30年目の信託財産 シアトル・シーホークス

まさにスーパーボウルに出場しようとするチームが売却される?
そんな前代未聞の報道が流れ始めた。
創立50周年を迎えたシアトル・シーホークスが、スーパーボウル終了後に売却されるというのだ。
だが、そこには、フランチャイズの救世主の強い意志の存在があった。

1997年、彼はトラックに詰め込まれて奪われようとしていたシアトルの魂を預かった。
そして30年後、彼はそれをセカイへ還すために、完璧なパッキングを終えようとしている。

ESPNの報道

米国のスポーツジャーナリズムで最も権威のあるESPNが、2026年1月30日付で「リーグ関係者とオーナー関係者の情報」として報じました。

  • 内容: 第60回スーパーボウル(ペイトリオッツ戦)終了後に売却の手続きに入る。
  • 理由: ポール・アレン氏の遺言(スポーツチームを売却し、収益を慈善事業へ寄付せよという指示)を実行するため。
  • 背景: 2024年半ばを過ぎたことで、売却益の10%をワシントン州に支払うという以前の契約上の義務が消失し、売却のタイミングが整った。

ポール・アレン遺産財団のコメント

Multiple news outlets reported Friday that the team will go on the market after the Super Bowl, an idea contradicted by a statement from Paul Allen’s estate.

Paul Allen’s estate says Seahawks are ‘not for sale’ after reports of plans | king5.com

このESPNの報道に対し、現在チームを管理しているポール・G・アレン遺産財団(Paul G. Allen Estate)が即座に公式声明を出しました。

「私たちは噂や推測にはコメントしません。現在、チームは売りに出されていません(the team is not for sale)。

「いつかポールの遺志により状況が変わることは既に伝えていますが、現時点で共有すべきニュースはありません。今の私たちの焦点はスーパーボウルに勝つこと、そして今後数ヶ月でポートランド・トレイルブレイザーズ(NBA)の売却を完了させることです。」

チーム創立50周年

Seahawks 50 Seasons | Seattle Seahawks 50 Seasons – Seahawks.com

今シーズンのシアトル・シーホークスは、チーム創立50周年という、正真正銘のアニバーサリーイヤー。
1976年のチーム創設当時は、同じ年に設立されて1勝も挙げられなかったタンパベイ・バッカニアーズ相手にあげた1勝を含んだ、2勝12敗というミゼラブルなリザルトでシーズンを終えている。

だが、その後チームは見事に成長を遂げ、これまでスーパーボウルに3度出場し、一度は#VLTをシアトルに持ち帰っている。
そして、前回、Just One Playでフランチャイズ初の連覇を阻んだ相手との再戦となる4度目のスーパーボウル出場を決めた。

まさに、アニバーサリーイヤーにふさわしい物語を書き終えるのに、クライマックスシーンに取り掛かろうとしているところ。
そんなところでの、この報道。
これは水を差すものかといえば、そうではない。
そもそも、ポール・アレンの意思は、オープンにされていた。

公開されている遺言

今回のニュースで最も驚くべきは、彼がチームを自分の「資産」として家族に残すのではなく、「人類の資産(慈善活動の資金源)」へと変えることを死ぬ前から決めていたことです。

ポール・アレン氏の遺産を管理する「ポール・G・アレン・エステート(遺産財団)」や、彼の妹で管財人のジョディ・アレン氏が、以下の内容を公式声明として繰り返し発信しています。

  • すべての資産の現金化と寄付: ポールは「自身の資産の大部分を慈善活動に捧げる」という誓約(ギビング・プレッジ)をしていました。
  • スポーツチームの売却: 遺言には、シアトル・シーホークスとポートランド・トレイルブレイザーズ(NBA)を「最終的に売却し、その収益をすべて慈善事業(ポール・G・アレン財団)に割り当てること」という明確な指令が含まれています。
  • 妹への指令: 執行者のジョディ氏への指示はシンプルで、「適切な時期に売却し、すべてを財団へ」というものでした。つまり、シーホークスという輝かしい存在は、最終的に**「教育・環境・科学・芸術」への支援金**へと形を変えることが運命づけられていたわけです。

Seahawks Chair Jody Allen Named 12 Flag Raiser For Seahawks vs. Rams

なぜ「今」なのか?

