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「密告はうたう 警視庁監察ファイル」観た人のためのレビュー

ジンイチに届く密告は、「うた」の一部ではあるがサビではない。
「うた」の全てを聴き終えるには、コウカクが必要となる。
そうして、行動確認は、そのコウカクの実施者に対してさえ及ぶことになる。

Season1スペシャルダイジェスト

密告を投げる者

その密告を投げた者は、受け取ったジンイチ、すなわち人事一課監察係が、どのように動くのかを熟知している人間だ。
その優秀な監察業務遂行能力を熟知している人間は、さざ波さえ起こして仕舞えば、大波にまで発展することを知っていたのだ。
だが、そのチカラは密告者の予想を遥かに超えてしまった。
水面の下で息を潜める密告者は、引き摺り出されることになる。
それを可能にしたのは、公安出身の人間で占められる人事一課の中にあって、異色の捜査一課出身の佐良の存在だ。
刑事部出身の人間だからこそ知り得た情報が、狡猾な密告者にトドメをさすことになる。

コウカクの行動確認

人事一課に異動になって一年、佐良は初めての監察業務につくことになる。
バディを組むのは、須賀係長。
名目上はバディだが、この男はコウカクを行う佐良自身の行動確認を行なっているように見える。
佐良という男が、どんな局面で、どんな行動を取るのか。
OJTとは程遠い、突き放した実地テスト。

「ここがお前の限界のようだな。」

そう言い放つ須賀の姿に、ある種の導きを感じてしまうのは、僕の希望的観測に基づく誤解なのだろうか…

佐良の異動理由

そもそも、なぜ佐良は、人事一課に異動することになったのだろう?
捜査本部で共有していない行動により、後輩を殉職に追いやってしまうという大失態。
その張本人の刑事が、栄転と言われる天下のジンイチさんへの異動だ。
状況が状況だけに刑事部では引き取り手がなかったとも考えられる。
でも、なぜジンイチに?

もし、殉職した斎藤が佐良の見立て通り「ハム」の人であり、あれが公安指揮下の作戦であったのなら、佐良が気づいているのか確認するために手元においたという見方もある。
公安出身者で占められるジンイチに置いておいて、長期の行動確認にあたろうという見方だ。

あるいは、斎藤を撃った犯人が長期の監察対象であり、来るべき日に備えて拾ったという考え方。
もともと佐良は所轄からホンチョウの捜査一課にまで上がった刑事だ。
捜査能力は優秀なはずだ。
その優秀さが、斎藤を通じて公安畑の人間の耳に入っていたのかもしれない。
そうして公安と切り離された優秀な人材を監察官の能馬は欲していたのかもしれない。
そのために拾っておいた。
なぜなら、長期の監察対象が公安の関係者だから…?

誰も信じないから信じられる

結果、佐良は成果を出し、信頼を勝ち取る。
それは、佐良が誰をも信じなくなったからだ。
彼は、監察官の能馬さえ疑念の対象から外さなかった。
事実を確認するまで、ただ上司というだけでは信用しなくなった佐良を、監察業務に適した人材だと監察官の能馬は認めたのだろう。
あの「能面の能馬」に「拾っておいた甲斐がありました」と言わせたんなら、それは最大の賛辞だ。

だからこそ、そんな人間の推薦だからこそ皆口もジンイチへ迎えられることになる。
もっとも促したのは能馬だが…
それが事前監察中に接した皆口を評価してのことなのか、あるいは来るべき日に備えてのことなのか、あるいはその両方なのか…

ラストシーンで、ようやく「能面の能馬」と「長袖の須賀」は笑顔を見せる。
笑顔と言っても、唇が2ミリほど上がっただけの笑顔だが。
それでも、あのふたりを思えば満面の笑みと言っていいだろう。
それにあの能馬監察官が、こう言っているのなら、大団円と言っていい。

「けっこう。今回の事前監察は、ここまでとしよう。」

緊迫の紅白戦

警察モノでもっとも緊迫するのは内務監査もの。
対テロ組織や犯罪者と警察が向き合う話より、緊張感が一気に高まる。
セルピコも忘れられないインプレッシブな映画だった。

敵は向こうのサイドラインにいるわけじゃない。
同じジャージを着ている仲間から、裏切り者を探すのだ。
捜査のプロ同士が、身内と同僚が、どう繋がっているのかもわからずに向き合う。
スポーツでも、対外試合よりチーム内での紅白戦がもっとも激しいと聞くことがある。
そして内務監査で厄介なのは、誰がアカなのかシロなのかの見分けがつかないということだ。

インプレッシブなキャスト

この作品の緊迫感が圧倒的だったのは、キャストの力も大きい。
適材適所のキャストが高い臨場感を生み出していた。
お馴染みの強いバイプレイヤーたちが、あちこちで力を発揮していた。

インプレッシブだったのは、ブラザートム
定年間近の捜査一課の刑事を好演していた。
そして、松浦祐也
悪者と呼ぶのも憚られるようなゲス野郎を、きちんと胸糞悪く演じていた。

仲村トオルの演じていた能馬監察官もインプレッシブだった。
皆口に関する密告ファイルを佐良に手渡したとき、どんな反応をするかとつぶさに観察する視線。
感情を表に出さない彼が、「けっこう」と短く答えれば、それはうまくいっているということだ。

そして、もっともインプレッシブだったのは、池田鉄洋の演じた須賀係長だろう。
トリックで矢部謙三警部補とバディを組んでいた頃とは全く違う。
みなぎる緊張感に、少しでもミスをすれば、躊躇なく詰められる。
何を考えているのかも見透かされ、簡単に先回りされてしまう。
こんな上司とおんなじ車で何時間もコウカクなんて、こちらのメンタルがやられてしまいそうだ。
だが、彼に悪気はない。
どうして「長袖の須賀」と呼ばれるようになったのかというエピソードが物語るように、彼は本気なだけなのだ…

密告はうたう2 警視庁監察ファイル

密告はうたう2 警視庁監察ファイル | TVer

そうしてこのたび、シーズン2が公開される。
ありがたいことにWOWOW加入者でなくても、Tverで見逃し配信してくれるようだ。

そもそも僕が今頃になってシーズン1に騒いでるのも、このシーズン2のプロモーションのおかげだ。
シーズン2の第1話が、YouTubeで丸ごと配信されている。

https://youtu.be/knfboXmyU8o?si=-uETynP414rS7HGC

この作品の存在を全く知らなかった僕が、オススメに上がってきたのを迂闊に観てしまった。
そうしたら運の尽き、その圧倒的な緊迫感に圧倒されて、シーズン1を一気見してしまった。

あなたもまだなら、ぜひご鑑賞あれ。
もしあらすじを知っていようが関係ない。
ジンイチの緊迫感に呑み込まれてくださいませ。
観終わったあなたは、きっとこういうはずだ。

けっこう。
シーズン2も、大いに期待していますよ。

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