走っても走っても途切れることのない沼地。
繰り返しやってくるハリケーンと洪水に、人が失踪してしまうことに麻痺している土地。
裕福とはいえない暮らしぶりの人々は、大いなる光の存在を信じて牧師の説教に熱狂し、なけなしの金を献金にまわす。
そして、大いなる闇の存在を信じるもう一方の人々は、子供の生贄を捧げることに勤しんでいる。
そうした土地で、二人の刑事がバディを組まされることになる。
悲劇的な不幸を持つ男と世俗的な不幸を持つ男だ。
実に17年に及ぶ物語は、単なるサスペンスなどというスカスカなものではなく濃密だ。
TRUE 捜査
名推理で鮮やかに事件が解決するなどというものとは縁遠い。
二人の刑事が行うのは、実に地味な捜査だ。
証言を取り、出生記録を調べ、納税記録を洗う。
そうして話を聞くべき人物を見つけ、また証言を取る。
関連づけられていない死体の写真を確認しては、同様の手口の痕跡を探す。
そうして集められた小さなドットの集合体がひとつの線となる時、彼らははじめて仮説を立て、進むべき方向性に突き当たる。
行き詰まった時に突破口を見出すのは、ひらめきなどではなく、観察を重ねた上で見つけるドットの揺らぎだ。
だから1995年に解決したと思われた事件が2012年まで引っ張られたのは、どんでん返しなどではなく、彼らの捜査が、事実の積み上げが不足していたのだ。
もっとも、証言を取るべき相手の頭をリボルバーで直情的に弾き飛ばしてしまったのは、彼ら自身のミスだが。
そうして積み上げられたドットは、17年後に主犯格の男と犯行現場に導いてくれる。
TRUE 限界
保安官であるものを逮捕できるのは州知事だけだ。
州警察で働く2人には、権限としての、組織人としての限界がある。
悪魔崇拝のグループに属しているのか、あるいは、その関わりを断ちたいのかは不明だが、州知事は、いとこの高名な牧師ともども組織的な圧力をかけてくる。
あからさまに口封じが行われていても、牧師自身もその対象になったとしても、もう彼らにはそこを探る力は残されていないだろう。
もう州警察を離れ、完全にプライベートで動く彼らに後ろ盾は何も残されていない。
頼みの宣誓証書付きで送ったエビデンスの山にも、FBIと司法長官は明確に線引きをして見せた。
ここまでだぞと。
TRUE 私生活
ラスト・コール(マシュー・マコノヒー)には私生活などない。
仕事一徹の正義のヒーローというわけじゃない。
2歳の娘を失ったせいで結婚生活も失いドラッグに溺れるようになった彼は、見逃してもらう代わりに潜入捜査官を命じられる。
それも、規定では11ヶ月が限度の潜入を4年も行なっていた。
不眠症の彼は、満足な家具もテレビもない部屋で、ドラッグをやるか、仕事をするか、あるいはその両方を同時にするかしか時間を潰す方法が見つからないのだ。
マーティン・ハート(ウディ・ハレルソン)には充実した私生活がある。
良妻に二人の娘、そして美しい愛人まで。
だが、世俗的な欲望につまづいた彼は、妻の信頼を失い、娘の非行に悩み、世俗的なありふれた不幸を背負い込むことになる。
TRUE バディ
3ヶ月前にいきなりテキサスからやって来たラスト・コール(マシュー・マコノヒー)は、常に大きなノートを持ち歩き税務署員と陰口を叩かれる風変わりな存在だ。
典型的なアメリカン・ガイのマーティン・ハート(ウディ・ハレルソン)はバディを知ろうと会話を試みるが、帰ってくるのは精神世界やニーチェの引用だ。
そうしてバディであることをあきらめビジネスパートナーのように接するマーティン・ハート(ウディ・ハレルソン)だが、ラスト・コール(マシュー・マコノヒー)の能力の高さはしっかりと認める。
暴走しがちな相棒をしっかりと組織につなぎとめておけるのは、社交的な彼の働きによるものだ。
1995年に新聞の一面を飾るほどの大活躍を見せた彼らのチームワークは、一旦はピークを迎える。
しかし、そもそも人間的に信頼し合っているとはいえない二人の関係は見事に瓦解する。
いやもし万が一信頼しあっていたとしても、あんなことがあっては…
2002年の大喧嘩を境に10年間も音信不通だった二人は、しかし、見事なバディになっていた。
人に興味がないとは言いながら大喧嘩の最中に見せた手加減。
何をいっているのかは理解できないが、そういう男なのだという理解。
そうしたものが醸成し、オトモダチとは言えないが、立派なバディとして熟成されていた。
好きな場面は二つだ。
これまで、捜査の突破口を開くのは常にラスト・コール(マシュー・マコノヒー)だった。
だが、最後の最後、大きな手がかりを発見したのはマーティン・ハート(ウディ・ハレルソン)だった。
そして主犯の住処に到着したラスト・コール(マシュー・マコノヒー)が、感覚でここに間違い無いと告げると、これまでなら、どうしてそう思う?と聞き返すマーティン・ハート(ウディ・ハレルソン)が黙ってうなづく場面だ。
17年の歳月を経て、もう一歩で殺し合いになってしまう殴り合いを経て、ようやく彼らは阿吽の呼吸のバディになった。
しかし、そこで迎えた敵は最強最悪だった。
1995年に、自分たちのミスを隠すためにでっち上げたインチキな銃撃戦などではなく、本当の命の取り合いになってしまった。
TRUE DETECTIVE
さてタイトルの「TRUE DETECTIVE」とは一体何を指すのだろうか?
17年も事件を追い続ける正真正銘の刑事魂なのか、はたまた本当の姿はこんなもんだぜというリアルな姿なのか?
事実はひとつだが、真実はそれを受け止める人間の数だけ存在する。
僕は、最後にラスト・コール(マシュー・マコノヒー)が語る「光vs闇」の部分に着目したい。
大いなる光の存在と、大いなる闇の存在の間で人間は常に揺らぎ続ける。
そして正義を執行するべき刑事という存在には、その揺らぎがことさら大きくコントラストも一際強くなる。
それこそが、TRUE DETECTIVEの真実(ほんとう)なのだろう。
さらにいえば、ラスト・コール(マシュー・マコノヒー)が果たすべき責任感に突き動かされていたのは、大いなる光の存在の導きによるものなのかもしれない。
真の正義を執行せよと。
あの悲観的なラスト・コール(マシュー・マコノヒー)が、希望などとは縁遠い男が、最後につぶやく言葉が胸に残る。
“Once there was only dark. If you ask me, light’s winning.”
情報源: Form and Void | HBO