「いいから黙って見なさいよ!」
以外に説明できない映画にたまに出会す。
このプリデスティネーションも、そのひとつだ。
かくいう僕も、そう言われて観ることになったくちだ。
「いいから、黙って今日中に観なさい!」
妻にそう言われてシカトできるお方がどれほどいるだろう。
英連邦に属していないとはいえ、我が家には女王という絶対専制君主が存在する。
平民の僕は、ただただその厳命を実行するのみだ。
パラドックスなビジュアル
そうしてAmazonプライムにたどり着いた僕は、ちょっとがっかりすることになった。
あらすじはいいとして、このポスタービジュアル。
失礼ながら、面白そうな匂いがあんまりしない。
もし、女王陛下の厳命がなければ、早々にパスしてしまうところだ。
しかし、観終わった後には、ビジュアルに対する印象が180度変わる。
このビジュアル以外に用意できるはずがないじゃないかと。
究極のパラドックス
情報源: INTRODUCTION | 映画『プリデスティネーション』公式サイト
このコピーに嘘偽りはない。
あえて説明を加えるなら、そのパラドックスの対象は、時間のみならず、自分自身という存在だ。
航時局の上司であるロバートソンは、主人公のバーテンダーにこう告げる。
「君はタイムトラベルの矛盾から生まれたギフトだ。この世で唯一、過去とつながりを持たぬ者だ。」
航時局というパラドックス
未来をより良きものにするための存在である航時局は、違う目的を持つ組織だと気づく。
彼らの目的は、現在の時の流れを保全することだと。
しかし、そのために、連続爆弾魔フィズル・ボマーが起こす悲劇を防ぐためという名目でバーテンダーを送り込むのだ。
We were born to this job.
時空警察官であるバーテンダーがつぶやく台詞は、印象深い。
全てを観終わった後では、それは職業への気概というものとはまったく違う意味だと思い知らされる。
ロバートソンは、いつの時点で全てを知っていたのだろう?
全ての流れを理解した上で、バーテンダー、そしてバーテンダーになるものにコンタクトしたのだろうか。
輪廻の蛇
ポスタービジュアルもパッとしない。
予告編だけでは、他のタイムトラベルものと一線を画していることも伝わらない。
そうした状況で劇場に足を運んだ人たちは、ロバート・A・ハインラインによる原作輪廻の蛇を読んでいた人たちだったんだろうか。
全てを観終わった後の衝撃は、自分の喉奥に自分の尾っぽをぶち込まれた蛇以上だが…
インプレッシブな主要キャスト
想像をはるかに超える深〜い話を成立させているのは、主要キャストのインプレッシブな演技だろう。
バーテンダーを演じるイーサン・ホークの哀しげな瞳。
全てを見通した深い表情を見せるノア・テイラー。
そして、性別さえも超えるひとり2役に説得力を持たせたサラ・スヌークには本当に驚かされた。
「いいから黙って見なさいよ!」
と最後に念押ししておきたい。
一度見てしまえば、すかさずもう一度再生してしまうという輪廻の輪にあなたも呑み込まれてしまうはずだから…