アイビーリーグが、ナショナルチャンピオンシップに帰ってくる。
アメリカでフットボールというスポーツを確立し、いくたびも全米チャンピオンに輝いたAncient Eight が、およそ80年ぶりにポストシーズンの封印を解くことになったのだ。
Ancient Eight
そもそもアイビーリーグとは、スポーツ連盟の名称だ。
それを構成するのは、ブラウン大学、コロンビア大学、コーネル大学、ダートマス大学、ハーバード大学、ペンシルベニア大学、プリンストン大学、イェール大学。
名門大学は?と問われて、誰でもが頭に思い浮かべる8つの名門大学のバンチは、敬意をもってAncient Eight と呼ばれている。
フットボールにおけるラシュモア山は、全員がアイビーリーガーだからだ。
彼らが、アメリカでフットボールというスポーツの基盤を整備し、発展の礎を作り上げたのだ。
ウォルター・キャンプ

最初のゲームが、プリンストン大学とラトガーズ大学との間で行われた後、ルールを整備しようと呼びかけたのは、イェール大学のキャプテンだった。
11人制、スクリメージラインの設置、ダウンシステムの導入、フォワードパスを有効化するなんて、フットボールをアメリカンフットボールたらしめるルールの柱が、このとき確立した。
その後、イェール大学のヘッドコーチに就任したキャプテン、ウォルター・キャンプは、アメリカンフットボールの父と呼ばれている。
彼がヘッドコーチであった5年間、イェール大学は67勝2敗と他を寄せ付けなかった。
しかも、そのうち3年間は、無敗だ。
のちに彼は、スタンフォード大学のヘッドコーチに就任する。
そうやって、アメリカ北東部の、わずか8校から、段々に質の高いフットボールが全米に広まっていったのだろう。
エイモス・アロンゾ・スタッグ

イェール大学で選手としてウォルター・キャンプに教えを受けたエイモス・アロンゾ・スタッグは、フットボールにイノベーションをもたらした。
その全てをここに書き記せないほどの大量のイノベーションだ。
ハドルに始まり、マンインモーション、オンサイドキック、リバースプレイに、statue of liberty、そしてアンバランスライン、etc.
極め付けは、LBというポジションを誕生させたこと。
後に、シカゴ大学のヘッドコーチになった彼は、まだボウルゲームもない頃の、黎明期の交流戦で、ウォルター・キャンプ率いるスタンフォード大学を破っている。
世紀を跨ぐ大昔の話だが、エモーショナルなゲームの匂いが仄かに残ってる…
ポップ・ワーナー

コーネル大学のポップ・ワーナーは、現代のスプレッド・フォーメーションの祖とも言えるシングルウィングを編み出した。
そして何より、フットボールのリトルーグと言える、ポップ・ワーナー・フットボールの確立に貢献した。
ジョン・ハイズマン

そして、ハイズマン賞に、その名を残すジョン・ハイズマン。
ブラウン大学とペンシルベニア大学に在籍した彼は、その多才さに驚かされる。
ジョージア工科大学で、フットボールとともに野球とバスケットボールのヘッドコーチを務めていた。
しかも、フットボールでは3度の無敗シーズンを達成している。
おまけに、シェイクスピアの戯曲を演じる俳優でもあった。
従来のセンターは、ボールを転がしてプレイを始めていた。
それを現在のスナップに確立したのは、彼の力だ。
しかも、OLのプルアウトも考案している。
Ivy Group Agreement
こうした人材を輩出し続けるアイビーリーグが、長く栄華を誇っていたのも、当然のことなのだろう。
そうして彼らが、全米に質の高いフットボールを広め、カレッジフットボールが偏重されるようになると、Ancient Eightは世間と逆行する決断を下す。
ポストシーズンには参加しないと宣言したのだ。
学業が最優先であること。
それが一番大きな理由なのだろう。
日程的に期末試験と重なってしまうことがスケジュールを厳しくする。
さらに勝利優先のためにセミプロのような学生をかき集める他の大学と一線を画し、一切のスポーツ奨学金をアイビーリーグでは禁じた。
カレッジフットボールという巨大なビジネスで得られる収益よりも、守りたいものがAncient Eightには、あったのだ。
長い封印を打ち破ったのは、これまたアイビーリーガー自身の力だ。
17人の学生が、17か月にも及ぶ粘り強いロビー活動を展開し、大人たちから丁寧にコンセンサスを得たのだ。
Ancient Eightは、現在もなお、優秀な人材を輩出し続けているというわけだ。
Football Championship Subdivision
ナショナルチャンピオンシップと言っても、そのディヴィジョンは2つに分かれている。
Football Bowl Subdivisionと呼ばれるものが、オハイオ州立大学とかアラバマ大学とかの聞き覚えのあるチームが参加するものだ。
Ancient Eightが参加するのは、Football Championship Subdivision。
これは日本のように、単にチームの強さで、1部と2部に分けているというわけではない。
奨学金を付与できる人数や、観客動員数の基準などの規模で分けているというべきなのだろう。
もちろん、有名どころはFBSのチームが多い。
ただし、今年のNational Tight Ends Dayで2人も活躍するTEを輩出したサウスダコタ州立大学ジャックラビッツは、FCSに所属している。
ナショナルチャンピオンシップに最初に帰還を果たすのは、この2チームとなった。
イェール大学ブルドッグス

NEW HAVEN, Conn. – In a historic 141st edition of The Game, Yale delivered a statement at the Yale Bowl, Class of 1954 Field. The Bulldogs toppled previously unbeaten Harvard, 45–28, locking up a share of the Ivy League crown and earning the league’s automatic berth to the NCAA Division I FCS playoffs for the first time ever.
最終戦で相対するハーバード大学は、ここまで9勝無敗。
対してイェール大学は、7勝2敗。
だが、カレッジフットボールで2番目に古いライバル対決が、下馬表通りすんなり終わるわけがない。
アップセットを起こしたイェール大学は、見事勝利を飾り、Ancient Eightの優勝校として帰還を果たすことになる。

The Ivy League’s first-ever automatic qualifier bid to the NCAA FCS playoffs will be decided at The Game.
Harvard, Yale Set to Make Ivy Debut in FCS Playoffs – Ivy League
ハーバード大学クリムゾン
最後の最後にライバルにアップセットを喰らって、同率優勝とはなったものの、直接対決の敗戦により優勝校としてのFCS 出場は叶わなかった。
だが、15位にランキングされたハーバード大学は、その枠でFCS に出場することが可能になった。
トーナメント表を見ると、それぞれが対極の位置にいる。
理論上は、決勝戦で、まさにナショナルチャンピオンシップを賭けた一戦で、再選することが可能になるわけだけど…


