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日大アメフト内田ゲート「大きな不幸中のいくつかの幸い」

日本マイナースポーツ界において押しも押されぬ横綱であるフットボールで起きた不幸な出来事は、あれよあれよと社会問題にまで登りつめてしまった。
今回の事件は、それほどまでに大きな不幸であった。
しかし、その中にいくつかの幸いなことも存在していたのだ。

関学QBが重症でなかったこと

なによりも、これがもっとも幸いなことだ。
あのタックルを受けてぐにゃりと折れ曲がってしまった彼が、生きていて、重度の障害を負うこともなく、元気にフットボールができている。
本人とご家族に限らず、日大DLとご家族にとっても、はたで見てるだけの僕らにとっても、それは本当になによりのことだった。
もし最悪の状況になっていたら、あの生真面目そうな日大DLは後追いしてしまったんじゃないだろうか。
だから、関学QBが健在であること、これがみんなが日常を取り戻すための大前提であったのだ。
関関戦で復帰した関学QBは、躊躇なくスクランブルに出る姿も見せ、諸々の後遺症はないように見えた。
対する関大ディフェンスも、腫れ物扱いすることはせず、ブリッツをかけ正当なプレッシャーを与えていた。
どうやらフィールド内での日常は、取り戻されつつあるようだ。

関学という大学の毅然とした態度

今回の当事者が関西学院という大学であったことも幸いなことだった。
関学の毅然とした態度での理路整然とした問題提起がなければ、この事件に光が当たることはなかった。
もしそうでないチーム、毅然とした態度も取れず、口頭表現力が低く、問題提起できるほどのプレゼンテーション力を持たないチームであったなら、グズグズになっていたんじゃないだろうか。

この事件のおかげで、いろんな会見のライブ放送を見ることになったが、広報やスポークスマンという存在の重要性をあらためて感じる。
日大のアレは例外としてシカトするにしても、小野ディレクターの会見は出色だった。
何を質問しているのかわかりにくい報道陣の質問にも、切り分けながら的確に伝えようとしていた。
どの組織も、ガバナンス、コンプライアンスというものに取り組んでいるのだろうが、スポークスマンの人材も確保しておく必要があるんじゃないだろうか?

日大という法人のずさんな対応

批判の対象となっている日大のずさんな対応は、しかし、幸いだったと言える。
もし、日大がこうしたことの処理に長けていたならば、問題の根っこにたどり着くことができただろうか?
いち早い謝罪で被害者感情を和らげ、そこそこの処分を自ら課していたならば、何度も報告書の出し直しを許した寛大な関学は許していたかもしれない。
ましてマスコミに連日叩かれることもなく、社会問題にもなっていなかったのかもしれない。
当初、関東学生連盟が下した当該選手は対外試合出場禁止、監督には厳重注意程度の処分で終わっていたら、大きな根っこは地中ですくすく育ちっぱなしだったはずだ。

日大の学長の会見は興味深かった。
なんのアクションプランも姿勢も持たずにあらわれた学長は、謝罪会見の場を自らのインタビューの場と勘違いし、ニヤニヤしながら最近の若者論まで披露した。
そして、グラウンドで起きたことを社会問題化されてしまったと恨み節ともとれる発言を残した。
グラウンドで起きたことが日大の問題になったのではない。
日大の抱える問題が、グラウンドで顕在化したのだ。
そうした問題意識を持っていないことが白日の下にさらされ、いよいよ自浄作用は期待されなくなった。
そのおかげで、各種機関は追求の手を緩めることはないだろう。

関東学生連盟の処分

問題が発覚した当初、イエローフラッグ以外の処罰はありませんと呑気だった関東学生連盟は、世間とスポーツ庁が騒ぎ始めると慌てて調査に乗り出した。
その結果は、ぼやかすことなく責任者を断罪し、踏み込んだ内容と一定の評価を得ている。
日大DLとチームには、今年度の復活チャンスを与えた点に柔軟性を感じるが、一点だけイチャモンをつけたい。
監督会の会見でも指摘されていたが、チームの公式戦出場停止資格は今年度に限る。

(3)日本大学アメリカンフットボール部 公式試合の出場資格停止(2018年シーズン終了まで) 当連盟罰則規定第6条第1項本文、第3条第1項④ ただし、①チームとして本件の原因究明を行い、それを踏まえて実効性のある再発防止策を策定・実施し、また抜本的なチーム改革・組織改革を断行して、②その内容(原因究明、再発防止策、及びチーム改革それぞれの概要)をチーム改善報告書として当連盟理事会に提出すること、その上で、③十分な改善がなされたことが検証委員会(人選及び設置の決定は理事会で決定する)によって確認され、それを受けて当連盟理事会で承認されることを条件に、出場資格停止は解除される。

情報源: KCFA|日本大学の選手による試合中の重大な反則行為についての処分 | 一般社団法人 関東学生アメリカンフットボール連盟

もし抜本的改革がなされなくても、2019年には公式戦に出場できることになる。
であれば、抜本的改革が検証されるまで無期限とした方が、チーム自体の改革を助けることになったんじゃないだろうか?

スポーツ庁と文部科学省は?

とはいえ関東学生連盟は、その影響が及ぶ範囲では精一杯の処分を下したと言える。
監督の学内での常務理事という職に関してまでは、彼らは踏み込むことはできないだろう。
その先は、スポーツ庁と文部科学省がどういうアクションをとるかにかかっているだろう。
NCAAなどと口にするのなら、踏み込んだ処罰を下さない限り、この先のガバナンスは期待できない。

ダース・ベイダーが最前線に出ないからといって、同じスターデストロイヤーに乗り合わせていないからといって、安心するストームトルーパーはいないだろう。
たとえ遠隔地にいたとしても、フォースを使って首を絞められるのだから。
帝国にその存在がある限り、コントロールが緩められることはない。
ましてダース・シディアスも健在であるのならば…

この大きな不幸中のいくつかの幸い。
これをもって、「災い転じて福となす」といかないものだろうか。