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ビル・ベリチックとピート・キャロルの忘れがたいスーパーボウル

2024年シーズンのNFLのサイドラインでは、もうこの2人の姿を見ることは叶わない。
ビル・ベリチックピート・キャロル
対極的なキャラクターの2人は、そのキャリアをクロスオーバーさせながら、リーグにしっかりと足跡を残してきた。
そんな2人の直接対決となったスーパーボウルは、そのアンリアルな幕切れにより、忘れることのできないものとなった。

同い年の2人

これは今まで全く知らなかったのだが、この2人は、全くの同い年。
そして、これまた引退するカレッジフットボールの大物、ニック・セイバンも同い年だ。
72歳という年齢に驚かされるのは、3人が3人とも、ついこの間までトップコンテンダーとして、エネルギッシュにサイドラインに陣取っていたからだろう。

Pete Carroll, Bill Belichick, and Nick Saban worked for, learned from, and competed against one another, and changed the way that the game is played.

情報源: Three Great Football Coaches Crossed Paths for Years, and Now They’re Leaving Together | The New Yorker

ビル・ベリチック

スーパーボウルで史上最多の6度の勝利をあげたヘッドコーチは、当たり前だが、NFL100年のベストメンバーにコーチとして選出されている。
ビル・パーセルズのスタッフだった頃から含めれば、彼の両手は、親指以外、リングで埋められるはずだ。

ファッションとは、とても言えない出立ちで、煙に巻く記者会見。
大声をあげるのは、タブレットにキレるか、Do Your Job!と選手を叱咤激励する時だけだ。
そんな風変わりなキャラクターが、NFL100年のキャラクターランキングに入るのは当然のことだろう。

Head Coach BILL BELICHICK “He’s just there for the game. Everything else, it just does not matter to him.” – Ryan Serhant

情報源: NFL 100 | NFL.com

そんな彼が、ニューイングランドのファンに向けて、ユーモアを交えながら、あたたかい感謝のメッセージを贈ったことは意外だった。

Former New England Patriots head coach Bill Belichick wrote a letter to Pats fans to express his gratitude for their support.

情報源: Bill Belichick Writes Heartfelt ‘Thanks’ to New England Patriots Fans – Sports Illustrated New England Patriots News, Analysis and More

もっとも、Army-Navy Gameでのハシャギっぷりを見れば、彼自身にユーモアというものが存在していることがよくわかる。

ピート・キャロル

ピート・キャロルはスーパーボウルでの勝利は1度だけだ。
しかし、彼は、カレッジのナショナル・チャンピオンシップとスーパーボウルの両方を制したのだ。
これまでその偉業を達成したのは、わずかに3人しかいない。
ジミー・ジョンソンバリー・スイッツァー、そしてピート・キャロルだ。
あのニック・セイバンも、NFLではたいしたリザルトを残せず去っている。

カリフォルニア生まれのイメージそのままに、陽気にサイドラインを跳ね回る姿は、ビル・ベリチックとは対照的なものだった。
いたずら好きの彼は、以前、お膝元のスターバックスでチームでバリスタを務めたとき、サイン入りカップをこっそりドライブスルーに置いてくるなんてこともやっている。

クロスオーバーと瑕疵

守備畑の出身である2人は、その分野においても輝かしい足跡を残している。

ビル・ベリチックは、ニューヨーク・ジャイアンツ時代に、ローレンス・テイラー、ハリー・カーソン、カール・バンクスを擁する伝説のLBユニットのコーチであり、DCだった。
バッファロー・ビルズとのスーパーボウルでは、ジム・ケリー率いるK-Gunの爆発力を封じ込め、その時のゲームプラン自体が名誉の殿堂入りを果たしている。

ピート・キャロルは、Legion of Boomという伝説のDBユニットを作り上げ、ペイトン・マニング率いる史上最高のパスオフェンスを、わずか8点に封じ込め、スーパーボウルでデンバー・ブロンコスを43–8 のスコアで一蹴した。

ビル・ベリチックがニューイングランド・ペイトリオッツのHCに就任する直前、その座はピート・キャロルのものだった。
そしてその前は、ロバート・クラフト と拗れてニューヨーク・ジェッツに飛び出した、ビル・パーセルズのスタッフの中にビル・ベリチックがいた。
ちなみに、ピート・キャロルは、その少し前、ニューヨーク・ジェッツのHCだった。

