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2025 Army-Navy Game 唯一のゲームである理由

もう、驚くことはない。
126回目の陸軍士官学校 vs 海軍兵学校の一戦は、いつも通りのゲーム内容だった。
インチをめぐってボールは動かず、ヒットできないものは、指一本で絡みつく。
そう、いつも通りのゲーム内容だった。
だが今年、このゲームが唯一のものである理由に、初めて気づかされた。

126th

1890年に、先んじてフットボールを始めていた海軍兵学校をウェストポイントに招いてゲームに臨んだ陸軍士官学校は、24-0の完封負けを喫した。
そして翌年、アナポリスに乗り込んだ彼らは、海軍兵学校を相手に勝利を挙げる。
こうして、この相手にだけは負けられないという、お互いにとっての宿敵が誕生することになる。

以来、独特の様式と、独特の手順を遵守しながら、今日まで続けられてきたゲームは、今年で数えて126回目ということになる。

持ち込みのフライオーバー

異例中の異例なのが、2種類のフライオーバーを拝めることだ。
なぜなら、出場チームが、それぞれ自前でフライオーバーを持ち込むからだ。

創設250周年のユニフォーム

例年、この日、この対戦のためだけに着用するスペシャルなユニフォームが用意される。
アメリカ陸軍、アメリカ海軍共に創設250周年を迎える今年、そのモチーフは重厚なものとなった。

Army1775

ユニフォームの印象をミニマルにしているのは、そのユニフォームのカラー。このマーブルは、文字通り、大理石のカラーだ。それは、アーリントン国立墓地の墓石の色なのだ。

2025 Army-Navy Game「 Army ユニフォーム 1775」 | ALOG

Navy250

現在では、290隻もの艦艇を抱える世界最大最強の海軍だが、最初に議会から与えられたのは、わずか6隻のフリゲート艦隊に過ぎなかった。その中で、合衆国憲法の名前を持つUSS コンスティチューションは、現存している。

2025 Army-Navy Game「 Navy ユニフォーム Navy250」 | ALOG

アーリントン国立墓地の墓石のマーブルを身に纏ったArmyと、アメリカ海軍で敵を沈めた経験のある唯一の現役艦であるUSS コンスティチューションをモチーフとしたNavyの戦い。
加えて、ジャージのタイポグラフィーは、世界最古の成文憲法であるアメリカ合衆国憲法のスタイルが用いられている。

そうして厳格さと重厚さは、そのプレイ選択にもあらわれている。
両チームとも、ランプレイが占める割合が、およそ80%。
しかも、そのうちの70%はQBがキャリーする。
彼らは、スライディングなど選択しない。
故に、NFLで目につくようになった釈然としないイエローフラッグを誘発することもない。

STOP THE ホルバート

Armyのプランは明快だった。
昨シーズン、最優秀OLユニットとハイズマン候補のQBを擁して優勢だったArmyを打ち破ったのは、Navy QB ブレイク・ホルバートのランだった。

この日、輝いたのは、ブレイク・ホルバート。便りなさげに見えながら、25回もボールを持って、ひょうひょうとランだけで204ヤードも稼ぎ出した。アベレージは8.2ヤード!

情報源: 2024 Army-Navy Game 「ジョリー・ロジャーの凱旋」 | ALOG

昨年の恨みを晴らすため、いや、何より、この日、勝利を飾るために必要なことは、こいつを走らせないこと。
ウェストポイントで立案されたプランは、この日、正確に実践された。

この日のブレイク・ホルバートは、34回ボールを持って、去年の半分の107ヤードしか稼げなかった。
アベレージは3.1ヤードと、去年の4割にも届かない。

昨年の対戦で勝利を決定づけた、別の男の存在もArmyは忘れていなかった。
昨年、ワンポゼッション差に、にじり寄ってきたArmyを振り切るために、Navyはリードしていながらギャンブルに出た。


その張本人、NT ランドン・ロビンソンはオールアメリカンにも選出され、今年も出場している。

このゲームの序盤、とてもまだギャンブルはないだろうという場面で、パントチームに入っていたランドン・ロビンソンをArmyは5人がかりで取り囲んでチェックしていた。
復讐などではない。
警告したのだ。
俺たちは見ているぞと。
だから、余計な選択をするんじゃないぞと。
Well、ここのところ流行っている言葉で言い換えれば、それは、「抑止力」を効かせたということになるのだろう。

Goal Line Stand?

結局、ゲームは、例年お馴染みの状況になっていく。
第4Q、ワンポゼッションを巡って、エンドゾーンまでインチの状況で睨み合うという状況に…

僕は、2年前の対戦を思い出していた。
ラストプレイで逆転を狙うNavyが選択したのは、Tush Push
Navyは1.5ヤードを押し込んだが、Armyは、0.5ヤードを死守した。

2023 Army-Navy Game 「米軍発祥の地のA Game of Inches」 | ALOG

そのとき、ArmyのLBとして大活躍し、PLAYERS OF THE GAMEに選出されたカリブ・フォートナー。
最上級生となった彼は、キャプテンに選出され、この日もNavyの前に立ちはだかった。

結局のところ、Tush Pushを防ぐには、ボールを掻き出すしかない。
ウェストポイントでの立案どおり、作戦は見事に遂行された。
ボールを奪うことはできなかったが、Navyには致命的な状況が残された。

ただ、ただ、同じく最上級生となったブレイク・ホルバートが、ここにしかないパスを決める。
わずか7本しか決められなかったうちの最後のパスは、困難な状況を打破するものだった。
もっとも、来年から違う制服に身を包む彼は、この先、もっと困難な状況での判断を求められることになるのだろうが…

特別なゲームである理由

受け継がれてきた伝統と様式。
真っ向勝負の肉弾戦は、極めて激しいが、卑怯なプレイは見当たらない。
根底にある相手へのリスペクトが、トーンティングなんて見苦しい振る舞いを遠ざける。
これらが、僕が、このゲームを特別だと感じる要素なのだろう。

だが、今年、CBSが作成したイントロを見ていて、初めて気づかされたことがある。
それは、このゲームが特別どころか、唯一の存在である理由だ。

フィールドにいる全員が、いつでも誰かのために命を投げ出す覚悟ができている。
このフィールドには、そうした選択をしたものしか存在しないのだ。
そんな者同士で対戦するゲームの存在を、僕は他に知らない…