日大の宮川選手には、二度も衝撃を与えられた。
ひとつ目は、これまで誰も目にしたことがない危険なタックル。
そしてふたつ目は、これまで誰も目にしたことがない潔い記者会見だ。
予想外の記者会見
彼から真実を語られることはないだろうと思っていた。
可能性があるとすれば、ほとぼりが冷めたずっと先の頃、厳重なモザイクとヘリウムガスを吸ったような音声で、どこかの独占インタビューでボソボソと答える。
そんな程度のことだろうと。
ところが彼は、日大というノロマな法人よりも、いち早く報道陣に向き合った。
真実を明らかにすることが謝罪のための第一歩であり、謝罪である以上、顔も実名も隠すわけにはいかないと、若干二十歳ながら素顔で300人の報道陣の前に現れた。
あらためて謝罪をしたうえで、しっかりと会見の趣旨と経緯を話し始めた。
自らの責任を受け止め、泣き崩れてしまうこともなく、誠実に伝えようとしていた。
マシュマロのような報道陣
マスゴミと揶揄される集団は、この日、記者クラブには存在しなかった。
そこにあったのは、マシュマロのように柔らかくほんのり甘い報道陣の姿だった。
誠実に向き合う二十歳の青年に、揚げ足をとるような意地悪な質問が飛び出すことはなかった。
欲しいコメントを引き出すために、質問を変えながら食い下がる場面は見られたが、彼が「それについては自分が語るべきものではありません」と答えると、わかりましたとあっけなく引き下がった。
誰もが、ナイーブでデリケートな空気に胸をかきむしられているようだった。
こんなにセンチメンタルな、しかも加害者側の会見を、僕は今まで見たことがない。
この会見に至った決断を、ご本人かお父様のどちらがしたのかはわからない。
しかしそれは、どちらでもかまわない。
決断し、受け入れ、見事にやりきった。
宮川選手は、今回のことで多くの信じられない大人が存在することを身をもって体験したことだろう。
だが、信じられる大人の中に父親がいると認識できたことは、大きな不幸中の確かな幸いだったと言えるだろう。
この会見を開いたことで、彼は大きな最初のステップを踏んだと言えるだろう。
贖罪でココロがいっぱいになっている彼自身には、そんなつもりは毛頭ないだろうが…
転校するという更生プログラム
警視庁も捜査に乗り出したことで、この先、何らかの償いが生じることになる。
連盟からの処分も下されることになる。
そうしたことを受け止め、乗り越えたならMove forwardだ。
人生をやり直すなら、環境を変えるのが一番だ。
知らない土地で新しい人間関係を築くのだ。
新しいロールプレイングゲームを始めるのだ。
そしてフットボールも続けるべきなのだ。
それは、有望な選手の将来が惜しいというような理由ではない。
たとえ彼がヘッポコの三流選手だとしても。
このままフットボールから離れてしまっては、彼の心にブラックボックスを残したままになる。
フットボールのことは、フットボールで昇華させ、オトシマエをつけていかなくてはならない。
「僕にはフットボールを続ける権利はありません」と彼は言った。
だから、更生プログラムの一環として、義務として課したらどうだろう。
転校先としては、関学がベストであると思う。
第三者の学校に転校したとして、いじりにくいネタにアンタッチャブルな存在として浮いてしまうのも辛い。
当事者である関学ならば、少なくとも第三者の遠慮のようなものは取り除かれるだろう。
転校のルールが整備されていないようだけれど、今回はスポーツ庁が乗り出している、日本版NCAAの始動も控えている。
それらのガバナンスが効くようになれば、またどこぞで指導者のパワハラ問題にはぶち当たるだろう。
いずれ選手の救済策としての転校という手段が必要になるのであれば、ここから始めてみてはくれないものだろうか。
もちろん、関学が拒むのならば、それは最優先に反映させなければならない。
共に汗を流し、苦しい練習を乗り越えることで、いつか当事者同士がこの件をネタに一杯やっている姿を思い浮かべるのは、末端のフットボールファンのファンタジーなのかもしれないが…