2012年は、我らが『007』50周年記念の年として記憶されるべきものである。
そのおかげで我らが「トップ・ギア 」でも「ボンドカー・スペシャル」が制作され、年をまたいだ2013年、やっとこさ日本でも放送された。
あんなに皮肉っぽく辛辣な番組が、こんなにも好意的に憧憬をもって制作されたのは初めてのことではないだろうか。
BBCとMI6という英国を代表する二大組織は、どうやらお互いに敬意を持っているらしい。
しかもそのおかげで、ボンドが乗ったという事実だけで、シボレーでさえ皮肉の攻撃対象にはなっていなかった。
だが、ボンドに数作品にわたって愛用されていた事実があるにもかかわらず、BMWに対しては風当たりが強く、存在自体の意味が分からないと真っ向から否定されていた。
やはりジョンブルはジョンブル。
ボンドの存在だけでは、長年のゲルマン嫌いは隠せないらしい。
番組では、ボンドカーの歴史を、原作での愛車も含め貴重なインタビューとともにしっかりと振り返っていた。
そしてボンドカーという存在を確立した「アストンマーチン・DB5 」についても。
当時、2作公開済みで人気を博しつつあった程度の007では、アストンマーチンの役員様達には認知されることもなく、タイアップどころか定価で売りつけられそうになったらしい。
結論から言うと、この番組は永久保存版といってよいくらいのオリジナリティと深みがある。
とおりいっぺんの回顧や番宣ものではない。
「トップ・ギア 」のスタッフは、普段の悪のりと毒を封印して、英国最大のヒーローに真摯に向かい合って番組を制作している。
英国民自身が、ボンドをどのように見ているのかという姿勢がよく理解できる。
そう、ガキの頃から憧れている対象に、悪ふざけなんて出来るわけがない。
さて、番組を見て僕なりのトピックスを3点お伝えしたい。
1.ロジャー・ムーア卿のインタビュー
シリーズ7作品に出演し、現時点では6人のボンドの中では最多出演を誇る。
(「ダニエル・クレイグ」が後5作品の契約延長をし、合計8作品となることから、順調に行けば最多出演記録は更新されることになる。)
我らが「ロジャー・ムーア 」は、「サー」の称号も与えられ、紺のジャケットに白いチーフそして白いパンツ、とても80歳半ばとは思えない出で立ちでしっかりとインタビューに答えていた。
世代的に彼のボンドに一番馴染みがあるのだが、ふざけすぎるそのスタイルに、あまり好きにはなれず、どちらかというとシリーズを凋落させた「ゲシュニン」と僕は捉えていた。
原作者の「イアン・フレミング」が一番イメージに近いとお気に入りだったそうだが、もし彼が一作目から主演していたら、50周年を迎えられたかどうかわからない。
そして彼の口をついて出た言葉は
「僕のボンドは諜報員などではなかったね。ただ世界中の酒場で名前を知られているだけの男さ。」
このインタビューで、僕はすっかり彼を許す気になった。
ああ、この人はわかっていたのだなと。
おふざけ演出は、彼本人だけのせいではない。 当然のことながら。
自分の立ち位置を客観的に捉えて自嘲しながら、ややマンネリになりつつあったシリーズをしっかりと次世代にまで生き存えさせる役目を果たしたのだ。
しかし、それは認めたくない。
だってそれを認めたら、彼主演の『007 ドクター・ノオ』も見てみたかったという、もはや実現不可能な願いが湧き出てしまうもの。。。
2. ザ・スティグが007に出演していた
「ザ・スティグ 」といえば、BBCが裁判を起こしてまでその実名を秘匿しようとする存在。
番組をご覧のみなさんはよくご存知のように、一言も声を発することなく、ポンコツの乗用車からフォーミュラーマシンまでなんなく操る凄腕のドライバーである。
「ベン・コリンズ 」がその2代目であると番組内で明かされた。
なんと彼は、カーチェイスシーンでは僕が最も好きな『007 慰めの報酬 』 でスタントドライバーをつとめており、最新作『007 スカイフォール 』ではカーチェイスシーンの演出まで手がけているようだ。
僕のスキなものが、こうして裏でつながっていたことは、なんだかとてもうれしい。
そして実名公表でBBCと揉めていた彼が、こうして番組に出演し共演者と談笑している光景も麗しい。
「リチャード・ハモンド 」が、「彼が教えるのが上手いのはよく知っている」と微笑みながら発言するあたりに「ベン・コリンズ 」の人柄があらわれているのかもしれない。
3.そしてロータスは潜行した!現実に!
さて当番組の最大の目玉。
ボンドカーの特殊機能を現実的に再現できれば、それこそがボンド50周年に対する最大のお祝いになる!
ということでわれらが「リチャード・ハモンド 」が選んだ機能は、よりによって潜水だった!
かつて『007 私を愛したスパイ 』に登場し、潜水艇になる「ロータス・エスプリ 」!
これを再現しようと言うわけだ。
予算的にベースとなる車体は「ロータス・エクセル 」に。
番組ではよく水陸両用車を造っては挫折している。
(なにしろあのドーバー海峡を渡ろうって企画まであったくらいだ。)
だから今回も全く期待していなかった。
ぶくぶくと沈むシーンをシニカルに眺めながらエンディングだなあと。
ところが、それは現実に潜行したのだ!
これは是非、動画をじっくり楽しんでほしい。
4.おまけ
「安くボンドカーを作ろう!」という通常番組内での企画