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「密告はうたう2 警視庁監察ファイル 」観た人のためのレビュー「インプレッシブなキャストたち」

「密告はうたう2 警視庁監察ファイル 」は当然ながら、お話も面白い。
だが、この作品を独特なものにしているのは、その圧倒的な緊迫感と臨場感。
それを作り出しているのは、インプレッシブなキャストの皆様。
そして、シーズン2では、新たなるスターも誕生した。

どのキャストも素晴らしく、この密告ワールドの構成員として欠かせない。
その中から、もっともインプレッシブだった皆様について触れたい。

須賀透 = 池田鉄洋

この人について触れないわけにはいかないだろう。
シーズン1から、この密告ワールドの空気を形成した最重要人物。
これまで、コミカルな役どころしか見たことがなかった僕は、須賀の与える重圧に押し潰されそうになった。

「どうやら、ここがお前の限界のようだな」

なんて言われたら、僕ならソッコーで職場放棄するだろう。

この上がった顎と、左袖をこまめに整える姿がインプレッシブだった。
シーズン2では、「長袖の須賀」と呼ばれるようになった理由も明らかになり、しかもそれは、単なる思い出話じゃなかった。

高圧的だが、人を見下しているわけではないようだ。
特に佐良に関しては、ある程度の信頼を寄せている。

曰く「俺と能馬さんを失望させるなよ」と囁き、「佐良、何が引っかかる?」と意見も求めている。
極めつけは、自分は監察業務を外されているからとはいえ、最後の判断を佐良に委ねたことだ。
「佐良が判断しろ」と…

今回、12年前から引きずっていたことの真実がようやく明るみになった。
彼の火傷の痕が消えることはないだろう。
しかし、もうそれが、疼くことはないんじゃないだろうか…

長富将司 = 猪塚健太

濃厚なキャストで完成されていたと思われた密告ワールドに誕生した、新たなスター。
それが長富二課長だ。

イケメンなだけの線の細い男と思っていたら、とんでもなかった。
彼と能馬監察官の聴取シーンは、Best boutと言っていい。

サッチョウのキャリアである彼は、本来、警視庁の一介の監察官に時間を作ってやる必要などない。
だが、彼は正々堂々、聴取に応じると、あの能面のような男の尋問を撃退し続ける。
趣味のジョギングに言及された際、飛ばしの携帯を捨てる場面をおさえられたと確信した彼は、そのことについても堂々と切り返すであろう余裕を見せつける。
それに勘づいた能馬監察官は、その質問を封印し、佐良たちにも知らせていなかった隠し球をぶつける。
上級者同士の駆け引きは、見応え満載だ。

トーンが変わったのは、自身が襲撃されてからだ。
切る方だと思っていた自分も、尻尾の一部なのかと疑念を持ち始める。
そうしてそれは、六角警務部長の殺害で確信となる。

入院中の病室に、来るであろうジンイチの佐良を迎えるために、あらかじめ三揃いのスーツに着替え、髪をセットしていた姿も印象的だった。
互助会への加入も、その強い正義感のためだったのだろうと思わせる彼は、その強い正義感ゆえに、ジンイチに洗いざらいの密告を投げつける。
弱みを握られていたんですね?と問いかける佐良に、「泣き言を言う気はない」と腹から絞り出した力強い声で答えるシーンがハイライトだ。

皆口菜子 = 泉里香

申し訳ないが、これまで、キレイなお姉さんの印象しかなかった。
しかし、劇中、キレイなお姉さんの姿は、どこにも見当たらなかった。
いや、これは腐してるわけじゃない。
僕らが画面で目にしたのは、皆口菜子というライブな女だ。

