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JAPAN X BOWL 2014「縁の下のガイジン」

やっと優勝が見えた富士通と、なんとかかんとか陽の当たる場所にこぎつけたIBM。
このフレッシュで、なおかつ業界競合という昔懐かしい対戦の構図も相まって、薄暗い東京ドームは3階席まで開放するほどの大入り。
良い席ほどフットボールに馴染みのないヒトが埋めつくすというニッポン社会人フットボールのボウルゲーム特有の構図であったが、頭数でもヒトはヒト。
斜陽の一途をたどるニッポンフットボールには動員数という絶対値は必要だ。

史上初のアメリカ人QB同士の対決で話題になったJAPN X BOWL 2014
しかし、勝負を決したのはこのバリバリ本チャンの二人ではなかった。

ガイジンQB

「今度来るQBってアメリカ人らしいよ」
へぇー、どこの?
「UCLA」
えっ!?3本目くらい?
「いや、バリバリのスターター」
ええっ!?それって反則じゃん?!

一昔前の社会人リーグであったなら、それだけで反則。
ファーストダウンまで15ヤード、攻撃機会もサードダウンに限定しても足りないくらいのハンデがあっただろう。
しかし現在では、それは大きな戦力であることは間違いないが、勝負を決定づける要因とならないくらいにリーグは成長しているようだ。

ガイジンの登用といえば、昔、シルバーオックスが金髪白人チアリーダーを揃えてプロを雇ったのかと話題になったが、プロはプロでも踊っている場所が温泉だったんじゃないかと失笑を買っていたのも懐かしい思い出だ。

ガイジンQBが、いまだ優勝経験のないチームをここまで導いて来たのは間違いない。
しかし要因は、ご本人のプレイぶりだけではなく、そこから学習し吸収して総合力を底上げしてきたチームの成長といえるだろう。

勝負をわけたもの

点差ほどのチーム力の開きがあるようには見えなかった。
ターンオーバーの数と起こりどころが結果的にスコアを開かせた。
そして、NFLに最も近いと言われているレシーバーは、プレイで僕らにその能力を証明することは出来なかった。
そのチャンスはいくつかあったのだけれど。
捕ったらスーパーキャッチだけれど、両手で触ってるんだから捕れないこともないよねというパスを捕ることが出来なかった。
それは劣勢のチームに弾みをつけられる場面であっただけにとても残念だ。
極論だが、個人的には、あのパスが捕れなかったことが大きな分かれ目になったと感じる。

やっぱOL

前半最後のQBサックでガイジンQBを失った富士通は、その後のオフェンスは順風満帆とはいえなかった。
しかし、大崩れしなかったのはオフェンスラインのチカラに尽きるんじゃなかろうか。
それはRBジーノ・ゴードンがMVPを受賞したことが証明している。
ガイジン黒人RBの存在はそれだけで、以前なら反則だ。
しかも、NFLプレイヤーも輩出しているハーバード大出身というバリバリの本チャン。
しかし、持っても必ずロングゲインさせないほどにはXリーグのディフェンスは成長している。
確かにLOSを向けた後、個人技で数ヤードを上乗せさせるあたりは本チャンのニオイが立ち込めていた。
しかし、彼をノータッチでLOSの向こう側に運び続けたのはOLの安定したブロック力だった。
IBMには2メートル近い、これまたアリゾナ州立大という本チャン出身のDLがいたにも関わらず、LOSをコントロールし続けた。
そういう意味では、RBがMVPを受賞する時には、OLがそれ以上の仕事をしているという例の伝統的なパターンではある。

加えて言うならば、IBMのOLも健闘していた。
富士通には、アーカンソーからレイダースのキャンプにまで行ったこれまたバリバリのDLがいた。
確かにサックを食らう場面はあったが、それでもLOSで好き放題にはさせていなかった。
しかし、辛口に言うならば、富士通のRBがLOSをキレイに抜けていくのに比べ、IBMのRBはDL1枚に後ろからすがりつかれることが多かった。
それがなければロングゲインという場面が多かっただけに、OLがもうワンフィニッシュしておけば展開は違っていたのかもしれない。

