「どうしてこんな行為が生まれるの?」
日本中に衝撃と大きな疑問を与えた事件の動機は、本当に取るに足りないものだった。
そのくだらなさは、ラプラスの箱に勝るとも劣るところは見受けられない。
反則とも呼べない行為
初めてあの行為が記録された動画を見たとき、悪ふざけの合成だろうと思った。
あんな光景は、これまで目にしたことがなかったからだ。
3つのプレイが取りざたされているけれど、1番目とそれ以外は全く次元が違うものだ。
ふたつ目のプレイは、ハンドオフした後、QBが自分で持っているというフェイクに釣られたとも見えるし、そのようなタックルはよく見かける。
3つ目の小競り合いに関しては、喫茶店のサンドイッチに添えられたパセリのようなもの。おなじみの光景に過ぎない。
関学が問題視しているひとつ目のプレイ、いや、行為は、あらゆるレベルでフットボールを見ている人たちの誰もが初めて目にするものだったろう。
だから、「よくあることらしいんですよ」と知ったかぶりをするコメンテーターに騙されてはいけない。
野球で言えば、デッドボールの場面はよく目にする。
しかし、それはバッターボックスで、ピッチャーに対して構えている選手に投げられたものだ。
バッターボックスを外して、目線もピッチャーから外したバッターの頭部めがけてデッドボールをぶつける場面なんて見たことあるだろうか?
今回は、そのようなことが起こったのだ。
プレイを失敗に追い込むためではなく、ボールキャリアの前進を阻むためでもなく、ただ特定の選手を痛めつけるための行為。
そんなのプレイとは言えない、だから反則ですらない。
だってただの暴力行為なのだから。
たまたまジャージを着てたからといって、たまたまフィールドにいたからといって、傷害の現行犯がひらひらと舞うイエローフラッグでチャラになるわけがない。
フットボールを見ている人なら、動画を見終わると、まず関学の選手の安否が気になったはずだ。
これまで幾度かあった不幸な事故が頭をよぎっただろう。
だから、彼が重大な怪我を負っていないことに、本当に他人事ながらホッとしたはずだ。
そうして落ち着くと、いったいなぜこんなことが起こったのかと大きな疑問が湧いてくる。
失礼ながら、僕は当該選手が薬物でもやっていたのではないかと当初考えた。
そう思わなければ理解できない異常行動だったからだ。
しかし、すぐさま、監督の指示によるものだという報道がされ始め、よりわけがわからなくなってしまった。
何のために?
大金のからんだビッグビジネスでもなく、クビのかかったプロコーチでもなく、そもそも結果が問われない春のオープン戦で、いったいなぜこんな状況が生まれるのか?
誰しも、その動機がつかめない。
掲示板で、理事長のお友達が仕切ってる賭博対象試合だったんじゃないかという冗談を信じてしまうほど、合理的理由が見つからない。
ラプラスの箱
そうして明かされた理由は、「秋の対戦の時に、相手のQBが怪我していれば得だろう」というものだった。
「たったそれだけのことで!」と、ガンダムUCのオットー・ミタス艦長がいたならば、またも嘆いていたことだろう。
関学のQBの選手生命どころか生命そのものも危険にさらし、日大の選手の将来すべてを棒に振らせる覚悟で手に入れようとしたものが、わずかそんなものだとは…
勝利を手にするためには、手段を問わないなどとほざくのかも知れない。
それでは、勝利とは一体何を指すのだろうか?
対戦相手を全て負傷退場に追いやって、自チームしかいないフィールドで雄叫びをあげることが勝利なのか?
そんなものが、フットボールでの、スポーツでの勝利を意味しないということは、日大という法人の職員以外なら誰でも知っている。
ガンダムUCでは、宇宙憲章のたった一つの条文を封印しただけのラプラスの箱を巡って、多くの若者が血を流す。
たったそれだけのもののために。
今回は、吊り天のヘルメットのせいで大半の脳細胞を死滅させた老人の自己顕示欲のために、前途有望な若者が、その生命を、その将来を危うく棒に振るところだった。
そして、その事実を封印し、新たな呪いをかけようとするあたりも劇中の悪役と寸分たがわぬ行いだ。
悪役マーサ・ビスト・カーバインは、あえなく逮捕となったが、現実でもなぞらえることになるのだろうか?
可能性を諦めない若者が、その呪いを弾き飛ばすところまでは、現実もキャッチアップはできているのだが…