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「ハード・コア」観た人のためのレビュー「アノ空気を醸し出すキャスティング」

狩撫麻礼の原作は、いつだって世の中とうまく折り合えないもの達の生きづらさを、カタチにして、シーンにして、物語にして突きつける。
なんというか、ハード・コアは、そうしたアノ空気を見事にフィルムに収めてる。

間違った世の中

社会の底辺どころか、その枠外で生き永らえる権藤右近(山田孝之)と、バリバリの商社マンとして社会の上澄みにいる弟・左近(佐藤 健)。
全く別の人生を送っているというよりは、正対称の人生というべきなのかもしれない。
それは、彼らが「世の中は間違っている」という共通した認識に立っているからだ。
弟の左近は、それを前提に生きていくチカラがあり、兄の右近はそれを前提として飲み込む事ができない。
だから、スタート地点は同じだったはずなのに、正対称の今がある。

居酒屋での兄弟げんか

このシーンは、とてもインプレッシブだった。
世直しといいながら、ただ社会から逃げるように生きている兄に弟の左近が言い放つ。

「何が世直しだよ。間違ってんのが世の中だろ。」
さらに
「自信がねえのを、ハードボイルドで誤魔化してるだけだろ。」

殴り合い、お互いがお互いの正論をまっすぐぶつけ合う姿に、まわりの客は怯えるのではなく、ただ静かに聴き入っている。

BGMも少なく、登場人物も少なく、その登場人物の台詞も少ないこの映画は、そうしたものが染みやすい。

ロボオ

幼児が落書き程度に描くロボットのルックスを持つロボオ。
その安直な名前は、そのルックスにふさわしい。
しかし、その中身はとんでもない。
量子コンピューターを搭載したそのロボットにはAIがあり、学習しながら感情も身につけていく。
事前にプログラミングされていない行動も選択し、しかも、その選択の最中に迷っているという自己認識さえある。

誰かに見つかったら大変だと怯える右近だったが、世間は、といっても狭い世間だが、案外自然に受け入れていく。
行動を共にする事がすっかり自然になった右近は、弟・左近の前でも隠そうとしない。
当たり前に振る舞う兄に当たり前に会話していた弟・左近が

「だめだ、我慢できねえ。兄貴、一体そりゃなんだ?」

とロボオの存在を問うファーストコンタクトのシーンも面白かった。

情報源: ニュース|映画『ハード・コア』

なんといってもキャスティング

静かだが、強烈な毒を含んだ、この寓話のような物語を成立させているのは、やっぱり適役の俳優さん達だろう。

山田孝之

情報源: ABOUT THE MOVIE|映画『ハード・コア』公式サイト

役柄によってカメレオンのように変わる彼は、今回しっかりと右近だった。
特に冒頭の世慣れしていない感じは、そのまんま。

佐藤健

情報源: ABOUT THE MOVIE|映画『ハード・コア』公式サイト

ルックスの良さを自覚しており、それを利用する能力も持ちながら、そこだけに騙される世間を小馬鹿にしているような…
そんな毒を内包した感じが滲み出ている。

荒川良々

情報源: ABOUT THE MOVIE|映画『ハード・コア』公式サイト

彼は、この牛山という男を演じるために俳優になってくれたんじゃないかと思うくらい、そのまんまだった。

情報源: ABOUT THE MOVIE|映画『ハード・コア』公式サイト

「康すおん」もいい味だった、松たか子もね。
でも、なんといっても

石橋けい

美人でもなく、不美人でもなく、ただただセックスの魅力で男を沼に引きずり込む女。
兄貴どころか、誰の手にも負えない。
そんな女の匂いを満遍なく醸し出していた。

あーだこーだと書いてきたけれども、この作品のアノ空気感だけは、実際に観てもらうしかないんだよね…

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