現在でも、9mmの拳銃は、あちこちの公式機関で正式に採用され、そのマンストッピングパワーの不足を公式に指摘して.40 S&W弾を正式採用していたはずのFBIも、9mmに回帰している。
マンストッピングパワーの不足は、もはや、論点にならなくなったのだろうか。
まずは、そのきっかけとなった1986年のマイアミにおける伝説の銃撃事件を振り返ってみよう。
1986 FBI Miami Shootout
重武装した元米軍陸軍兵の二人の凶悪犯を追跡していた8人のFBI捜査官は、銃撃戦に突入。
わずか5分間の銃撃戦で、双方が撃ち合った弾数は140を超えるという激しいものだった。
だが、FBIが着目したのは、その激しさだけではない。
捜査官の放った銃弾が、犯人の致命部位に命中しながら、犯人を倒すことができなかったのだ。
犯人は、そのまま銃撃を再開し、さらなる死傷者を生み出した。
極限状況におけるアドレナリンの作用を考慮する必要はある。
しかし、犯人の胸部に命中した銃弾は、ペネトレートが不十分で心臓に到達できなかったのだ。
それは、FBI捜査官のオートマチックピストルから放たれた9mm弾だった。
そうして、FBIは、プロトコルの見直しに着手する。
弾薬の見直しを、その筆頭項目として。
10mm Autoから.40 S&W
FBI弾薬テストプロトコルの策定
「致命部位に着弾しながらターゲットを即時停止できなかったのは弾薬の性能的敗北である」と結論づけられ、中間障壁を通過しても12〜18インチ(約30.5〜45.7cm)に達する貫通力を義務付けるFBI弾薬テストプロトコルが創設されました。
1986年のマイアミ銃撃事件後、FBIが導入した10mm Auto弾の実運用上の課題から、より扱いやすい .40 S&W弾が生まれた経緯は以下の通りです。
1. 10mm Auto弾とS&W Model 1076の採用
マイアミ事件での9mm弾の貫通力不足を受けて、FBIは高い運動エネルギーと優れた障壁貫通力を持つ10mm Auto弾に着目し、1989年にこれを標準口径として採用、専用のS&W Model 1076拳銃を発注しました。
2. 10mm Autoが直面した3つの深刻な課題
しかし、実戦配備や訓練が進むにつれて以下の問題が露呈しました。
- 強烈な反動と制御難: フルパワーの10mm Auto(180 grainで初速1,200 fps以上)は反動とマズルブラストが非常に激しく、多様な体格や手の大いさを持つ捜査官が高ストレス下で連射・制御することが困難でした。
- 銃器の大型化と重量増: 10mm Autoは薬莢長が長いため(.45 ACPと同等サイズ)、銃身やグリップフレームを大型化・重量化せざるを得ず、私服捜査官の日常携帯や手へのフィット感に難がありました。
- 作動不良と耐久性不全: 強烈な反動エネルギーはS&W Model 1076のスライドやフレームに過度な負担を与え、現場で作動不良やジャム(作動不全)が多発しました。
3. 減装弾「10mm FBI Lite」の考案
反動とメカニカルトラブルに対処するため、FBI弾道研究施設は10mm Autoの装薬量を減らし、180 grain弾頭の初速を約950〜1,030 fpsまで落とした減装弾「10mm FBI Lite」を独自開発・支給しました。テストの結果、初速を落としたこの減装弾であっても、FBIプロトコルが要求する12〜18インチ(約30.5〜45.7cm)の貫通力を十分に達成できることが科学的に証明されました。
4. 短薬莢化による「.40 S&W弾」の誕生(1990年)
この減装弾の成功を受けたスミス&ウェッソン(S&W)社とウィンチェスター(Winchester)社は、「減装弾の装薬量であれば、10mm Autoの長い薬莢は不要であり、短縮できる」という点に着目しました。 両社は1990年、10mm Autoの弾頭径(0.400インチ)と弾道性能(180 grainで初速約950〜1,000 fps)をそのまま維持しつつ、薬莢長を25.2mmから21.6mmへ短縮した「.40 S&W弾(10×22mm口径)」を共同開発・発表しました。
5. .40 S&W弾のメリットと全米への普及
.40 S&W弾は薬莢が短くなったことで、9mmパラベラム弾と同等サイズの小型・中型拳銃フレームに収めることが可能になりました。これにより以下の利点が得られました。
- 女性や手の小さな捜査官でも握りやすいグリップサイズを実現できた。
- ダブルスタック(複列)マガジンを採用することで装弾数を増やせた。
- 9mm並みの扱いやすさと、.45 ACPに近い創傷効果・貫通力を両立させた。
結果として、信頼性不全に陥った10mm Auto(S&W 1076)の運用は短期間で打ち切られ、FBIは1997年にGlock 22/23(.40 S&W)を正式採用しました。さらに.40 S&Wは「理想的な法執行機関用カートリッジ」として全米の警察機関へ急速に広まり、2010年代に9mmへと回帰するまでの約20年間にわたりアメリカ警察のデファクトスタンダードとなりました。
Bren Tenとソニー・クロケット
横道に逸れるけれど、10mm Autoといえば、マイアミ・バイスのソニー・クロケット刑事の代名詞だった。

