ハッピーエンドに違いない。
007 スペクターに散りばめられた女王陛下の007との符合は、僕に大いなる悲劇しか予想させなかった。
そんな僕にとって、これはハッピーエンドに違いない。
そう感じるのは、僕が男の端くれであるからかもしれない。
愛する女の最後の顔
脳裏に焼きつく、その女の、愛する女の最後の表情がどんなものであったか。
それは、男の人生を決めてしまうのなのかもしれない。
女王陛下の007で目にしたそれは、銃撃で死に絶えてしまった冷たい表情だった。
大団円だ。 これは大団円に間違いない。 これまでボンドを苦しめてきた数々の宿敵の黒幕であるSPECTREがようやく姿を現し、そしてそれはボンドによって壊滅に追いやられた。 しかし、行きすぎたほどのハッピーエンドは、ちりばめられた女王陛下の007との符合と相まって、次の大いなる悲劇しか予想させない。
情報源: 「007 スペクター」見た人のためのレビュー(1)「女王陛下の007との符合と次回作」 | ALOG
しかし、今回、ジェームズ・ボンドが目にしたそれは、たいそうあたたかいものだった。
愛する女が微笑む姿を眺めるのは、幸福だ。
愛らしい娘の姿を眺めるのは、幸福だ。
そして愛しいもの同士がお互いを愛しむ姿を眺めるのは、至福に違いない。
ボンドの脳裏に焼き付いた愛する女の表情は、眩い光よりもあたたかいものだった。
そうした幸福な光景を拝めるのは、男冥利に尽きるというものだ。
誇れる父親
そしてボンドの姿は、マドレーヌ・スワンにとって初めて接する誇れる父親像だった。
彼女は、あのミスター・ホワイトの娘なのだ。
僕が懐かしかったのは、意外な人物。 ダニエル・ボンドのシリーズにおいて準レギュラーと言っていいミスター・ホワイト。 スペクターの幹部でありながら、結果的とはいえ、ジェームズ・ボンドの命を救い、重要な情報提供を行う。 彼がいなければ、ジェームズ・ボンドも他のダブルオー・エージェントのように早死にだっただろう。
情報源: 007/ノー・タイム・トゥ・ダイ「15年の長い旅路を3分に凝縮した濃密な動画を公開」 | ALOG
スペクターの幹部として非合法で多くの人の命を奪うことを生業としていた父。
そんな父の存在のせいで、自らも殺される危機に瀕し、何よりも母親を目の前で殺害されてしまった。
もし娘の、マチルドの父親がそのような存在であったなら、マドレーヌは、そんな男の物語を語れるわけがない。
ボンドが、マチルドの父親が、娘にしたのは、リンゴを与えることやセーターを巻いてあげることだけではなかったのだ。
だから、これから何年もかけて彼女は娘に物語を聞かせることになるのだろう。
世界の多くの人命を救うために自ら命を捧げることを厭わなかった父親の話を。
出だしは、こうだ。
「名前はボンド。ジェームズ・ボンド。」
そう、時間はたっぷりあるのだから。