ジェームズ・ボンドが存在するセカイで「SPECTRE」といえば、それは「スペクター」に他ならない。
ボンドの宿敵中の宿敵で、世界征服を狙う犯罪組織。
悪の組織の割には、その正式名称は折り目正しく几帳面だ。
SPECTRE, SPecial Executive for Counter-intelligence, Terrorism, Revenge and Extortion、「対敵情報、テロ、復讐、強要のための特別機関」
その組織名をタイトルにうたう本作は、「SPECTRE」が新たに登場するのか、それともこれまでのエピソードとの関連性が明るみになるのか、興味は尽きない。
悪のアイコン
「SPECTRE」に馴染みのないヒトも、この悪役の姿は見覚えがあるだろう。
この「ブロフェルド」が組織の首領である。
そしてこの、猫を抱きかかえる悪の親玉はパロディし尽くされている。
だから、見覚えのある人も、なんらかのカタチでパロディになったものを目にしていて、オリジナルがなんなのかは認識してはいないだろう。
もっとも有名なパロディは、「オースティン・パワーズ」の「ドクター・イーブル」だ。
もし「ブロフェルド」が以前のテイストのまま復活するのであれば、それはやっぱり興ざめだ。
パロディの新たなバリエーションの登場には興味が無い。
しかし、そこに関しては安心している。
「クレイグ」ボンドシリーズの特徴は、とてもついていけないくらいのスピード感と、張りつめたシリアスなテンション。
きっと本物の悪のアイコンたりうる「ブロフェルド」が登場するだろう。
「Q」が一切のチャーミングな面を取り払って再生されたように。
そもそも「クレイグ」ボンドが全く生まれ変わったように。
「クレイグ」ボンドの敵の系譜
これまでシリーズに登場した敵は、誇大妄想な狂人などではなかった。
それは地に足の着いた実務的な目的、あるいは馴染みのある動機を持っていた。
ラウル・シルヴァ
「スカイフォール」 に登場する元MI6のエージェント。
ママと呼ぶほど信頼していたMに見捨てられた彼は、彼女が手塩にかけたダブルオーセクションごと葬ろうとする。
そこに世界征服などという野望は存在せす、あるのはMへの愛と憎悪が入り混じった整理できない感情のはけ口としての復讐心だけだ。
ドミニク・グリーン
「慰めの報酬」に登場するエコロジーを謳うNPO法人の代表者。
「クアンタム」という組織の構成員。
しかし、活動内容は、クーデターを画策してまで水資源を独占しようというもの。
水資源の独占に動くメジャー企業の動きは、リアルなニュースでも耳にする。
さらに、NPOを肩書に裏で意図のあるスポンサーのために働くという活動は、どこぞの極東の島国に住んでいる人達には大変リアリティがあるだろう。
もっとも、極東の島国では、それを画策していた政権は崩壊し、次の選挙では党としての体裁も維持できないほどの壊滅状態に追い込まれるはずだ。
しかし「クアンタム」は、その意図も明確にしていないだけでなく、その規模は見通せないほどの大きさだ。
それを構成するメンバーは、正式に政府内のルートを使ってMI6に圧力をかけられるほどの力を持っている。
そして本作では、ボンドはこの末端の構成員にオトシマエをつけさせただけで、「クアンタム」本体には近づくことも出来ず、せいぜい携帯カメラで盗撮できただけだ。
ル・シッフル
「カジノ・ロワイヤル」に登場するル・シッフル。
シリーズ中、この男ほど動機がシンプルかつ逼迫していたものはいないだろう。
航空機事故による株の空売りで計算できる運用を企んだものの、その事故はボンドに阻まれた。
911だの311だのの直前に起きた不可解な株の取引を知っている僕らには、リアリティのある話だ。
金が欲しければ、銀行強盗するよりも、仕掛けに勝手に反応する市場とやらから回収すればいい。
そしてそれを記録している証券取引委員会のサーバーは、双子のタワーと一緒に葬ってしまえばいい。
ル・シッフルは、彼への復讐などはどうでもいい。
そんなことは考えている余裕はない。
目の前の失ってしまった雇い主の金の穴埋めをしなければ。
腕に覚えにあるカジノに乗り込んだ彼は、ボンドにそれを邪魔してほしくなかっただけなのだ。
しかし、そうした男たちの凌ぎ合いも、結局は「ヴェスパー」という「クアンタム」のかけた保険に全ては回収されてしまうのだが…
クアンタム
全くフリーのシルヴァ以外は、「クアンタム」と深く浅く関わっていた。
結果的には、あの「ヴェスパー」でさえ…
政府要人にもくい込んだこの組織の意図も目的も全容も不明で、我らがボンドは1ミリのダメージも与えられていない。
「スペクター」と関係性があるのか、それともまったく別の組織なのか。
コレが今の僕には最大の疑問だ。
希望としては、このリアリティのある悪にまみれた「クアンタム」をボンドに何とかして欲しいが…
以前の噂では、前後編2部作の全編となる本作。
その中で「スペクター」とのケリが就くのか、それとも大いなる闘いの幕開けになるのか、楽しみにして待つとしよう。