奇跡は、そうそう続かないぜと思っていた。
ブライトンの奇跡のようなことは、そうそう起きないから奇跡と呼ばれる。
だからこそ、今回の結果には本当に驚いた。
何より驚いたのは、その内容だった。
コレは本当にアップセットと呼ぶべきものなのか?
構図としてのアップセット
構図からいえばアップセットであるのは間違いない。
日本といえば開幕前の南アフリカとのテストマッチで、きっちりと借りを返され、開幕戦では自国開催の気負いからかバタついたミスを連発していた。
世界ランク1位の裏づけとともに「優勝候補の」と二つ名で紹介されたアイルランドの初戦は完璧だった。
地味だけど堅実で重厚な試合ぶりは、もう何百回も対戦しているであろうスコットランドに何もさせなかった。
文字通りスコットランドのゲームプランは、机上の空論になってしまったはずだ。
とてもじゃないが勝つのはむずかしい。
あのディフェンスの完成度と安定感を見れば、日本は何もさせてもらえない。
それに、あれだけ世界を騒がせたブライトンの奇跡によって万に一つの油断もないだろう。
だから期待するのは、その後の戦意を喪失しないような、ハートブレイクな負け方をしないことだけだった。
ワールドカップの本番で南アフリカに勝つなんて100年に1回のことなんだといくら言ってもわかってもらえないそこらの人たちに、「全然ダメだったね」などと軽んじて言われたくなかった。
だから善戦を!
勝てなくてもしょうがないから見どころを!
それだけを望んで迎えたこの一戦は、全くもって意外な展開となった。
内容はアップセット?
弱いとされるチームが番狂わせで強いチームを破る。
コレがアップセットだ。
ブライトンの奇跡を例にするとわかりやすいように、南アフリカに弾き飛ばされ、押し込まれ、それでもなんとかんとかくらいついて、最後の最後にひっくり返す。
その間に「一喜」に対して「二憂」くらいのアップアンドダウンを味わいながらだ。
ところが、この日の日本は、全くもってやられていなかった。
スクラムは安定し、モールも押されない。
そこら中で、日本のお家芸ダブルタックル「ニンジャ・ダブル」が炸裂して、なんだったら、アオテンまでさせている。
シンプルであるからこそ打つ手のないはずのアイルランドのFWの突進がゲインできないどころか接点で負けている。
確かにチャチャッと2トライ取られたが、それにしたって2次元じゃ崩せないと割り切った相手が3次元に持ち込んでのキックパスによるもの。
すかさず切り替えて得点を奪うアイルランドはさすがだ。
しかし、見ている僕も全くやられた感じはしない。
ブレイブ・ブロッサムズも誰も動揺する事なくゲームに集中している。
対照的に、アイルランドの選手たちは、どんどん表情が曇っていった。
それに比例するようにペナルティーを取られるようになっていった。
それは彼らが軽率なミスを犯したという規律面の問題ではなく、ブレイブ・ブロッサムズの圧に耐えきれずやってしまったという類のものだった。
トライこそ簡単には奪えなかったが、フィールドを支配していたのは桜のジャージだった。
だから見ている方も、もはやワクワクドキドキすることはなかった。
トライは置いといても、少なくとも3点以上で加点し続けられる。コレは勝つペースだ!
そう確信できるニオイが立ち込めていた。
だからキックオフの笛が鳴って以降、全くアップセットのニオイがしなくなってしまった。
だって目の前で繰り広がれているのは、強いチームが勝っていると言う至極当然の光景なのだから。
勝った方が強い!なんてうそぶくより、本当に強い方が勝つ!と言うラグビーというスポーツの本質がしみるような試合だった。
だから、これはアップセットではなく順当勝ちと呼ぶべきものじゃないかと思う。
ランキングやら構図やら何やらカニやら置いておいて、その内容だけ見れば。
そうして彼らは、ブレイブ・ブロッサムズはそれを確信していたのだ。
「誰も勝つと思ってない。誰も接戦になるとも思ってない。誰も僕らが犠牲にしてきたものは分からない。信じているのは僕たちだけ――」。
情報源: ジョセフHC「信念貫いた」 3年で作り上げた肉体と戦術 決戦前の俳句で闘志― スポニチ Sponichi Annex スポーツ
日本の勝利は「まぐれではない」。元アイルランド代表ウイング、シェイン・ホーガン氏は、こう言い切る。ホーガン氏はBBCのラジオ番組で、「この大会は(ラグビー伝統国ではない)セカンド・ティアの国が、(伝統国の)ファースト・ティアの国を破るのを必要としていたが、これはまぐれではない。日本は完全にこの勝利に値するし、アイルランドより優れた試合運びだった」と語った。
情報源: 【ラグビーW杯】 日本の快挙、世界の専門家が評価 「見習おう」の声も – BBCニュース
「集中していて、すさまじいプレーぶりだった」とシュミット監督。「ものすごくがっかりだが、とにかく日本が素晴らしかった」と相手を称えるしかなかった。前半20分までに2つのトライを決めるなど、12対3とリードしたアイルランドだったが、その後は完全に試合を支配され、日本の攻めに対抗できなかった。結局、12対19のスコア。ベスト主将は「タフな試合になるとは分かっていたが、どれだけ彼ら(日本)がすごかったことか」と、想像以上の速い展開と運動量の多さに舌を巻き、「日本らしいプレーをさせてしまった。本当に攻め続けられた」と悔しさをにじませた。
情報源: アイルランド、日本のプレーに驚き – 【公式】ラグビーワールドカップ2019日本大会 | rugbyworldcup.com
がんばれ!アイルランド
衝撃的だったのは、試合の結末だ。
7点差であれば、うまいこといけば引き分けまで持ち込める可能性があるのに、アイルランドがそれをあきらめてしまった事だ。
タッチに蹴り出してボーナスポイントの1点を確保するという選択肢を選んでしまった。
それは、ブレイブ・ブロッサムズが戦意さえ奪ってしまうような戦い方をしたという事なのかもしれない。
アイルランドは、ひどく落胆しているかもしれない。
初優勝の期待を胸に、スコットランド戦で上々の結果を出し、迎えた日本との試合での点差以上の完敗。
可能性はあったとはいえ、日本は永遠の弟分ティア2なのだ。
しかし、前を向いてほしい。
前回、日本にやられてしまった南アフリカも初戦の衝撃を乗り越え、3位まで登りつめたのだから。
まあ、これも余計なお世話だろう。
あの福岡のインターセプトを腕一本で引きずり倒した彼らの意地を見れば…
日本は強い
ベストパフォーマンスを発揮すれば、ノーミスであれば、日本は間違いなく強いのだと思う。
ただ、調子が悪い時、ミスが続いてしまうような時、どの程度のパフォーマンスが出せるかは未知数だ。
ベストパフォーマンスより、ダメな時にどこで踏みとどまれるかが本当の強さだ。
そして、チームとしては未だ修羅場を踏んでいない。
開催国の重圧とはいっても、イングランドが自国で行うものとはまた違う。
しかし、進んでいかなければ、いつまでたってもそれを味わえない。
いくつになっても、試合でしか大きくは成長できないはずだ。
背番号23という新しく生まれた伝説とともに楽しみに見守ろう。
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