1931年に誕生し、現在も販売され続けているワルサーPPK。
世界で最もフェイマスな小型拳銃であるのは、あの世界で最も有名なスパイがタキシードの下に隠し持っていたからだけではない。
彼らのような職業、インテリジェンス業界の人間に必須の機能をもたらした革命的な銃だったのだ。
何せ、ジョンブルがゲルマンの作った銃を正式に採用したくらいなのだから。
だが、その銃は、英国人が最も必要な場面で機能しなかったという汚名を着せられることになる…
英国諜報機関が自国の拳銃ではなくワルサーPPKを選んだ本当の理由
ジェフリー・ブーストの手紙
ジェームズ・ボンドが、イアン・フレミングが、この銃を使用するきっかけは、一通のファンレター。
このシリーズを愛読していたジェフリー・ブーストいう銃器の専門家が、ボンドがベレッタの25口径を愛用しているのは、ふさわしくないと手紙につづったのだ。
「それは、ご婦人が使うような銃です。」と。
イアン・フレミングは、この提案を喜んで受け入れ、小説の第6作となるドクター・ノオから、ボンドに持たせることになった。
そうして、ジェフリー・ブーストは、のちのQのモデルとなった。
コンシールド・キャリーとダブルアクション
ワルサーPPKが誕生した頃、イギリスがリリースしたのはエンフィールド・リボルバー。
そのでっかい蓮根は、戦場でなら、誰の目も憚ることなく機能するはずだ。
だが、サヴィル・ロウであつらえたスーツの下にはおさまらない。
ブローニング・ハイパワーは、蓮根よりもスマートにキャリーでき、その上13発のファイヤパワーを誇る。
しかし、シングルアクションだった。
安全にキャリーするには、薬室に装填していない状態にしておかなければならない。
だが、そうなると、スライドを引いて第一弾を装填する必要がある。
では、装填したままコック状態で持ち歩くとなると、危険が伴う。
ハンマーを下ろした状態にしておいたとしても、今度はハンマーを起こす手間が必要になる。
だから、ワルサーPPKのダブルアクションが有効なのだ。
装填したままで、ハンマーを寝かせたままでも、引き金を絞るだけで、即座に第一撃を放つことができる。
その、0.5秒の反応を惜しむ人たちには、必須のものとなった。
第二次大戦で工場を破壊されたフリッツ・ワルサーは、ライセンス生産を積極的に行い、PPシリーズの生産は500万丁にものぼった。
されに、それに加えてマカロフ等のコピー品もある。
その、コンシールド・キャリーとダブルアクションの有用性から、西ドイツのBNDや、イスラエルのモサド等のインテリジェンス業界に採用が広まっていった。
では、肝心の英国情報部では、どうかといえば、そこには確証がない。
プレスリリースなるものが存在しないからだ。
だが、ロンドン警視庁王室警護本部は、正式に、これを採用していた。
しかし、英国人が、最も必要とする場面で、ワルサーPPKは、信頼を失うことになる。
アン王女誘拐未遂事件
1974年、当時、23歳だったアン王女が、誘拐目的の犯人に襲撃された。
ただ一人警護にあたっていたロンドン警視庁王室警護本部のジェームズ・ビートン警部は、直ちにワルサーPPKを抜き出すと、第一撃を放った。
だが、2発目が放てなかった。
ジャム、すなわち装填不良を起こしたのだ。
そのせいで、彼自身も含め死傷者が生まれることになる。
通行人のおかげで、アン王女は難を逃れることができたが…
このケースを分析したロンドン警視庁は、より信頼性の高いリボルバーに回帰することを決意し、S&W M36に切り替えることになった。
だが、それは銃のせいではなかったことが、この動画についたコメントで明らかになった。
要約したコメントは、こちら。
【要約】1974年のアン王女誘拐未遂事件におけるワルサーPPK不具合の真実
- 事件当日の銃の状態:現場に駆けつけた元警察官の証言によると、不具合を起こしたワルサーPPKの銃身にはポケットの糸くず、グリース、さらに丸めたバスの切符が詰まっていた。弾薬も火薬が抜かれており、正常に発砲できる状態ではなかった。
- 管理・点検の不備:武器は警察署のプールから点検や整備もされないまま貸し出されており、警護官も事前の点検を怠っていた。銃自体の欠陥ではなく、完全な管理不足と手入れの怠慢が原因である。
- 組織の対応と真相:警視庁幹部はこの不備を把握していたが公表せず、内務大臣は「マガジンスプリングの欠陥」を表向きの理由にして警察でのワルサー使用を禁止した。
- 救出の経緯:現場でアン王女を救ったのは警護官ではなく、勇気ある行動をとったボクサー(ロニー・ラッセル氏)であった。
つまり、銃自体の問題ではなく、そのメンテナンスを怠っていた警察自体の失態ということになる。
どうせ深刻な事態は起きないだろうと、満足な警護訓練も実施されていなかった。
そんなこんなの失態を、ロンドン警視庁の上層部は、ワルサーPPKに全部おっかぶせたのだ。
島国のメンタリティーとは、やはり似通うところがあるのだろうか。
僕は、安倍元首相の暗殺事件を思い出す。
結果から言えば、警護訓練の不備が、あの結果をもたらしたのだ。
アン王女は、今も、ご健在だが、安倍さんは、あの日から不在のままだ…
次のジェームズ・ボンドは…
ワルサーPPKが、これだけ長く愛用されるのには、当時としては画期的なNext Genの機能を兼ね備えていたからなんだね。
そうして、フェイマスに愛用されるようになって、すっかりアイコンにまで格上げされた。
最近じゃ、VIVANTでリュウ・ミンシュエンも使用してるし…
そういえば、そろそろ次のジェームズ・ボンドも決まるような決まらないような…
次のボンドもワルサーPPKを愛用するのだろうか。
ダニエル・ボンドの最後の最後も、ワルサーPPKが守ってくれたけれど…

007 ノー・タイム・トゥ・ダイ観た人のためのレビュー(5)「ワルサーPPKとコンシールドキャリー」 – ALOG
ただ、リリースから、まもなく100年の銃じゃあ、流石にクラシック過ぎる気もするよね。
誰か、ジェフリー・ブーストのように、バーバラ・ブロッコリに手紙を書いてくれないものだろうか。
あ!そうか!
もう、Amazon MGMスタジオの制作になるんだっけか。
それじゃあ、手紙の宛先は、もう、わからないかもね…