Miami Vice – Season 2 – Internet Movie Firearms Database – Guns in Movies, TV and Video Games
強烈な反動をものともせず、そのマンストッピングパワーを遺憾無く発揮するのは、銃のエキスパートであるソニー・クロケットのキャラクターにピッタリだ。
だが、その強烈な反動による作動不良が相次ぎ、ホンモノのBren Tenは製造中止に追いやられてしまう。
その結果、ソニー・クロケット刑事も、45口径のSmith & Wesson 645への変更を強いられることになってしまったのだ。

Smith & Wesson 645 – Internet Movie Firearms Database – Guns in Movies, TV and Video Games
FBI 9MM Justification
弾丸におけるテクノロジーの進化に伴い、9mm弾の再評価テストを実施していたFBIは、『9mm採用の正当性(FBI 9MM Justification)』と題する内部報告書を作成し、9mmの正式採用に回帰した。
その目玉は、マンストッピングパワーという神話の否定だ。
1. 弾頭工学の進化(2007年以降の技術革新)
1986年当時の9mmホローポイント弾(Winchester Silvertip 115gr)は、自動車ガラスや厚手の衣類などの中間障壁を通過する際に過度に潰れ、十分な深さまで貫通できませんでした。しかし2007年以降、鉛芯とジャケットを結合させるボンデッド・コア(Bonded Core)技術や開口部の閉塞を防ぐ弾頭構造(Speer Gold Dot G2 や Hornady Critical Duty など)が飛躍的に発展しました。これにより、現代の9mm弾は中間障壁を通過した後でも、FBIプロトコルが求める12〜18インチ(約30.5〜45.7cm)の理想的な貫通力を安定して発揮できるようになりました。
2. 「失敗したのは口径ではなく弾頭選定だった」という検証
FBI弾道研究施設(BRF)の専門家らによる検証で、「1986年に失敗したのは9mmという口径そのものではなく、当時の不適切な弾頭設計・選定であった」という結論が科学的に定立されました。
3. 「ストッピングパワー神話」の科学的否定
2014年の報告書において、拳銃弾の速度域(初速2,000 fps未満)での「一撃無力化効果(ストッピングパワー)」は科学的根拠のない神話であると明確に結論付けられました。拳銃弾による無力化の唯一の物理的要因は主要器官への到達(貫通)と永久創傷孔による出血のみであり、現代のプレミアム弾薬を使用した場合、9mmと.40 S&Wや.45 ACPが体内に残す創傷効果の差は実質的に存在しないことが証明されました。
4. 高ストレス下での命中率・追撃速度のデータ実証
実戦射撃データでは高ストレス下で捜査官のミスショット率が70~80%に達することが示されています。そのため、一発あたりの威力の微差よりも「初弾および追撃射撃の速さと正確さ」が生存率を左右します。FBIの内部テストデータにより、反動がマイルドな9mmを使用させた方が、多様な性別・体格の捜査官グループ全体において明らかに射撃速度と命中精度が向上することが確認されました。
5. 2014年メモから2015〜2016年の正式配備へ
これらの実証結果をまとめた2014年の内部メモ(Justification Memo)が決定打となり、FBIは2015〜2016年にかけて、新たな標準ピストルとしてGlock 19M / 17M(9mm)およびSpeer Gold Dot G2 147gr(およびHornady Critical Duty 135gr +P)の正式採用を決定しました。


Buy Gold Dot G2 9mm Luger Ammo | 147 Grain, 1020 FPS | Speer
魔法の一撃という神話
9mmと45口径で、マンストッピングパワーに差異がないというのは衝撃だった。
いや、そもそも、そんな用語も、魔法の一撃も存在しないということか…
ターミナル・リストのリース少佐とブーザーが、これを知ったら、どんな顔をするだろう。
彼らの貴重な酒の肴を奪ってしまうことになるかもね…
しかし、9mmと.40 S&Wの反動の違いが、そこまで射撃速度と命中精度に影響しているというもの驚きだ。
反動って、バカにできないものなんだね。
取り回しのしやすいもので、正確に素早く射撃する。
そして、二の矢を素早く放つ。
これが、最も重要だということなんだね。
これでEDCには、安心して9mmを選んで大丈夫。
ただし、ケチらずに弾丸は適正なものを!
…なんて、日本人の僕には関係ないけどね。
