振り返ってみれば、Mの独善と独断が世界に未曾有の危機を招いてしまったことになる。
そして、その代償は高くつくことになった。
ヘラクレス計画
内閣の承認を得ることもなく、ファイルさえも存在しないその計画は、在籍中だったジェームズ・ボンドにも強く中止を求められていた。
しかし、Mは自らの独善と独断で完成させてしまった。
彼はEvilではない。
その開発の背景にあったのは、彼の善意だ。
ギャレス・マロリーは、捕虜経験もあり現場の苦労を肌で知る男だ。
なにしろ、ジェームズ・ボンドと現場で銃撃戦を繰り広げた初めてのMなのだ。
シリーズには欠かせない3人のキャラクターが満を持して登場。 しかし、それぞれのキャラクターは、これまでとは違うニオイを放っている。 ミス・マネーペニーは、「ミス」と呼ぶにはカービン銃が似合いすぎるし、Mは銃撃戦に参加する。 それになにより、キュートな老人だったQは、面倒な若者に生まれ変わっている。
情報源: 『007 スカイフォール』見た人のためのレビュー(3) MI6編 「理想的な上司と面倒な若者」 | ALOG
そんな彼だからこそ、現場の諜報員を危険に晒すことなく一瞬で敵を殲滅できる兵器に執着したのではないだろうか。
DNAでターゲットがロックできるのなら、その他の人間には全くの無害。
そしてターゲットとなった相手には、まさしくNO TIME TO DIE.
一瞬で死にいたしめることができる。
事実、その兵器は潜っていたスペクターの残党を一瞬で殲滅し、あの厳重な獄中からもオペレーションを仕切っていたエルンスト・スタヴロ・ブロフェルドを葬り去ることができた。
だが、それは彼が発令したオペレーションではない。
しかし、ヘラクレス計画は、ヘラクレスという名前通りの運命を辿った。
ゼウスの子であるヘラクレスは、狂気を吹き込まれ、我が子をその手で殺してしまう。
MI6によって開発されたナノボットは、サフィンに吹き込まれたプログラムによって一般人にも牙を向くようになる。
Mの代償
狂ったヘラクレスは彼が守るべきダブルオーエージェントの命を奪い、ザ・カンパニーの中で唯一信頼できるであろう男の命も奪い、スペクターよりも直接的な危険をもたらす組織を生み出してしまった。
日本の北方領土という政治的に腫れ物のエリアに、日本にもロシアにも事前の通告なく英空軍機を飛ばし、ついにアメリカまで首を突っ込み始めた。
そんな状況下で、関係各国に一切の説明のないまま、英海軍の駆逐艦によりミサイル攻撃を実施する。
だが、その後も彼は、あのマホガニーのデスクに座り続けている。
一介の公務員の始末書や辞職ですまないレベルの状況は、まるで起きなかったかのように…
きっと在位70年を迎えるあのファーストレディーが、強い咳払いでもなさったのだろう。
自らの行いで英国に政治的な貸しを作らせ、世界に危機をもたらした。
そして、ジェームズ・ボンドを2度も失った。
今度は、祝福できない理由で…
「私は、ひとつ正しいことをした」
そう言って息を引き取った前任者の肖像画の前で、彼は一体何を思っているだろう。
想像がつくのは、彼が口にするウィスキーが、たいそう苦いものであるということだけだ…