イーライ・マニングが引退を表明した。
ひと口に記憶に残る名選手とはいうけれど、僕にとって彼は鮮烈に記憶に残る名選手の一人だ。
なにせ21世紀に入ってからこっち、2つのディケードをガッチリ支配するあのペイトリオッツにスーパーボウルで2度とも勝利した唯一のQBなのだから。
https://www.youtube.com/watch?v=vJ5fo5K1_EU
NFL100年の長い歴史の中で選ばれた史上最高のプレイ100の中に、彼は2つのプレイでランキングされている。
パーフェクトパス
February 5, 2012
MANNINGHAM CATCH IN SB XLVI
“Manningham had no choice but to receive it.” – Tiya Sircar
情報源: NFL 100 | NFL.com
史上最高のプレイ31位にランキングされるこのパーフェクトなパス。
二人のDBの切れ目の、二人とも触れることができない聖域。
WRが無理な態勢を取らずとも、スッと手を伸ばせば両手でしっかりと確保できる位置。
守るほうからすればお手上げだが、捕るほうからすればイージーなパス。
ここにしかないピンポイントパスとはよく使われる表現ではあるが、これこそがそれだ。
ミラクルエスケープとヘルメットキャッチ
February 3, 2008
DAVID TYREE HELMET CATCH IN SUPER BOWL XLII
“We talk about miracles, that was a miracle.” – Luis Guzman
情報源: NFL 100 | NFL.com
ヘルメットキャッチとまとめられて有名なこのプレイは、二人のプレイヤーの物凄いプレイが同時に行われた珍しいものだ。
まずはミラクルエスケープと言われる、QBイーライ。
握り潰されそうなポケットの中から、ジャージをつかまれながらも脱出に成功する。
それは、スクランブルというほど軽やかなものではなく、サバイブと呼ぶほうがしっくりくる生々しいものだ。
QBサックをくらえば、試合が決定づけられてしまう場面だっただけに、これだけでもファインプレイだ。
しかも、そこからぶん投げられたパスが通ってしまう。
ここからは、WRタイリーだ。
ワンハンドキャッチは、実は、そこまで難しくない。
スパイラルの相性が良ければ、勝手に手のひらにおさまってくれる。
ところが、片手で確保できないと思ったタイリーが選んだパートナーは、ヘルメットだった。
片手とヘルメットでボールをキャッチし、確保するなんて場面を見たのは、後にも先にもこれっきりだ。
呆然とする愛国者たちを尻目に、逆転のラストドライブは締めくくられた。
愛国者キラー
そのようにして勝ったスーパーボウルは、これまたNFL100年の史上最高のゲーム100の中で、堂々の第5位にランクされている。
2007 – Giants vs. Patriots
SUPER BOWL XLII – “THE HELMET CATCH”
“It’s basically a David and Goliath situation.” – Tiya Sircar
情報源: NFL 100 | NFL.com
1位から4位までの上位は、時代が違ってピンとこない。
だから、僕のモノゴコロがついてからのランキングでいえば堂々の第1位。
だって、それはそうだろう。
これをアップセットというんだぜというお手本のような試合だったのだから。
そうは言っても、力の均衡に注意を払うNFLで、そこまでの戦力差は発生しないのではないかと思われるが、この年は別格。
なにしろ、ペイトリオッツは一敗もする事なくスーパーボウルにたどり着いた。
そして、スーパーボウルに勝ちさえすれば、あの1972年のマイアミ・ドルフィンズ以来のパーフェクトクラブの誕生だったのだ。
2007
NEW ENGLAND PATRIOTS
“I’m not entirely sure they had any weakness. Most teams have one or two strengths.” – Tony Romo
情報源: NFL 100 | NFL.com
一方のジャイアンツは、どうにかこうにかワイルドカードに滑り込むくらいのチームだった。
それに、なんだかイーライの「ぽーっ」とした感じが頼りなかった。
2007
NEW YORK GIANTS
“We called ourselves the ‘Road Warriors.'” – Shaun O’Hara
情報源: NFL 100 | NFL.com
イーライの覚醒
ただ、もしかしたらの予感はあった。
それは、イーライの覚醒を感じる試合を見たからだ。
奇しくもレギュラーシーズンの最終週に、この2チームは対戦している。
この試合とスーパーボウルのレフリーが同じなのも、縁を感じる。
惜しくも敗れはしたが、イーライは、この試合でブレイディと堂々と投げ合った。
あの愛国者たちのディフェンスを前にして、パスを通し続け、あわやのところまで追い詰めた。
あの「ぽーっ」としたイメージはもはや微塵も感じられず、潜在能力を開花させていく頼もしさだけが感じられた。
試合中に強力な対戦相手と戦う事で急激に成長することがある。
奇しくもペイトリオッツは、イーライの最大のトレーナーになったのかもしれない。
お互いのディフェンスのプランが功を奏し、スーパーボウルではグッとロースコアの勝負になった。
しかし、いくらジャイアンツが勝つ可能性を感じたとはいえ、その分け目となるプレイが、世紀に残るヘルメットキャッチになるとはねぇ…
フットボールがチェスマッチではないとうことなのだろう。
そうして4年後のスーパーボウルの再戦でも、イーライはパーフェクトパスを披露し、逆転のドライブを締め括った。
アンダードッグであればあるほど、相手が強ければ強いほど、追い詰められれば追い詰められるほど、勝負強さをいかんなく発揮する。
全てのカードに強いわけではないくせに、エースはこれでしか葬ることができないジョーカーのようなものだったのかもしれない。
スーパーボウルという檜舞台で、ペイトリオッツに2度も失望を味あわせたQBはイーライしかいない。
数値化できない勝負強さに、黙って喝采を浴びせようではないか。