久しぶりに、本当に久しぶりに機動戦戦士ガンダムを観た。
しかも、TVシリーズを頭からキチンと観たのは、いつ以来だろう…
きっかけは、そう御多分に洩れず機動戦士Gundam GQuuuuuuX -Beginning-を観てしまったせいだ。
ゼクノヴァに遭遇したせいで、僕も重い腰を上げたのだ。
久しぶりの体験に、センス・オブ・ワンダーのワクワクを思い出したよ。
1979
そもそも最初に放映が始まったのは、1979年のことだ。
1979年といえば、サニー千葉が戦国自衛隊で主役を張った年であり、松田優作が蘇る金狼で4インチのコルト・パイソンをぶっ放していた年だ。
そうして、村上春樹が風の歌を聴けという一本目の小説で新人賞を受賞した年でもある。
セカイは、まだ80年代に能天気な希望を抱いており、日本選手団はモスクワオリンピックをボイコットすることになろうとは、夢にも思っていなかっただろう。
そんな時代に、放映が始まったのだ。
僕が、しばらく観ていなかったのは、絵がツラいからだ。
よく、ククルス・ドアンの島が引き合いに出されるが、改めて観てみると、その回だけが突出して作画崩壊しているわけではない。
これまで観たことのなかった知人も言っていた。
「観ようとしたことはあるんだけど、絵が古くって…」
それはそうだろう。
70年代に確立したロボットアニメの画風はしっかりと土台にある。
その後、著しく向上したアニメのクオリティを経験した目には、ツラいものがある。
考えてもみたまえ。
それは、45年以上も昔に制作されているのだ。
だが、お話に、古臭さは感じなかった。
古い口語表現も、ごくわずか。
そうして僕は、人類が初めて体験する宇宙世紀と、その戦争の物語にのめり込んでいった。
LPレコード

意外だったのは、キャラクターたちのセリフとBGMが、ありありとフラッシュバックを引き起こしたことだ。
呼水になったのは映像ではなく、その音たちだ。
当時、配信どころか、レンタルビデオという業態すらも誕生していなかった。
だから、映像を観るには、リアルタイムか、自前のビデオ録画しか手段がなかった。
全話録画するというハックも、お小遣いも持ち合わせていなかった僕は、何度か視聴すると、同じテープに重ねどりしていくしかなかった。
僕が気兼ねなくリピート再生できたのは、レコードだけだった。
当時発売されていたサウンドトラックには、ドラマのシーンが収録されていた。
だから、あのセリフと、あの音楽が混然となって僕の記憶に刻まれている。
機動戦士Gundam GQuuuuuuX -Beginning-を観ている間、僕のカールチューンが呼び起こされたのは、当時の音が流れていたからだろう。
そうして、生まれてくる名台詞を、シェアする。
シェアといっても、それはごっこ遊びであり、範囲も友達の中だけのこと。
その数は、二桁にさえ届かない。
リアルタイムではない月刊OUTだけが唯一のマスの遊び場だった。
機動戦士でモビルスーツで
当時の僕は、芽生え始めたセンス・オブ・ワンダーにワクワクしていた。
放映前に、そんな僕を刺激したのは、機動戦士というタイトル。
そしてモビルスーツという存在だ。
ロボットではない、モビルスーツなのだ。
スーツという響きに僕が過剰反応したのは、宇宙の戦士のパワードスーツを知ったばかりだったからだ。
そうか、着用するのか。
このガンダムというスーツを、アムロ・嶺という少年が着用するんだ。
放映前に、限られた情報しかなかった僕のセンス・オブ・ワンダーは、一気に掻き立てられていった。
Gファイター
今現在あらためて観てみると、ある時期から、必ず合体シーンが挿入されるようになっている。
コア・ファイターとガンダムのAパーツ、Bパーツによる空中換装というやつだ。
物語の冒頭、訓練に精を出すアムロ的なナレーションが入り、ガンダムの合体ロボット感を醸し出そうとしている。
そうしてついにGファイターが登場する。
Gパーツを用いたガンダム・システムとアムロ君は説明してくれたが、それがガンダムをパワーアップする場面は、ほとんどなかった。
むしろ、ガンダム本来の性能を発揮するために、早々にボルトアウトするシーンばかり。
今となっては有名な、スポンサーのクローバーの話なんかはつゆ知らず、その時は兵器感を損なう、いわゆる「メカ」の登場に醒めた気分になったものだ。
コア・ブースター
そうして劇場版が公開されるとき、それがコア・ブースターに置き換わったことが、とてもうれしく納得感を感じたものだ。
そうそう、これがホワイトベース内の限られたリソースを活かした、正しい支援機だよねと。
さらに、ガンタンクもガンキャノンに置き換えられた。
108と109にナンバリングされた2機のキャノンがランデブーする姿に胸が高鳴った。
正直、ガンタンクは、モビルスーツというには辛すぎる。
ジオン兵にも、なんだ、戦車か?と言われていたが、その特徴を活かすシーンもなかった。
今話題になってるレールガンでも装備していたんなら、話は違うだろうけど…
ガンダムセンチュリー
その頃の僕らはもう、正真正銘の知ったかぶりになっていた。
なぜなら、ガンダムセンチュリーの洗礼を受けたからだ。
AMBAC理論を振り回しては、モビルスーツが人型である理由を煌々と喋り、一方でバーニアを満載した、あるべき姿にも惹かれた。
(左)ガンダムセンチュリー・ガンダムフルハッチオープン。(右)ガンダムセンチュリー・高機動型ザク。いわゆるモビルスーツバリエーション以前に描かれた、高機動型ザクの原点といえるもの。
機動戦士ガンダム – SHOJI KAWAMORI | 河森正治 Official Web Site
重力下の地上戦用と宇宙空間用の仕様が同じであるわけがないという僕の知ったかぶりは、やがて、機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORYで満足させられることになる。
だが、僕の想像力は、デンドロビウムには及ばなかったが…



