Movie & TV

セブン・イヤーズ・イン・チベット 観た人のためのレビュー「再生と破壊」

セブン・イヤーズ・イン・チベットはU-NEXTで配信されている。
Amazon Prime Videoでは、「このビデオは、現在、お住まいの地域では視聴できません」と表示され、配信されていない。
この映画は「再生と破壊」の物語だ。
決して「破壊と再生」ではない。
やるせなさを強くさせるのは、これが本当の「おはなし」に基づいているということだ。

ハインリヒ・ハラーの再生

度重なる失敗にどうしてもヒマラヤ登頂を成功させたかったナチス。
そんなナチスが白羽の矢を立てたのが、アイガー北壁の初登頂に成功していたハインリヒ・ハラーだ。

多くの有能な自信家がそうであるように、彼も傲慢で甚だセルフィッシュ。
しかし、同じ登山隊のペーターと収容所からの脱走生活を送るうち、そうした棘が抜け落ちていく。

ようやく彼らは、チベットにたどり着く。
第二次世界大戦の影響をほとんど受けていない宗教国家は、本来、外国人の居住を許可していない。
しかし、犬の餌を奪うほどに追い詰められた彼らの姿に、「人を助けるのに理由は必要ない」として慈悲深く受け入れる。

Brad Pitt and David Thewlis in Seven Years in Tibet (1997)

情報源: Seven Years in Tibet (1997)

そうして彼は、ダライ・ラマ14世と出会うことになる。

Jamyang Jamtsho Wangchuk in Seven Years in Tibet (1997)

情報源: Seven Years in Tibet (1997)

14歳という好奇心旺盛なダライ・ラマ14世は、失礼ながらチャーミング。
初めて観た金髪を鷲掴みにするほどに。
ダライ・ラマ14世は、埋められなかったハインリヒ・ハラーの空白を埋めていく。
それは決して、高次な存在の生まれ変わりとしてではない。

ハインリヒ・ハラーがヒマラヤ登山隊に参加したのには2つの理由があった。
ひとつ目はもちろん、あのヒマラヤを征服すること。
しかしふたつ目は、父親になってしまう自分を受け入れられなかったことだ。
そうして彼は出産間近の身重な妻を残してヒマラヤに向かった。
時間が経つほどに大きくなるまだ見ぬ息子への思い。
ジェツン・ジャンペル・ガワン・ロサン・イシ・テンジン・ギャツォ(聖主、穏やかな栄光、憐れみ深い、信仰の護持者、智慧の大海)と名付けられたものの、まだまだあどけないダライ・ラマ14世とのふれあいが、空虚な彼の心を埋めていく。

破壊されるチベット

ハインリヒ・ハラーが再生していく一方、チベットの危機は増大していく。
しかも、第二次世界大戦が終了した後に、それは本格化することになる。
僧侶の買収や金切り声のプロパガンダで下地を作っていたChinaは、CCPが所有する国家となると一気に侵攻を開始。
100万人が殺され、6千以上の僧院が破壊された。
ラサには、史上最多の虐殺を誇るデカいアイコンが並べられ、スピーカーから流れる金切り声のプロパガンダのボリュームは増していく。
そうして投げつけられた言葉は、「自治権と宗教だけは認めてやる」だけだ。

BD Wong, Jamyang Jamtsho Wangchuk, and Ric Young in Seven Years in Tibet (1997)

情報源: Seven Years in Tibet (1997)

この映画が公開された1997年には、香港返還が行われた。
これは流石に守るだろうと言われた、50年間適用されるべき「高度の自治」はあっという間に反故にされた。
あの頃、チベットって大変な目に遭ってるんだねと遠目に見ていた僕らだが、今では金切り声がすぐ隣で鳴り響いてる。

息子と絆を結んだハインリヒ・ハラーが親子で登頂するラストシーン。
その山頂にたなびくのは、チベットの国旗。
静かに祈るように瞼を閉じるハインリヒ・ハラー
彼の瞼に浮かぶのは、あのあどけない少年の姿だろうか。
それとも、もう決して再生されることのないチベットの風景だろうか…

コメントを残す