#14と#4

僕のMIPは二人いる。
富士通のDB#14とIBMのQB#4だ。

DB#14

開始早々のインターセプト!
しかもリターンTDつき!
これだけでもすごいことだが、それが生まれた場面も良かった。
戦前では優勢と予想されたいた富士通。
しかしフツーにやれば勝つだろうという前評判ほど、やってるプレイヤーに重くのしかかるものはないだろう。
しかも、それまでIBMのQBはテンポよく全てのパスを成功させていた。
負けてもともとの相手が最初のドライブで得点なんぞしようものなら、どれほど勢いづくかわからない。
なにせ彼らは檜舞台での負けを経験していない。
檜舞台での負けをいやというほど味わった富士通には、たまったものじゃないだろう。
そこで生まれたこのインターセプト。
偶発でもなく、QBの凡ミスでもなく、#14がパスコースを見切って、能動的に攻撃的にギリにいったこのプレイは大きかった。
怖いもの知らずの相手に怖い思いをさせたばかりか、優勢予想だからこそ欲しかった先制点まで手に入れた。
この試合のベストプレイを上げろというなら、間違いなくこのプレイが選ばれるはずだ。

余談だが、印象に残ったプレイほど、それを逆手に攻められる。
優秀なシナリオライターを抱え、なおかつ#14の母校である関学が、ライスボウルで、どこかでヒッチ&ゴーでもコールするんじゃなかろうか。
当然、ご本人も警戒しているだろうが、出しどころに定評のある関学。
そこの攻防は、ひとつの楽しみだ。

QB#4

ガイジンQBクラフトが負傷退場した瞬間に、ああもう本当に終わってしまったと思った。
控える#4は足は速い。
キープで持ち出せばTDまで持っていける程の脚力はある。
しかしキャッチアップオフェンスが必要な場面に適したパッシングQBの印象はなかった。
しかし、解説の有馬隼人が感慨深げに「彼は、今年開眼というか新境地に達しましたよね」と呟いた。
それは解説者というよりも、QBの先達者として先にそれを経験したものが、後に続くものを認めた瞬間に思えた。

そうして登場した#4は確かにこれまでとは別人だった。
GBのアーロン・ロジャースばりのといえば褒め過ぎかもしれないが、それほどのクイックリリース。
カバーを読みきった早い判断も相俟って、どこからどう見てもパッシングQBになっていた。
この試合に登場したQBの中でも、一番リリースが早かったんじゃなかろうか。
クラフトよりもスクランブルへの切り替えの早さは、自らの足を活かすのにも効果的だった。

解説の古庄直樹が、解説者としてではなく、素で認めるように褒めていたのも印象的だった。
そしてそれは、怪我したクラフトを無理に使うより、#4をこのままフィールドに立たせておいたほうがいいんじゃないのと思わせるほどに。

縁の下のガイジン

史上初のアメリカ人QB同士の対決と話題になったこの試合は、皮肉なことに彼らに特別なスポットライトを浴びせなかった。
しかし、シーズンを通して、文字通り彼らは縁の下でチームを底上げしたのだろう。
QBに限らず、RB、DL、DBのガイジン達も同様の役目を果たしたはずだ。
スクリメージで彼らと対戦し、彼らのプレイぶりを背後から学び、そうしてニッポン人も、もう一段階上のステージに上ることが出来た。
それは自チームにガイジンのいない対戦相手にも波及しているはずだ。
そういう意味では、このフットボール未開の島国でプレイすることを選択してくれた彼らに感謝したい。

しかしこうしたリクルーティングも少数のエリートチームに限られている現実もある。
いまエリートチームでないところこそ、積極的にガイジンリクルートを行うべきかもしれない。
トップリーグ同士の対戦でも大差のゲームが珍しくない昨今、早急にその差を埋めるには必要なことだ。
そうでなければ、ますますその差は開いてしまう。
来年、帰ってくる警視庁は、FBIあたりからなんちゃら交流で人材をゲットできないものだろうか。

まだまだレベルアップ

ほとんど反則のない試合だったが、個人的には残念なプレイがひとつあった。
スコア的には大勢が決し、クラフトも負傷退場した後にソレは起こった。
変わって登場した#4に妙なヒットがあった。
ベテランLBが、タックルでもなく、誰かに押しやられたわけでもなく、ただ転がるように膝にのしかかったプレイ。
NFLでも同様の場面を見たことがある。
運悪くそのQBは、膝を負傷してシーズン終了。
ヒットしたディフェンダーは意図的ではなく、ブロッカーに弾かれて偶発的にそうなっただけだったが、それでも批判は相次いだ。
炎上するより早く、そのディフェンダーは、意図的ではなかったと釈明し謝罪していたおかげで大きな騒ぎにはならなかったが。
移籍してきたベテランでもなく、血気盛んな若手勘違いプレイヤーでもなく、生え抜きのベテランが行うプレイの端々にそのチームの本質が現れる。
どんな思惑があったかは知らないが、それが本質だとしたら残念だ。

そしてその場面をあたかもグッドプレイのようにハイライトの一部に使っていたNHKの編集も残念だ。

この島国では、まだまだレベルアップしなければならないことはたくさんありそうだ。
それは、観戦する方にも、放送する方にも、等しく求められているはずだ。

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