殺し屋の自分に与えられた次のターゲットは、30年後の自分。
タイム・トラベルものならではの物語は、観終わった後にあーだこーだと考えられる余地を含んで、けっこー楽しむことができる。
ルーパーという職業
ルーパーとは2044年のカンザスに存在している殺し屋である。
しかし、一般的な殺し屋とは全く異なる働き方なのだ。
ターゲットは、30年後の未来から所定の日時、所定の場所にタイムマシンで送られてくる。
ルーパーは、待ち構えて引き金を絞るだけ。
たいした労力もかからないし、危険など全くないと言っていいだろう。
なぜ、30年後の犯罪組織が、こんな手の込んだことをするのかといえば、科学技術の発展により死体の処分がほぼ不可能になっているからだ。
そこで、組織は、一般的には禁止され違法となっているタイムトラベルに目をつけた。
組織は、タイムトラベルを利用して、死体の処分が可能な過去にターゲットを送り込み始末するという流れを作り上げたのだ。
ループを閉じる
ほぼリスクのないルーパーではあるが、組織との契約を解消するには、やはり自らの命で贖わなければならい。
と言っても、即座に命を奪われるわけじゃない。
このあたたかな組織は、金塊をたんまり与えてくれる上に、30年間は何もしない。
もし、30年後、そのルーパーが生きていれば、タイムマシンで30年前に送り込み、始末する。
そうしてルーパーは、30年後の自分を自ら始末することになる。
通常、報酬はターゲットの体に巻きつけてある銀の延棒で支払われる。
もし、それが金に変わっていれば、目の前の見ず知らずの男が自分自身だと知ることになる。
この行為を「ループを閉じる」と呼び、お祝いすら行われるのだ。
こうしてジョーは、30年後の自分と対峙することになる。
レインメーカー
未来の犯罪組織の王として君臨しているのは、謎に包まれたレインメーカー。
母親が殺されるところを目撃し、人工アゴを持つレインメーカーは、現在では、シドという幼い男の子だ。
常に怒りを溜めた表情で、将来の恐怖の大王の片鱗を見せるシドを演じたピアース・ガニォンは、とってもインプレッシブだった。
そして、30年前、この2044年という年は、レインメーカー誕生にまつわる重要な年だったということになる。
ループは閉じない
ジョーは、シドを守り、その母親のサラを守り、この先の暮らしに一切困ることがないであろう金塊も渡すことができた、
自己中心的な人生を送ってきた彼は、今回、自己犠牲を払うことを選択し、未来の恐怖の大王の誕生を阻んだ。
では、この先、レインメーカーが誕生することはないのか?
もし、レインメーカーが誕生せず、彼の組織が生まれていなければ、幼いジョーは、どこかでのたれ死んでいたはずだ。
つまり、現在のシドを守ってくれたジョーは存在しないことになる。
だから、レインメーカーは未来に間違いなく君臨しているはずだ。
母親が殺されることは免れたとはいえ、怒りを制御し難いシドが、強すぎるほどの正義感を持つ彼が、そうした行動に走る契機は、この先いくらでもあるだろう。
タイムトラベルで過去を選ぶなら、何も2044年でなければならない理由はない。
あえて、レインメーカーは2044年を選んでいるのかもしれない。
幼いジョーを保護して、彼を一人前のルーパーとして、あの日時を迎えられるように、綿密な計算に基づいているのではないだろうか。
もっといえば、あの場面のためだけにレインメーカーは、全てのお膳立てをしていたと言ったら言い過ぎだろうか。
ループは閉じない。
閉じられるわけがないのだ。
ジョーは、自分自身を殺すことを繰り返す。
相手が未来の自分か現在の自分かの違いだけだ。
しかし、自己中心的な自分を生まれ変わらせてくれる運命の彼女にも、必ずめぐり逢うことができる。
最後に、シドの母親サラは、なぜルーパーという存在も、レインメーカーという存在も知っていたのだろうか?
彼女がホームレスに神経質なのも、レインメーカーがホームレスを大量虐殺したということも関連しているんだろうか。
オールド・ジョー以前にも、ルーパーあるいは未来からの刺客が訪れていたのかもしれない。
そして、シドがレインメーカーという存在になるのだと告げられていたのかもしれない。
サラの覚悟と怯えが同居した表情が、それを物語っているように見える。
良い映画特有の余韻に、あれやこれやの妄想が膨らみっぱなし。
僕の頭の中のループも、いっこうに閉じることができない…