コア・ブロックの可変システム。オリジナルのRX-78とは異なり、コア・ファイターの推進器をバックパックとして使用するのは、「その方が自然だから」(河森)。デザインの領域にまで踏み込み、RX-78的な構造を唯一変更したポイントだという。
機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORY – SHOJI KAWAMORI | 河森正治 Official Web Site
余談だが、このガンダム試作機のコア・ファイターの推進器をバックパックにするというアイディアは、機動戦士Gundam GQuuuuuuX -Beginning-のRX–78–02にも活かされている。

RX-78-02
白いガンダム | MECHA | 機動戦士Gundam GQuuuuuuX(ジークアクス) 公式サイト
やはりデザイナーの目からすると、それが一番理に叶うということなのだろうか。
しかし、RX–78–02のコア・ファイターが単体で動くところを早く拝んでみたいものだ。
gMS-Ωのコア・ファイターの形状も気になるが…

gMS-Ω
GQuuuuuuX | MECHA | 機動戦士Gundam GQuuuuuuX(ジークアクス) 公式サイト
ニュータイプという方便
はじめて、この機動戦士ガンダムを観た知人が言っていた。
なんか、ララァが登場してから、別のお話になったよねと。
確かに。
TVシリーズは、まだいい。
劇場版では、ちょいちょいニュータイプに関する話が新たに加えられ、続編以降は、そればっかりになっていく。
なんというか、観念に基づく議論の戦いというか…
もともとホワイトベースのクルーが必死に生き延びてきた物語である。
ようやく移り住んだ辺境のサイドを追われ地球に逃げなければならなくなった彼らは、その新型強襲揚陸艦を機能させるために、不足した正規兵の穴埋めをしなくてはならなくなった。
あさましい大人の姿に触れ、V作戦という連邦軍の最高機密に触れた重罪を見逃すかわりに正規軍の一部として戦えという組織の脅迫にも直面することになる。
そうして彼らは、戦争というものをアタマで理解するのではなく、肌で実感していくことになる。
身近な人間が次々に死んでいくことに直面した彼らは、ようやく、この戦争を終わらすために能動的に動くようになる。
ジオンを叩けばいい。
そうすれば、このクソッタレの戦争を終わらせることができる。
もともと、なんの訓練も受けていない、そこらの少年が、最新鋭のモビルスーツを使いこなすことの裏付けとして、ニュータイプという設定が生まれたと記憶している。
超能力者じゃ興醒めしてしまうし…って感じで。
その方便は一人歩きして、いつの間にやら人類の革新なんて、大きな主語まで口にするようになった。
その後は、たくさんの悲しいニュータイプと強化人間を輩出することになってしまった。
ギレンは、戦意高揚のための方便と明言しており、レビル将軍も宣伝だと言い切っている。
しかし、ララァがソロモンの海に現れたとき、レビル将軍も原因不明の頭痛を感じている。
レビル将軍もニュータイプへ開花していたのだろうか。
だとすれば、早いうちからホワイトベースの戦果を評価し、第13独立部隊として取り立てたのも納得がいくというものだ。
ナニカを感じていたのだろう。
そういえば、ミライさんもニュータイプ能力の出現は早かった。
マチルダ中尉の死の予感で、顔を曇らせる彼女。
回避運動を任された後の操艦は、ドレン大尉の砲撃を紙一重でかわす見事さだった。
しかし、セキ大尉も、ジオン・ズム・ダイクンの実の娘であるセイラさんにニュータイプ論の講釈垂れるなんて、後で知ったら赤面ものだろうなぁ…