遺言の中身自体は2018年の死去直後から知られていましたが、今回のESPNの報道で「第60回スーパーボウル後」という具体的なタイミングが浮上したのは、「法的な制約」が解除される時期と重なるからです。

  • 10%の支払い義務の消失: 1997年に現在のスタジアム(ルーメン・フィールド)を建設した際の契約で、「2025年中旬(または2024年)までにチームを売却する場合、売却益の10%をワシントン州に支払わなければならない」という条項がありました。
  • この期限を過ぎたことで、「ポールが望んだ100%の金額を慈善活動に回せる」状況が整った、というのが「一次情報」に近い文脈での読み解きです。

完璧な「最高値」での出口戦略

今回の売却予想額は 70億ドル〜80億ドル(約1兆円以上)。彼が買った時の約40倍です。しかも、第60回スーパーボウルという最高の舞台の直後に売りに出す。「シアトルを守り、最強のチームに育て上げ、最高の瞬間に手放し、その富を世界へ還元する。」
一人の天才が描いた人生の最終章のシナリオとしては、あまりにも鮮やかすぎます。

シアトルの救世主

シーホークスがシアトルと名乗れて50周年を迎えることができたのは、ポール・アレンのおかげだ。
彼がいなければ、今頃は、アナハイム・シーホークスとして、かろうじてNFC西地区に残っている程度だったかもしれない。
彼は、「シアトルというコミュニティの魂」を守るためにオーナーになったのだ。

Paul G. Allen Seahawks Ring of Honor Tribute Video

🧐 1996年:シーホークスが「消えかけた」記録

  1. 強行移転の開始 1996年2月、当時のオーナーは「スタジアムが地震に弱く、安全性に問題がある」という理由(建前)をつけて、突如シアトルのオフィスを閉鎖。チームの機材一式をトラックに詰め込み、カリフォルニアのアナハイムにあるラムズがかつて使っていた練習施設へと運び込みました。
  2. 一時的な「アナハイム・シーホークス」状態 実際にチームは数週間、カリフォルニアで練習を行っていました。NFL側はこの移転を認めておらず、シアトル側も契約違反で訴えるという泥沼の展開。もしここで誰かが止めなければ、シーホークスは今頃ロサンゼルス近郊のチームになっていたはずです。
  3. ポール・アレンの登場 この絶体絶命のピンチに、シアトルの政界や市民が「唯一、チームを救える財力と地元愛を持つ男」として泣きついたのが、ポール・アレンでした。
    • 彼は当初、スポーツチームの所有には興味がありませんでしたが、**「シアトルから宝を奪われてはいけない」**という一心で、1997年にチームを買い取るためのオプション契約を結びました。

背番号12

Behind The Noise | The Story Of The 12s

シーホークスの背番号12は、フィールドには立っていない。
しかし、対戦相手を最も悩ます存在である。

キングドームがなくなっても、対戦相手にとっての厄介ごとはなくならない。
ルーメン・フィールドというオープンエアーなスタジアムなのに、背番号12のクラウドノイズは、世界記録を更新した。

シーホークスの背番号12が、よそのチームと違っているのは、人数制限がないところだ。
1人どころか、それを名乗れば、背番号12は数万人レベルに膨れ上がる。

その#12のフラッグを、選ばれた一人がゲーム前に掲揚するのもお馴染みになった。
そうして、我らが、いやシアトルの英雄であるイチローも、その栄誉を与えられた。

Seattle Mariners star Ichiro Suzuki announced his retirement and Seahawks players show their support.

Friday Round-Up: Seattle Sports Legend Ichiro Suzuki Announces Retirement

数々の著名人も登場したセレモニーで、最も熱狂的に迎えられたのは、ポール・アレン本人が登場したときだ。
誰のときよりも大きな歓声を、誰のときよりも長い歓声を、背番号12たちは送り続けた。

信託されるシーホークス

チームは誰のものか?
なんてディベート遊びをするつもりはない。

あらためて、ポール・アレンの行動を振り返ると、それはチームを所有したのではなく、託されたのだと感じる。
声のデカさに反比例して財布の小さな #12が、でっかい財布の持ち主に託したのだ。

ポール・アレンは、文字通り、託されて守っていたのだろう。
そのフランチャイズの共有資産を。
決して所有などではなく。

世界中にパーソナルコンピューティングを広めた男は、その見返りに巨万の富を得た。
所有の限りを尽くしたことで、限度のあるヒトのライフの中で、永遠に所有できるものはないと知ったのかもしれない。
あるいは、そもそも、その高潔な考えがあったから成功したのか…

ともあれ、彼は、そのでっかい財布を、フランチャイズのチームにとどまらず、慈善活動に当てることになる。
それはまた、セカイのヒトを、信じて託すということなのだろう…

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