やれ銃撃されれば、過去を思い出せば、PTSDを引き起こし、過呼吸の挙句、取り乱す。
そんな場面ばかりが前半では描かれる。
須賀の言葉を借りれば、こうだ。

「ジンイチに1年いて、そのザマはなんだ。交通課にいた方がよかったんじゃないのか」

激しく同意するほど、見ている僕らも不快感を感じていた。
だが、逆に言えば、僕らに不快感を感じさせるほどの演技を見せていたということだ。
このあと、皆口菜子は、さまざまな顔を見せるようになる。
相次ぐ情報漏洩に、誰も信じられなくなった疑心暗鬼の表情。
婚約者を撃った犯人がいると知りながら、何も手を打たない組織への失望と怒り。
弱々しかった交通課のお姉さんが、ふてぶてしい監察係になっていく様子を、泉里香は演じていたのだ。
圧巻は、ラストに近いシャオテックの工場前のシーンだ。

すべてが終わり、能馬監察官と同席して、全ての聴取を行った彼女は、斎藤康太の「うた」まで聴くことになった。
彼が抱え込んでいたものに、彼が殉職した現場で、想いに馳せる。
泣きじゃくる彼女の携帯に、一本の着信が入る。
ハッとする彼女の表情から、それは佐良の入院先の病院からのものであると推察される。
その知らせに怯える彼女は、ディスプレイを見つめながら、すぐに応答することができない。
恐々、電話に出た彼女の表情が、一瞬にして安堵に変わり、涙の質が変わっていく。

そんなシーンをセリフもなく、ドロドロの泣き顔も見せながら演じた女優さんに、ただのキレイなお姉さん呼ばわりするのは、甚だ失礼というものだろう…

etc. エトセトラ…

その他にもインプレッシブなキャストは沢山いる。
ひょうひょうとした、モダンな、ふてぶてしさで波多野副総監を好演した渡辺いっけい
決して反省していないし、キャリアの自分なら、最後はなんとか逃れられると思っている雰囲気を見事に醸し出していた。

榎本を演じた 宇野祥平もいい味を出していた。
僕は、彼が桃の木マリンを演じた時から覚えているのだけれど、本当にあちこちで見るようになったよね。
僕は、すっかり彼が「トカレフの男」だと思って納得していた。
だが、本当の「トカレフの男」は別にいて、それは悪魔のような男だという。
そうして後ろ姿しか見えなかった富樫が登場したとき、すごくしっくりした。
物語が進めば進むほど、村上淳が冨樫と一体化していった。
そして、最後、冨樫が全ての「うた」を歌い終えたあとの、全ての重荷から解放されたあとの安堵の表情は忘れることができない…

能馬監察官の「けっこう」という甚だ短いセリフに、あれほどのバリエーションをつけられるのも、 仲村トオル以外には存在しないだろう。
もっとも、シーズン2では、それを発せられるような、けっこうな場面は少なかったが…

主演の松岡昌宏も意外だった。
普段の快活なキャラは封印し、ガッチリとした肩を落とした男は弱々しく、影しか見えなかった。
もはや、彼以外の佐良は考えられない。

ちょっとイケメンで、ちょっと仕事もできる斎藤康太を演じた戸塚祥太もインプレッシブだった。
明るさの中に、ちょっとだけ含まれていた影の部分を上手に匂わせた。
脅迫に怯えながらも、婚約者のために毅然と手を切ることを決断し、裏切られ、焦燥していく感じもせつないよね…
彼の死を目撃した冨樫のココロに刺さるのも納得だ。

年下のくせに、ふてぶてしく、一筋縄ではいかない雰囲気を醸し出す毛利を演じた浜中文一も、いい味出してたね。
佐良と皆口が同僚を殉職させていることを知ると、「殉職とか、まっぴらなので」とあからさまに組むことを嫌がる。
彼は、クライマックスでも、同様の台詞を吐く。
「殉職とか、なしにしてくださいよ」
だが、その意味は、あの時の台詞とは全く別のものなのだが…

そういえば、毛利がサイバーセキュリティ対策本部から移動してきた理由は語られなかったね。
所轄時代は警務部にいて、裏で情報を取れるルートも持っている。
斎藤康太のような存在なのか…
もし続編があるとすれば、そのあたりが語られるのだろうか。
殉職に、やたらと敏感な理由も…

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