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NFLが2010年代を代表するトリックプレーを公開

ディケードという括りが大好きなNFLは、2019年というディケードの尻尾が終わった瞬間、2010年代のベストプレー集を公開している。
今回は、アメリカンフットボールの華、トリックプレーだ。

フェイクといえば聞こえはいいが、相手を騙すことに、これだけ真剣に情熱を注ぐスポーツって他にないんじゃないだろうか。
特にラグビーワールドカップで、あれだけ真摯なぶつかり合いを見せられた後ではフットボールをやっている人間は、後ろめたくもなるだろう。
でも、トリックプレー、面白いんだよねぇ。
よく考えられていることに感心すると同時に、ちょっとユーモアも感じてしまう。
そして、思い通りにスパッと決まった時の爽快感。
この感覚を味わえるスポーツは、他になかなか見当たらない。

スプレッドやらワイルドキャットやらの登場で、以前にもましてボールがあちこちに動くようになってしまい、開発元ではないくせにすっかり「フィリー・スペシャル」という名前で定着してしまったアレや、そのバリエーションのオプションプレーなんかも登場。
スピードアップした現代社会では、蚤(のみ)の移動も極めて激しくなっている。
ぜひ、動画をじっくりご覧あれ!
ってところだけど、いくつかお気に入りに触れておきたい。

シーホークスのフェイクFG

2015年のNFCチャンピオンシップに起きたそれは、二度と見られない奇跡の光景と言っていい。
ホールダーを務める純正Pが、フェイクからTDパスを投じたもの。
プレーだけなら、同様のプレーはいくらでもこの先拝むことができるだろう。
問題は、映し出された観客席だ。
喜びにわく観客席の中に、そのパンターのジャージを着て、ひときわ喜びを爆発させている観客の姿がしっかりと映し出されてる。
そもそも、パンターのジャージを購入するファンが存在することにも驚くが、そのファンとパンターがTDパスを決めたことに盛り上がる画面の中に同時に映り込むなんて、この先絶対にない!
賭けてもいい。
少なくとも、次の100年まではね。
しかし、このファンも、手詰まりになっていたシーホークスの最初のTDをパンターがあげるとは思っていなかっただろうねぇ…

ペイトン・マニングのネイキッド

練りに練ったプレーの中で、ペイトン・マニングがあげたネイキッドによるTDランは異質だ。
プレー自体はトリックプレーとは言えないベーシックなものだからだ。
他のQBが行ったのなら、このトリックプレー集には入ってこないだろう。
ペイトン・マニングが、それをやること自体が、スペシャルでありトリックになりうるのだ。
大ベテランで脚力に秀でているわけでもない彼が走るわけがない。
そうしたディフェンスの思い込みで、誰ひとりマニングを気にしていない。
彼は、無人のエンドゾーンに散歩するようにボールを持ち込んでいる。

プレー自体はベーシックでも、通常とは違うパーソネルが行うことでトリックプレーになりうるものがある。
ワイルドキャットでQBの位置に入ったWRが、フツーにロングパスを投げる。
ワイルドキャットで、添え物のようにワイドアウトにセットしたQBがフツーにディープのパスコースを走り抜く。

そして、バックフィールドにセットするものが、とてもバックスとは呼べない、なんだったらOLよりも巨大なDLだったりする場合だ。
彼らがTDを上げることをBig Man TDと呼ぶことを初めて知った。

冷蔵庫ペリーの生みの親はビル・ウォルシュ

https://www.youtube.com/watch?v=DsdGbvNiVXY

そうしたBig Man TDの走りは、冷蔵庫(The Refrigerator)と呼ばれたウィリアム・ペリーだ。
あまりにも有名だから、皆さんご存知だろう。
DLの彼が、その巨体を揺らしながらボールを持ったりパスを捕ったり、圧倒的な強さでその年のスーパーボウルを制覇したチームの勢いと相まって物凄い人気者になった。
しかし、その元ネタは、前年、NFCのチャンピオンシップで対戦した49ersのビル・ウォルシュによるものだ。
彼は、ベアーズの強力ディフェンスに対抗するために、バックフィールドにOGのガイ・マッキンタイヤを配置した。
右に左にプルアウトしている49ersのOGなら機動力は問題ない。
3人目のOGを抱え込んだ49ersオフェンスは、力づくで、それこそミッドウェイをぶち抜いた。
この年、46ディフェンスが完成していたのかどうかは定かではないが、パサーへのブリッツのためにフロントに密集したディフェンスは、力づくのランによってその一線をこじ開けられれば、案外効果的なゲインも得られたはずだろう。
その威力を思い知らされたマイク・ディトカは、翌年以降、バックフィールドに冷蔵庫を配置するようになった。

Big Man TDは観客としては盛り上がる。
ベアーズも、途中からは興行的な意味があったかもしれない。
しかし、そもそもはフットボール特有の合理的な判断によるものだ。
最大効果を得るために、持てる人的資源を最大限に活用する。
ただ純粋にそれだけのこと。
NFL100年を代表するゲームチェンジャーのビル・ウォルシュがそうしたように、同じくビル・ベリチックが、今年、LBのエランドン・ロバーツをFBに起用していることからも見てとれる。
タックル・エリジブル・パスや、QB自身をパスコースに出すのも、厳密なパスカバーを掻い潜るための合理的な判断なのだろう。

NFLは一戦必勝のプレーオフに突入した。
手の内も全てさらけ出した後の総力戦だ。
ここでまた、あっと驚くような新しいトリックプレーの登場に期待しよう。
そしてそれは、どんなに奇抜なものであっても、合理的な判断に裏打ちされたものに違いない。

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