キシリア
ギレンと違ってニュータイプを方便としてではなく、在るものとして捉えているキシリア。
あらためてみると、彼女は優秀だ。
ギレンの部下には手足しかいないが、キシリアの部下には、いくつものアタマがいる。
筆頭は、マ・クベ。
国力に乏しいジオンが10年戦えるほどの鉱物資源を地球から送り届けた男は、戦後のことも睨んでいた。
それは、おそらくギレンとキシリアの抗争であろう。
少数の優良人種によって独裁態勢を目論むギレンと違って、キシリアには、より大きなビジョンがありそうだ。
そのあたりは、機動戦士Gundam GQuuuuuuX -Beginning-で明らかになるだろうか…
当時のアニメにおいて、敵役が「左遷」というオトナの理由でライバルの前から姿を消すというのも衝撃だった。
キシリアは、シャアの左遷を知ると、すぐに親衛隊を送ってコンタクトを取る目配りの良さを持っている。
調べ上げたシャアの素性と行いを知っても、それを受容し、使いこなそうという度量。
ヒットラーの尻尾より、ジオンを率いるべき器なのかもしれない。
アムロへの誤解

あらためて観てみると、僕は、ずいぶんアムロのことを誤解していたようだ。
おとなしくシェルターに隠れていればいいのに、ザクの攻撃の最中、避難民のために飛び出していく。
ガンダムにしてもコクピットが開いているなら、中に隠れていればいいものを、なんとかしようと起動させる。
ジャブローに向かう道中でも、自分だけガンダムで逃げてもいいものを、囮になることも自ら進言して、みんなを守ろうとする。
そりゃ、アクシズなんてでっかい石ころに、たった一人で立ち向かえるわけだ。
連邦軍の技術士官、それもV作戦なんて最高機密を扱うエリートの息子であるアムロは、本来ならば最前線に立つことはなかっただろう。
もし、将来的に連邦軍に入ったとしても、それは、やっぱり技術畑だったはずだ。
そうして本来、陽の当たることのなかったアムロの才能が開花していく。
そう、アムロには才能があったのだ。
MSのパイロットとしての才能が。
赤い彗星という強力なトレーナーと実戦をまみえることで、その開花のスピードは一段と増していく。
だから、同じように成長してこないクルーに苛立ちを感じる。
納得のいかない用兵を命じる士官候補生にも苛立ったのだろう。
アムロが苛立ち怒りを露わにするのは当然のことだ。
15歳にしては、我慢している方だ。
理不尽に殴られ、独房に入れられても、彼は仲間を見捨てることはない。
「悔しいけど、僕は男なんだな」と照れ隠しをしながら出撃していく。
ニュータイプだったからではないはずだ。
むしろ逆だ。
持って生まれた才能と感覚。
それが実戦でさらに研ぎ澄まされてきたところで、宇宙に還った。
そうして、ララァという存在に出会ったことで、それまでの自分の感覚を土壌に一気にニュータイプとして覚醒したのではないだろうか。
さらには、セイラさんから、おだて励ますというスキルまで身につけている。
あの日、偶然、ガンダムのコクピットに乗り込んだことで、一気に成長せざるを得なかったアムロ。
機動戦士Gundam GQuuuuuuX -Beginning-のセカイでは、その偶然に巡り会うことはなかった。
このセカイでは、何をしているんだろう?
父のテム・レイとインストーラーデバイスでも作りながら生計を立てているんだろうか…
赤いガンダムとゼクノヴァの力技のおかげで、これまで全く興味を示さなかった人たちが、貪るようにTVシリーズを頭から観ていったのは、本当に驚きだった。
これを機に、どこかで映像の補正をしてもらえないだろうか。
本当にお話は、このままでいいから。
ただ、最近のリメイク的な感じで言うと、ちょっとお芝居が強すぎるんだよね。
キャラクターのケレン味が強すぎるというか…
劇場版くらいのお芝居がちょうどいい。
兄からの手紙に泣きじゃくるアルテイシアぐらいがね…
