岬マリの過去を調べるため、探偵は足を洗ったモンロー姐さんと再会することになる。
短いやり取りに人生の機微があらわれている、なんというか深いシーンだ。
素面で見るには荷が勝ちすぎるかもしれないが…
所帯を持って、自分の子供を産み育てているモンローは、すっかり食堂のおかみさんだ。
そんな堅気の人間に、堅気でない頃を知る自分が会いに行くことに探偵は罪悪感を持っている。
そのための聞き込みに必要な行為で、いささか弱気になっているという点を差し引いてもだ。
現在の、羽振りのいい岬マリの写真を見せられたモンローは、目を細め、驚きながらも、わずかにうらやむ表情を見せる。
モンローは、あったかもしれないもうひとつの自分の可能性を浮かべているようだ。
自分が組むなと忠告した相手と成功を手に入れた岬マリと、幸せという名の下に決して楽ではない暮らしに埋もれてしまっている自分。
後悔とまではいかないが、人生の綾のようなものは、しっかりと浮かび上がってしまう。
モンロー姐さんと慕われ、きらびやかな夜の街を肩で風きっていた頃に想いを馳せる自分がいる。
夜の街に立つ仕事だったとはいえ、そのころ彼女は若く、青春のようなものもあったはずだ。
その頃しか知らない探偵を前にして、あくせく働くだけのみすぼらしい現在の自分に気恥ずかしさしか感じることができない。
「今の方がいい女だよ」と声をかける探偵の優しさは、それを助長するだけだ。
「会えてうれしかった」というモンローの言葉に嘘はない。
輝いていた頃の自分を知っている人間が、自分にも輝いていた頃があったと思い出させてくれたのだから。
「幸せだろ⁈」と念押しする探偵に、彼女は答えない。
代わりに、今が幸せであると自分に刻み込むように、彼女は子供のもとへと駆け出して行く。
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