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Apple TV+「テッド・ラッソ:破天荒コーチがゆく」シーズン3 最終回「So Long, Farewell」レビュー

ついに最終回を迎えたテッド・ラッソ:破天荒コーチがゆく
今回で完結にふさわしく、見事な大団円、グランドフィナーレだった。

結局のところ、レベッカの望んだ結果はもたらされた。
別れた夫であるルパートに、ただただ恥辱を味わせるために始まった彼女のAFCリッチモンドの経営は、その目的を果たすことができた。
しかし、目にした光景は、彼女の思い描いたものとは全く違うものだった。

“BELIEVE” & トータルフットボール

アメリカはカンザスシティの、カレッジフットボールのコーチを監督に据えたのは、別れた夫が所有していたチームに最悪の成績をもたらし、結果的に恥辱を味わせるというレベッカのシンプルな復讐のプランに基づくものだった。
いくらアメリカンフットボールで優勝経験があるとはいえ、それはカレッジの、しかもディビジョン2に過ぎない。
NFLですらないのだ。
サッカーをまるで知らず、プロ選手のコーチをしたこともない男は、チームに最悪の成績をもたらすはずだった。
ところが…

そう、まさしく、ところがだ。
彼が3年かけてコーチングしたチームは、16連勝も果たし、御伽噺のようなパフォーマンスを見せたのだ。
それは、テッド・ラッソ自身が編み出した戦術の存在も大きい。
しかし、その戦術には前例があった。
テッド・ラッソのアイディアは、あのトータルフットボールそのものだった。
しかし、彼は独創だけで、そこにたどり着いたのだ。
正確には、NBAの観戦中にトライアングル・オフェンスに触発されてではあるけれど…

理想的ではあるけれど、いざ実践するには難度の高いトータルフットボール
全員がポジションに関わらず流動的に動くには、全員の息が合っていなければならない。
この状況で、何をしたいのか、何をして欲しいのかを肌で感じて動けるチーム。

だが、AFCリッチモンドには、その土台があった。
“BELIEVE”なんてシンプルだが実践し続けるには難しいそれは、すっかりチームに浸透していたのだ。

https://www.tumblr.com/alog4/719111265985986560/tedlassosource-ted-rips-up-the-poster-and

そうしてサッカーを全く知らなかったはずのテッド・ラッソは、VARに頼らなくとも、際どいオフサイドを判別できるようになっていた。
成長したのは、選手たちだけではないのだ。

しかしチームからファミリーへと親密度が増した彼らに、大事な試合直前に見せるべきビデオを間違うとは、コーチ陣もまだまだ…

レベッカの手にしたもの

レベッカの復讐は、AFCリッチモンドに不名誉をもたらすことではなく、名誉をもたらすという、当初とは違う方法で果たされることになった。
それは彼女に、新しいファミリーをもたらすものでもある。
AFCリッチモンドというチームも、それを取り巻く人々も…
復讐を思いついたころの彼女には、そんな光景など思い浮かぶはずもなかっただろう。

https://www.tumblr.com/alog4/719111190823026688/waywardted-and-most-importantly-to

そうしてそのファミリーを作り上げた大黒柱、テッド・ラッソとの別離のシーンはせつない…
わざわざ、乗らない飛行機の搭乗券を買ってまで、しかも、いつものクセでファーストクラスのそれを買ってまで、テッド・ラッソにきちんと別れを告げにきたレベッカ。
号泣を全力で踏みとどまる彼女の姿は、one of the bestだ。

https://www.tumblr.com/alog4/719130654883921920/dani-clayton-rule-of-threes

ファミリーってさ…

見ていくうちに普段は意識していないファミリーという存在が、自分の中で大きくなっていく。
生まれた瞬間からのファミリー、後から作っていくファミリー。

親は呪縛を与え、子供はいずれ巣立つ。
そして配偶者には、離婚という非常脱出装置もある。
チームにしても移籍や引退からは免れられない。
そうしていずれにも、死はマストでつきまとう。
だから…
だから、家族という繋がりは絶対的なようでいて、それでいられる期間は、案外短い。
人生をよく知るテッド・ラッソが息子との時間を最優先に選択したのは、それを知っているからだろうか。
しかし、息子との時間を取りたいだけならば、レベッカが勧めるように息子をロンドンに呼び寄せる選択肢もあったはずだ。
だが彼は、カンザスシティに戻り、息子と過ごすことを決めた。
高額になるであろう年棒も、もう少しで優勝するであろう成長したチームも捨てて…

なぜ彼が、そのような選択をしたのかは、ダイヤモンド・ドッグズで、是非とも取り上げて欲しいものだ。

Coach ビアードの選択

Coach ビアードも、いや、ウィリスも重大な選択をすることになった。
ついに伴侶となるべき女性、ジェーンと巡り会った彼は、ロンドンに残り、彼女とファミリーとなる選択をする。
ウィリスが最後までテッド・ラッソについて行こうとしていたのは、彼がテッドから多大な”BELIEVE”を受け取っていたからだ。
シーズン3に至って、初めて彼らの絆の深さがどうして生まれたのかというエピソードが語られることになった。
そうしてCoach ビアードは、自分が与えられた”BELIEVE”をネイトにもお裾分けすることにした。

https://www.tumblr.com/alog4/719110742539993088/cinematicnomad-ted-lasso-311-mom-city

今シーズン影の薄かったCoach ビアードが放つ強烈なコントラストは、インプレッシブだった。

スポンサーのいないコンテンツ制作

Apple TV+というスポンサーのないコンテンツ制作には、忖度のない小気味いい表現というメリットもある。
「Facebookには高齢者とレイシストしかいない」
「エプスタインと交友の噂がありながら無傷に終わった富豪たち」
なんて直球の表現が盛り込まれている。
さらに
「4位なんかで、どうしてチャンピオンという名のついたリーグに参加できるんだ?」
「金のためさ」
なんていうやりとりも。
他にもスポーツがラグジュアリー化していくことへの批判もあった。

レインボーなAppleだが、LGBTQのお話は決して押し付けがましくなく自然なものだった。
スポンサーがついていないAppleが、これだけ自然に演出するのなら、声高に不自然に騒いでいるお方は逆説的にスポンサーがついているということなんだろうか?

https://www.tumblr.com/alog4/719140448692813824/montygreen-ted-lasso-312-so-long-farewell

金魚になっても忘れないよ!

予定通りであれば、シーズン3が最終となるはずだ。
そういう意味でも、きちんと大団円、グランドフィナーレを迎えたことは喜ばしい。
いかにトップのプロスポーツでも、それはやはり人生に一部に過ぎない。
そうして肩の力を抜いて描かれたドラマは、程よい苦味とクスリと笑えるユーモアが絶妙で、気分よく視聴することができた。
僕が欧米人だったなら、もっと爆笑していたり、強い毒気に当てられていただろうか…

Anyway、フラットにじんわりと進んでいく物語を3年にわたって楽しませてもらえたことに感謝しかないよね。
こんな時に言うべき言葉は、万国共通でシンプルなはずだ。
Thank you, Ted.
金魚になっても忘れないよ!

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