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Super Bowl 50 レビュー「クリプトナイト BOWL」

息詰まる熱戦とは、また違う。
見ている方にも、重く苦しいゲームだった。
ならいによってニックネームをつけるなら、「クリプトナイト BOWL」と呼ぶのが似つかわしい。

クリプトナイトとは

説明するまでもないだろうが、無敵を誇るスーパーマンの唯一の天敵。

崩壊したクリプトンを形成していた鉱物であるクリプトナイトが大きな弱点。発する放射線がクリプトン人にとって致死的であるためであり、鉛製容器に密閉シールドされている場合は問題無い。クリプトナイトの放射線を浴びた状態ではスーパー・パワーがなくなり、普通の人間になってしまうため怪我もすれば死ぬ恐れもある。そして、さらに浴び続ければ約3時間で死にいたる。

情報源: スーパーマン (架空の人物) – Wikipedia

皆さんもご覧になったことがあるだろう。
その緑色に輝く物体を近づけられると、スーパーマンはスーパーマンどころか、クラーク・ケント以下のただのひ弱な男になり果ててしまう。
きっとウェイド・フィリップスは、長年のコーチ生活のコネを頼って、フィールドのどこかにクリプトナイトを仕込んだのだろう。
そう、キャム・ニュートンが、前日練習の代わりに記念撮影を楽しんだその後で。

ふさぎ込むスーパーマン

そうでなければ、あれほどの陽性の男が始終ふさぎこんでいるはずがない。
確かに、やりたいようにはやらせてはもらえなかった。
両チーム合わせて12回という最多QBサック記録が樹立されたこのゲームでは、初めてQBというポジションを羨ましく思えないようなゲーム展開。
苦々しいのは当然だ。
しかし、自らのデザインされたランプレイでは効果的にゲイン出来ていたし、ミドルからロングのパスも決めることが出来ていた。
事実、あのブロンコスのディフェンスを相手に70ヤード以上のロングドライブでTDを奪っている。
だから、そこまで苦悶の表情でふさぎ込み続ける必要はないのだ。
いつものようにノリノリでケープをはためかせればいいはずなのに。
だから、彼の表情は不可思議だ。
気負い、緊張、いつものようにリードすることが出来ない焦り。
そのどれもが理由のようでもあり、そのどれもがしっくりこない。
だから、僕は「クリプトナイトが仕込んであったのさ」という以外に納得できる理由が見つからないのだ。

ウェイド・フィリップスが見抜いたもの

まっすぐドロップバックするのなら、それは両アウトサイドのラッシャーの餌食になる。
だから、なぜそれを逃れるためのロールアウト、ブーツレッグ等のプレイが選択されなかったのか?という疑問は残る。
自らポケットの外に出て、走るか投げるかというプレッシャーを与えるには、彼ほど適任のQBはいない。
走れるQBであり、投げれるQBである。
だが、もしかしたら、走りながら投げれるQBではないのかもしれない。
ジョー・モンタナがその一点でビル・ウォルシュに見出されたように、走りながら投げるというスキルは、また別の能力なのかもしれない。
だから、ウェイド・フィリップスはそれを見切り、囲んでしまえば勝負できると踏んだのだろう。
そうして、彼ご自慢のパスラッシュユニットがクリプトナイトとしてスーパーマンを包囲し、だんだんに無力化させていったのだろう。
それは、戦意までも奪うほどに。

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保安官と彼のブロンコ

ようやく最後のロデオにたどり着いた保安官は、これまでの自分のプレイに見切りをつけ、ゲームプランに徹することを選んだ。
これまで彼を名保安官たらしめたライフルは傷んでしまい、もう精度は望めない。
残されたシングルアクションのリボルバーで戦うしかないと腹をくくった。
連射が効かないそれで戦うしかない代わりに、彼には強力な助手たちがいた。
ゲイリー・キュービアックが、「フィールドポジションとボールを失わないこと」と地味だが最低限の目標を最優先に置くと、彼はそれに徹した。
得点するということがリストの優先順位にないのではないかと思えるほど、ただボールを動かすことに徹した。
危険なエリアでボールを失わないこと、安全なポジションに進めること、3点取れればそれでいい。
そして、最後のロデオではTDドライブは生まれなかった。
しかし、強力な助手であるディフェンスユニットがお膳立てしてくれたゴール前の好機は、しっかりと仕留めた。
豪腕とも、華麗さとも、レジェンドとも程遠い、ただただチームの一員のQBとして、しっかりと勝利を手に入れた。
最後のロデオの荒馬(ブロンコ)は、暴れるどころか、ただ約束の地にペイトン・マニングを優しく運んだだけだった。

One Play

このゲームで、モメンタムというやつはフィールドに姿を現さなかった。
第50回の記念大会である今回、モメンタムは、きっとどこぞのVIPラウンジでリーグのお偉方に接待でもされていたのだろう。
おかげで、どちらのビッグプレイもブーストを生まず、ワンプレイごとの一進一退が続いた。
しかし、あえて、このゲームを分けたOne Playを上げろと言うのなら、僕には一つ心当たりがある。
それは、ゲーム序盤のブロンコスのFGとなったドライブで起きた。
マニングの放ったパスを、CBマクレインがカットしたプレイだ。
良いカバーであり、見事なパスカットだった。
しかし、インターセプトも可能だったのではないか?
あそこでギッていれば、目の前は無人の野。
そのままリターンTDも可能だっただろう。
無冠のギラギラした若いチームが、その勢いを解き放つには格好のオープニングとなったはずだ。
そして、ボールデリバリー以上の役目が求められるようになったマニングから、第2第3のターンオーバーが奪えたかもしれない。
きっとモメンタムも、VIPラウンジから駆け下りてきてくれたことだろう。
そう感じてしまうのは、去年、ペイトリオッツのDBマルコム・バトラーが見せたインターセプトの、あのオールオアナッシングの攻める姿勢の痺れが未だに残っているからかもしれないが…

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大団円そしてWhy do we fall ?

このチャプターは大団円で終わる。
レジェンドとなった名保安官ペイトン・マニングのチャプターは。
QBとして最多の200勝を最後のロデオで達成するというおまけつきで。
そして、次のチャプターはもう始まっている。
奇しくも、キャム・ニュートンの今回はWhy do we fall ?の場面のようだ。
今回の敗戦自体よりも、その前後のあれこれで彼とその周囲は批判の集中砲火を浴びている。
これまで陽性のキャラクターを良しと思っていなかった連中に、慢心だ!とまで言われる始末。
しかめっ面で怒号を張り上げるばかりのQBの中で、彼の存在は貴重だ。
そのプレイスタイルが、これまで存在しなかったオリジナルなものであるように、そのキャラクターも陽性なまま開花させて欲しい。
そうして、自分の時代を築く手前のWhy do we fall ?
そう、それは這い上がるためだと誰もが知っている。
ブルース・ウェインに聞くまでもなく。
そうした抑揚も、長い道程の物語には必要だということにしておこう。

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