このストーリーが、どのようなエンディングを迎えるのか?
この事態が、どのように収集するのか?
毎週、消化できない小骨がひっかかって、ついつい最後まで見てしまった山田孝之のカンヌ映画祭。
穏やかなラストにホッとしたのも束の間。
彼の祭りは、終わっていなかった。
カンヌでパルム・ドールを獲るためだけに
目的は映画を撮ることではなく、カンヌでパルム・ドールを獲ることだった。
【あらすじ】
2016年夏山田孝之は、映画監督山下敦弘を呼び出す。山田は山下に、世界最高峰のカンヌ映画祭で賞をとりたいと告げる。後日、とある場所で集まった山田と山下は、早速映画の内容について話し始めた。【みどころ】
2017年1月クール毎週金曜(深夜0時52分~深夜1時23分)は、山田孝之が「カンヌ映画祭」に向けた映画制作の過程を記録したドキュメンタリードラマ「山田孝之のカンヌ映画祭」を放送します。山田は映画監督山下敦弘を呼び出し、「(映画の)賞が欲しい」と告げる。しかも、世界最高峰のカンヌ映画祭で賞をとりたいという。山田と山下の「カンヌ映画祭」に向けた映画制作がスタートする。 この番組は、映画制作に奔走した山田孝之の2016年夏の記録として、山下敦弘と友人のドキュメンタリー監督・松江哲明と共に作品化しました。山田孝之がつくる映画とは一体どのような内容なのか、「山田孝之のカンヌ映画祭」として皆様にお届けいたします。
狂気のドキュメンタリー⁈
いささか不純ながらも、至極真っ当な目的で始まったドラマは、僕らを徐々に混迷の沼に引きずり込んでいく。
フィクションにしては、あまりに出演者の感情がむき出しすぎる。
ドキュメンタリーにしては、あまりに狂気に満ちている。
実在を鵜呑みにできないような登場人物たちが、そちら側のセカイの狂気をいっそうリアルに仕立て上げ、こちら側のセカイとは切り離されていく。
「首くくり栲象」という首吊りのプロが登場し、村上淳は出演のために首吊りの練習を自らに課すようになる。
首くくり栲象
アクショニスト
1969年に初めての首吊り行為(アクション)を行い1997年より20年間 毎日自宅の庭で首を吊り続けている2016年には インド・ケーラ国際演劇祭に参加し大きなマンゴーの木で首を括るアクションを披露した
出資者が見つからないことに焦った山田孝之が見つけてきたのは、金回りが良さそうなガールズバーのオーナー。
しかも見つけたのはTwitter!
それも、自分の大ファンであるという彼の言葉につけこんで…
稲垣歩駿
合同会社Temper Horse CEOGirls BAR G-girls オーナー
シナリオもないままクランクイン
シナリオどころか、プロットも定まらないままクランクインを迎えることになる。
唯一の拠り所は、山田孝之の言葉を長尾 謙一郎が描いたイメージのみ。
主演の芦田愛菜の母親「さちこ」役は、オブジェがつとめることになった。
出演予定の長澤まさみは、全体像がつかめないまま「とにかく重要だから、脱いでくれ!」というオファーに納得することができなかったのだ。
その縁で、彼女が番組のナレーターをつとめていたことも途中にようやく明かされるのだが。
芦田愛菜という大人
芦田愛菜はプロの女優だ。
しばらく見ない間に大人びたからというわけではない。
彼女は、プロデューサー山田孝之の依頼にNOを突きつけない。
その依頼を咀嚼し、なんとか表現しようと応じるのだ。
その姿勢は、自らの母親役がオブジェと決まってからも変わらなかった。
狂気の依頼も表現者として乗り越えてみせるという気概に満ちていた。
しかし、いよいよ現場が混乱し、更迭された山下敦弘監督がオブジェを爆破し、事態を収集できない山田孝之に、彼女が刃のようなひとことを突きつける。
「山田さん、何がやりたいんですか?」
ブレにブレ、揺れに揺れ、表現することが明確になっていない山田孝之は、見透かされていることを感じてか長い沈黙でしか答えられない。
それを見守った彼女は、「ごめんなさい」と背を向けて歩き出す。
きっと彼女は、「さようなら」と発音したのだろう。
しかし、山田孝之が故郷を訪れ、父親と再会する中でひと皮むけると、それを敏感に優しく受け止める。
「山田さん、変わりましたね」
と微笑みながら。
これが大人の女優の振る舞いでなくてなんだというのだろう。
それは、共演者お二人のコメントにもよくあらわれている。
山田孝之
2016年、僕と山下さんは手を取り合い、衝突を重ね、決別し、再び手を取り合い一つの映画を完成させました。この映画には僕の今までの人生とこれからの全てが詰め込まれています。それを引き出せたのは山下さんとの関係無しでは成せないことでした。そして、その全てを見届けてくれた芦田さん。僕は芦田さんと出会ったことでたくさん失い、たくさん発見することができました。いつか芦田さんのような大人になるため、山田孝之は現実をぶち壊し続けて生きていきます。山下敦弘監督
山田孝之くんとこの三年間いろいろなことがありました。「真剣じゃないと芝居が出来ない」から始まり、しまいにはナパーム爆破してからの逃亡…。山田くんとは二度と映画は作れないんじゃないかと諦めていましたが、この度、芦田愛菜さんのおかげで一本の映画を作ることが出来ました。これは人間、山田孝之と山下敦弘のけじめとしての映画です。どうか皆さま劇場で見届けてください。この映画を芦田愛菜さんに捧げます。
そして彼女は、僕らにとっても重要な存在だった。
ついつい狂気の世界に引き摺り込まれそうになる中で、彼女が勉強したり、花火を無邪気に楽しんだりする姿が、僕らをこちら側の世界にとどめておいてくれたのだ。
もし、そうした清涼剤の存在がなかったら、とてもじゃないがこんなにアクの強いもの、付き合い続けることはできなかっただろう。
映画 山田孝之3D
そうしてドラマはあたたかくエンディングを迎える。
山田孝之がカンヌの出品フォームに作品名を打ち込む姿は、明るい未来の象徴だ。
ところが、それは演出ではなかった。
彼の祭りは、まだ終わっていなかったのだ。
まさか本当に映画が完成しているとは思わなかった。
そして鑑賞には、ある種のボーダーを超える覚悟が必要だろう。
松江哲明監督
山下くんから「山田くんが自分を題材にした映画を撮りたいと言ってるんだけど」と相談され、カメラ目線でこれまでの人生を語る山田孝之を見た時、この映画は彼の脳内にダイブするようなドキュメンタリーにしなければならないと覚悟を決めました。山田くんが目からビームを発しながら訴えてくるからです、「もっと飛べ!」と。僕の勘違い、または洗脳されていただけかもしれませんが、3Dだからこそ効く体感映画が完成してしまったと自負しています。あの目力に注意してご覧ください。
どうやらこれを見ない限り、ひっかかった小骨は取り除くことができないようだ。
降参して、劇場でけりをつけるしかなさそうだ。
ドキュメンタリーかフィクションか
ところで、これはドキュメンタリーだったのかフィクションだったのか?
僕には、とても解明できない…
かわりに、松江哲明監督自身のツイートを紹介して締めくくるとしよう。
https://twitter.com/tiptop_matsue/status/845048348016988160
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