安定した強固な守備力はあるものの、超スター選手がいるわけではなく、特異な戦術を展開するわけではなく、ただただ勝負強さで凌ぎ切りスーパーボウル王者に登りつめた『SEAHAWKS』。
そこには、コーチングスタッフの強い絆がある。
1.ピート・キャロル
ジミー・ジョンソン以来2人目のカレッジとNFLで全米チャンピオンとなったヘッドコーチ。 NFLで一貫して守備畑を歩み、49ers時代にはリーグ1位の強力守備を作り上げた。
patriotsのヘッドコーチを務めた後、USCで2度の全米チャンピオンに輝いた。
NFLでの成功はカレッジの成功を保証しないし、その逆も同様。
だから、彼が『SEAHAWKS』のヘッドコーチに就任すると決まっても、それがスーパーボウルに直結すると考えた人は少ないだろう。
まして、名刺代わりの特異な戦術を持っていない彼は話題にするには地味だった。
ところが、就任3年でもう一歩でスーパーボウルというところまでこぎ着け、ついに4年目にはチャンピオンに輝いた。
もちろん、自身の誇る強力守備がその土台にあったとはいえ、戦術家というよりもオーガナイザー、モチベイターとして優秀なヘッドコーチなのではないだろうか。
事実、彼はUSC在任中に3人のハイズマントロフィー受賞者を輩出している。
在任期間中にカーソン・パーマー(シンシナティ・ベンガルズQB)、マット・ライナート(アリゾナ・カーディナルスQB)、レジー・ブッシュ(ニューオリンズ・セインツRB)などのハイズマントロフィー受賞者を輩出した。
いくらチームが強かったからとはいえ、9年間に3人輩出という数値は異常だ。
リクーティングに相当こだわる彼は、その素材の長所を活かしながら育成する名将と言えるのではないだろうか。
ノーネームに近かった『SEAHAWKS』ディフェンスも、結果を出すことで名前を売れる選手が出始めた。
若い選手の長所を伸ばし、自信を与え、その好循環を生む。
そうした優れた人材育成力は、戦術を練る力よりはるかに重要だ。
2.ケン・ノートン・ジュニア
スーパーボウル勝利に沸くサイドラインを見ていたら、懐かしい顔を見つけた。
ケン・ノートン・ジュニアは『SEAHAWKS』でLBコーチをやっているようだ。
プレイヤーとしては、UCLA時代にはスピード重視の攻撃的守備の軸となり、NFLに入った後は再建中のCOWBOYSでも軸となり、移籍後の49ersまでまたいで3年連続スーパーボウルチャンピオンとなった唯一の選手。
まだLBのインターセプトリターンTDが珍しい時代に、一試合にそれを2度も達成したこともある。
ボクシングヘビー級世界チャンピオンであるケン・ノートンの息子であることから、当初は「彼の息子」という呼ばれ方をしていたが、今では父親のほうが「彼の父親」と呼ばれているのではないだろうか。
彼はピート・キャロルがUSC時代からLBコーチを務め、デビュー早々ビッグネームの仲間入りを果たしたブライアン・クッシング、クレイ・マシューズらを育て上げている。
ローズ・ボウルのMVPを3年連続でディフェンスの選手が獲得した実績からすれば、今回のスーパーボウルで11年ぶりにLBマルコム・スミスがMVPを獲得したのも驚くに値しないのかもしれない。
ディフェンスの中でも中枢であるLB。
その人材を育成する能力を持つケン・ノートン・ジュニアは、ピート・キャロルにとっても頼れる存在なのではないだろうか。
そしてケン・ノートン・ジュニアもピート・キャロルに強い信頼を持っているようだ。
USC在籍中に、母校のUCLAからアシスタントヘッドコーチの誘いがあったにも関わらず、彼はピート・キャロルと働くことを選んだ。
先を見越した計画で、例年のチャンピオンチームと違い人材の大量流出の心配がない『SEAHAWKS』は連覇の可能性が高い。
そして何より、こうした人材育成に長けたコーチ同士の絆がチームの根底にあるかぎり、ディケイドといわずダイナスティを築けるんじゃないだろうか。