自他共に認める、お互いへの強い憎悪を持ちながら、ペイトリオッツとジェッツが、オープンに人材を流動させているのは興味深い。
そして、ビル・ベリチックの弟子とも言えるエリック・マンジーニがペイトリオッツからジェッツのHCに就任したことで、歴史に残るスパイゲート事件が起きる。

Apple TV+で配信中のThe Dynastyでも描かれているが、このことでペイトリオッツは悪の帝国となり、ビル・ベリチックは、より人を遠ざけるようになった。
勝つために全てを捧げるものは、境界線をついつい飛び越えてしまうのだろうか。
ピート・キャロルには、USC時代に、レジー・ブッシュのハイズマン剥奪騒ぎにまで発展した不適切な贈り物の騒ぎがある。

2015 第49回 スーパーボウル

キャリアをクロスオーバーさせてきた2人が、いよいよスーパーボウルの舞台で直接対決することとなった。
そしてそれは、歴史に残る激戦となった。

2014 – Patriots vs. Seahawks SUPER BOWL XLIX – “THE INTERCEPTION”” Malcolm Butler? Who is Malcolm Butler?” – Ryan Serhant

情報源: NFL 100 | NFL.com

10年前に2連覇を達成したとは言え、そのあとは愛国者キラーのイーライ・マニングに2連敗を喫しているペイトリオッツ。
前年にペイトン・マニング率いるブロンコスを一蹴し、ノリノリで2連覇を狙うシーホークス。
勝利の味を知っているものは、より執着が強くなる。
そうしたもの同士の対戦が、簡単にケリがつくわけがない。

Just One Play

NFL100年のベストゲームで8位にランキングされた激闘には、劇的な幕切れがふさわしい。

February 1, 2015 MALCOLM BUTLER INTERCEPTION IN SB XLIX” A lot of times your entire season comes down to one yard, one play.” – Brian Flores

情報源: NFL 100 | NFL.com

そのプレイは、NFL100年のベストプレイで第5位にランキングされている。
ゴールラインまで1ヤードのところで、投じられたスラントをINT。
そんなことある?
どこの誰だか知らないマルコム・バトラーのアンリアルなプレイ。
だが、そのプレイが事前に練習されていたものだと知って、驚きは、より深まった。

ゴールライン 3CB

100 Greatest Plays: Numbers 5-1 | NFL 100

ラン守備用にヘビーにしたフロントの背後に、3人のCBを配置する。
分厚いラン守備に、パスを選択するであろう相手の、予想されるパスを迎え撃つというもの。
マーショーン・リンチのランを選択させたくなかったペイトリオッツの狙い通り、パスカバーが薄いと判断したシーホークスはパスを選択する。

プレイコールを批判する声は、今でも消えることはない。
しかし、まだ2nd down。
先にランプレイを失敗して手詰まりになるよりは、この選択は悪くないと、僕は今でも思ってる。
そうして、パスコースのチョイスだって悪くない。
あのスラントのパスを、もう1人のWRを障害物のように配置した上で、マンカバーの対面のCBがINTなんて考えられない。
いかに練習してたとはいえ、スラントだぜ?

いかに事前の準備が勝敗を分けるのかを、深く痛感させられるプレイだ。
もっとも、予測しようのなかったグレートエスケープとヘルメットキャッチには、手の打ちようがなかったのかもしれないが…

そして事前の練習があったとはいえ、あのシチュエーションで完璧にやり遂げたマルコム・バトラーは、やっぱりすごい。
Mr. Irrelevantどころじゃない。
ドラフトで指名されることもなく、ファーストフードで働きながら、ようやく入団に漕ぎ着け、練習以上の結果を出してみせる。
NFLでのキャリア初のINTは、本当に特別なものになった。

あの陽気なピート・キャロルが、悲痛な叫びと共にガックリとうなだれる姿は忘れることのできない、ひとつのシーンだ。
彼は、シーホークスのアドバイザーに就任した。
もう、よほどのことがない限り現場には戻らないんじゃないだろうか。

一方で、ビル・ベリチックは面接も受けており、現場を離れる気はなさそうだ。
ただ、現時点でオファーは途絶えている。
いっそ、カレッジの、それこそNavyなんかどうだろう。
あのように選手の資源が制限される中で、彼がどのようなチームを作り上げるのかは、とても興味深い。
となれば、ピート・キャロルにはArmyを引き受けてもらって、今度はArmy-Navy Gameでの対決なんて乙じゃないかと思うんだけど…

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