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DRAFT DAY

「ドラフト・デイ」見た人のためのレビュー「デスパレートなGM」

NFLの中で、もっともデスパレートなGM(ゼネラル・マネージャー)のサニー。
自らが解雇したヘッドコーチである父親を亡くし、彼女に妊娠を告げられ、そしてドラフト当日を迎えることになる。
それよりも何よりも、彼のチームは、あのクリーブランド・ブラウンズなのだ。

厳密なNFLドラフト

NFLのドラフトは厳密だ。
優勝旗を手放したくない強欲じじいが目を光らせる、日本プロ野球の商店街のクジ引きみたいな抽選会とは訳が違う。
リーグの戦力を均衡化するために、成績下位のチームから順番に指名する権利が発生する。

前シーズンの成績下位球団から順番に選手を指名する完全ウェーバー方式が採用されている。まずプレーオフに進出できなかった20球団に対し、レギュラーシーズンの成績が悪かった順に優先指名権が与えられ、その後は、プレーオフで早く負けた順、そして最後にスーパーボウル優勝球団となる。
ただし、トレードにより指名権が移動したり、フリーエージェントにより選手を失った球団に追加指名権が与えられる。
各ラウンドごとに指名する球団に制限時間を与え、その間に指名する選手を決定するが、指名権のトレードが時間内に行われる事もある。

情報源: NFLドラフト – Wikipedia

その厳密さは、同率だったチームにコイントスでケリをつけさせるほどに徹底している。

明確化された指名順位は、その年の有望株とあわせて、どのチームが誰を手に入れられるか予想しやすくする。

Bucky Brooks mock draft 2.0: Steelers among 5 clubs to pick QB

そこに指名権をトレードする余地が生まれる。
どうしても1位指名権が欲しいチーム、今年は逼迫していないチーム、お互いの思惑のもと、生身の選手も巻き込んで、取引は進んでいく。
ダラス・カウボーイズが、当時の大スターであるハーシェル・ウォーカーと引き換えに手に入れた5名の選手と6つの指名権が、その後の黄金期をつくりあげたのは有名な話だ。

リアル・ブラウンズ

NFLのコミッショナー自ら実名で登場するほどNFLが協力している本作は、登場するチームも全て実在のもの。
もちろんクリーブランド・ブラウンズも実在するし、「あそこのGMなら飛びつくだろう」と足下を見られる状況もそのままだ。
上のリンク記事を見てもわかるように、今年も全体1位の指名権を持っている。
毎年このあたりで大枚叩いちゃ、GMのサニーが言うところの「カス」を引かされている。

ジム・ブラウン、バーニー・コーザーというレジェンドも実名で登場しているが、厳密に言えば、彼らはこのチームのレジェンドではない。
伝統と実力を兼ね備えたブラウンズは、看板を剥がされ、今ではボルチモアで絶賛営業中だ。
看板だけ受け継いだこの新参チームでは、まだそうした人種は生まれていない。

ビッグ・アップセット

この映画は明快だ。
胸のすくような逆転劇なのだ。

冷徹なスポーツビジネスの裏側を暴くようなものでなければ、フットボールマニアでなければ理解できないというようなものでもない。
もちろん、フットボールをご存知の方なら、あのドラフトの裏側は、ウォールームはこうなっていたのかと感慨もあるだろう。
だが、それもオマケに過ぎない。
ビジネスものの逆転劇のようでもあり、法廷ものの逆転劇のようでもある。
しかし一番しっくりくるのはスポーツの逆転劇だ。
スポーツ「もの」ではなく、試合そのもの。
ドラフトというゲームに、残り時間わずかで大逆転を演じるというやつだ。
それも、ビッグ・アップセットと呼ばれる類のもの。
その爽快感こそが、この映画の本質だ。

フットボール以外な〜んにもないクリーブランド。
しかし、その唯一の誇りは、文字通りホコリをかぶったまんま。
名将と呼ばれたヘッドコーチの父を自ら解雇し、ついこの間、その父はなくなった。
期待と不満に膨らむ地元ファン。
純粋な強化より、目玉を欲しがるオーナー。
スーパーボウル・リングをひけらかしながら、エゴを押し通そうとする新ヘッドコーチ。
これだけでも胃薬が手放せないだろうが、ここに妊娠を告げる彼女と、遺言の執行を迫る母と前妻が現れる。
それは全て、ドラフト本番まで12時間を切った中で発生する状況だ。
そんな中、GMのサニーは、トレードで全米大学最優秀選手ハイズマン賞を受賞した今年いちばんの有望株を指名する権利を手に入れる。
優等生でもあり人気者である彼の指名予測に、オーナーも地元ファンも大喜び。
しかし見つかった瑕疵。
その小さな瑕疵を、彼は見過ごすことができなかった。
だが、成立してしまったトレードの後では、3年分の1位指名権は、もう取り戻せない。

ここからのラストドライブは、見ものだ。
指名の持ち時間をあらわすクロックが、ゲーム・クロックの代わりとなって、僕らにラスト・ツーミニッツ・オフェンスの醍醐味を体験させてくれる。
デスパレートからのカムバック。
これが、爽快でない訳が無い。

さてもうすぐ本物のドラフトも開催される。
FA市場も例年になく大きな動きがある本年は、どんなドラマが展開するのだろうか?
もちろん、その裏側を知ることはできないが、本作でもあいかわらず実名でこき下ろされていたライアン・リーフの二の舞だけは、誰も望んでいないだろうが…

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