人の営みを、善と悪に分別できるのは、インチキ宗教だけだろう。

だから、長谷川平蔵が、阿弥陀の松五郎と、「おふさ」と、対峙するときに人ではいられないのだ。
人であれば、これまでの彼らの営みを、人生を受け止めるしかなくなってしまう。

「それでも!
曲げられねえものは、曲げられねえ!」

そう叫んで平蔵は、人であらざるもの、鬼になることを選択する。
だって、そうでなければ刀など抜けるわけがないではないか。
ただ、その太刀筋は、抑制が効いているわりに、随分とエモーショナルなものに見えた。

「おふさ」は、本当に、あの満開の桜の頃など忘れてしまったのだろうか。
無論、人間には忘れてしまったほうがいいこと、いや、忘れると決意することのほうが幸せなこともあるけれど…

そういえば、近江屋の証文を盗み出したのは、相模の彦十の独断なんだろうか。
それとも…

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