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2025 第59回 スーパーボウル「4+0=6」

カンザスシティ・チーフスとフィラデルフィア・イーグルスの対戦となった第59回 スーパーボウルは、2年ぶりの再戦。
同じく「ゼロ」がキーナンバーになった。
しかし、前回の「5+1=0」と今回の「4+0=6」とは数式はもちろん、結果が大きく異なる。

NFL Films Presents: Silent Super Bowl

4+0=6

この日、イーグルスは、パトリック・マホームズを相手に、ただの一度もブリッツを仕掛けなかった。
正真正銘のブリッツ・ゼロ。
得られた結果は、6サックだ。

フロント4だけでギッチリとポケットを圧搾すると、足で逃れようとするQBを逃さず握りつぶした。
7人をパスカバーに回せることが可能になったイーグルスは、ほぼゾーンカバーで迎え撃ち、カバー4を多用する。
それは、2INTという結果につながる。

ビック・ファンジオ

このディフェンスを仕切ったのは、DCのビック・ファンジオ
彼は、コーチ生活をスタートさせたフィラデルフィアに恩返しをしたことになる。
もっとも、そのときのチームはUSFLだったが…

あのドームパトロールという伝説のLBユニットを作り上げて以来、名うてのDCとして知られる彼は、イーグルスのディフェンスを立て直すためにやってきた。
前年、ようやくリーグのブービーを逃れられた程度のディフェンスは、今シーズン、NFLトップのパフォーマンスだ。

だが、彼とて、これまでマホームズ率いるチーフスに勝ったことはなかった。
8度の対戦で、1度もだ。

チェスマッチに例えられるフットボールだが、やはり、それはチェスではない。
コーディネーターさえいれば勝てるというものでもない。
フィールドで実践する選手がいなければ、ゲームを行うことすら叶わない。
さらに、選手という人間は、フィールドで予想以上の結果をもたらす。
ビック・ファンジオが、ようやくマホームズに初勝利を挙げることができたのは、それを可能にしてくれる選手たちに出会えたからだ。

NFL Films Presents: The Eagles’ Declaration of Defense

クーパー・デジャン

2024年のNFLは、20年ぶりのシーズンだった。
何がと言えば、白人のCBが2人もスターターになったのだ。

そのうちの一人が、クーパー・デジャン
しかも彼は、現在のNFL守備で、全てを求められるスロットCBのスターターだ。
イーグルス守備の泣きどころだった、このポジションに彼がつくと、その結果は劇的に改善された。
そうして、彼は、Next Gen Stats始まって以来のパフォーマンスを叩き出し、All-Pro Teamに選出された。

この日も、TE トラビス・ケルシーのカバーにつくと、何ら決定的な仕事をさせなかった。
カバー4の手前のゾーンで居場所を見つけられなかったTEは、勝敗にかかわらない記録を更新することしかできなかった。

だから、これは、ご褒美なのだ。
NFL最初のINTの舞台がスーパーボウル。
そうして自分の誕生日にPick6を決めた、スーパーボウル史上初の選手になったのは。

このプレイは、NFL WAY TO PLAYにも選出されている。

ゾーンをカバーしながら、QBの目線に正しく反応してINTに仕留める。
位置的に難しいと思えた場所からPick6に持ち込めたのは、そのスピードのおかげだ。
時速34kmを超えたスピードは、今シーズンのディフェンスのボールキャリアとしては最速だ。

パスカバーだけではない。
彼は、そのタックルでも、NFL WAY TO PLAYに選出されている。

まさに、Textbook!と叫びたくなるような、基本に忠実な美しいタックルは、強烈でもあった。
20kg以上も体格の優る王様 デリック・ヘンリーが、クリーンに薙ぎ倒されている。

史上2番目の24点差

クーパー・デジャンのPIck6で、もうゲームは決まったように見えた。
それは、チーフスの攻撃が、何ら糸口を見出せなかったからだ。

前回の対戦では、数式も結果も違っていた。
Sackadelphiaと異名をとるイーグルスの強力フロントに、ただの一度もサックを許さなかったのだ。
アウトサイドのラン攻撃を徹底し、エッジ自体をPOAに据える。
TEにはチップブロックを徹底させ、TEスクリーンも有効活用する。
そうした、きめ細かな工夫が見受けられなかった。
さらにアウトサイドのラッシュを弱める効果があると言われているオプションプレイも皆無だった。
コロラド大学でオプションRBだったエリック・ビエネミーがOCのころは、随所にオプションプレイがコールされていたのだが…

そうして前半終わって24-0。
前半の24点差は史上2番目のことだ。
では、史上1位はといえば、前半25点差のついた、あのゲームだ。

1987 – Redskins vs. Broncos SUPER BOWL XXII “In the second quarter we scored 35 points on only 18 plays.” – Doug Williams

NFL 100 | NFL.com

ザ・クォーターと呼ばれる、2Qだけで35点奪った猛攻が有名だが、僕の一番強い記憶は別のところにある。
それは、レッドスキンズのパスラッシュだ。
このゲームでも、レッドスキンズは、ほぼブリッツを使用していなかったと思う。
なにしろ、チャールズ・マンとデクスター・マンリーの両DEを含むフロント4が、常にポケットを圧搾し続けていたからだ。
スナップと同時に握りつぶされるポケットから、足があるはずのジョン・エルウェイが一歩たりとも逃げ出せなかった記憶が強い。
このゲームも、5回のサックが記録されている。

成功したホームラン封じ

このゲームの一つの見どころであった、セイクワン・バークリーをいかに封じるかという点では、スティーブ・スパグニョーロは成功した。
セイクワンお得意の一発ホームランは封印した。
さらにAVG 2.3ヤード RYOEもマイナス43ヤード。
そういう意味では、完封したに近い。
だが、オフェンスが崩壊してしまっては、流石にゲームにならなかった。

そもそも、これまでの本当の僅差のゲームでは、パトリック・マホームズの足がキーになって拮抗したゲームをブレイクしていた。
今年のプレイオフは、さらに顕著で、反則のエクストラヤードも必ずオマケでついてきた。

トラビス・ケルシーが余計なことを口走っている相手は、あのダマー・ハムリンだ。
センシティブなことを口にしたのではないかと、推察している。
そうでなければ、ビルズのチームメイトが、あれほど激昂するわけがない。
Anyway、イエローを投げつけられたのは、ビルズの方だった。
こうした勝ち上がり方が、今年は、いくつかあるように感じられた。
それが、チーフス入場時の大ブーイングにつながっているのだと思う。
強いから、やっかまれているんだというトラビス・ケルシーの認識は、ずいぶんズレている。

トム・ブレイディ

さて、このゲームでは、現役を離れたトム・ブレイディが解説席にいた。
その大きなアイコンがもたらす影響は、チームによって真逆のようだ。

GOATがプレイオフ会場にいると、全く勝てないマホームズのチーフス。

一方、イーグルスがスーパーボウルを制する時には、常にGOATがスタジアムにいる…

こりゃまた、新たなジンクスが誕生するんだろうか…

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