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シン・ウルトラマン 観た人のためのレビュー「外星人第1号 リピア」

シン・ウルトラマンがAmazon prime videoで配信開始となった。
観る前は、オリジナルのウルトラマンの余白を埋め、物語としての整合性を保つためにリファインされたものだと思っていた。
しかし、これは、これまであまり描かれていなかったウルトラマンの思考過程と内面が描かれた物語。
これは、傍観者が、ヒーローになる物語である。
そして、人類が圧倒的な力を持つ異星人とファーストコンタクトを迎える物語でもある。

ウルトラマンという前提

いつからか、この日本ではウルトラマンという前提が存在していた。
遠い光の国からやってきた存在が、地球の平和を守ってくれるという前提。
ウルトラマンはウルトラマンであり、彼が守ってくれることになんの疑問も感じたことはなかった。
しかし、この作品は、その前提を取っ払った。
なぜ、はるか彼方から現れた宇宙人が、わざわざ未成熟な地球人のために命を賭してまで戦うのかという物語を、あらためて描いてくれたのだ。
そう、ウルトラマンが地球を守るためにやってきたのではない。
リピアという名の外星人が、ウルトラマンという存在になっていくのだ。

好奇心がもたらすもの

全てはリピアの好奇心から始まったと言っていい。
マルチバースのあらゆる知的生命体を監視し、時には非情な裁定も下す光の星の住人たち。
そのひとりであるリピアは、放置された生物兵器が目覚めたことにより地球に来訪することになる。
全てが個で完結する光の星の住人にとって、自分以外の個体を救うため、自らの命を投げ出すという行為が理解できず、そこに好奇心を芽生えさせてしまう。
バディという概念をはじめて知り、仲間という感覚を身をもって知り、群れで生きるということを、リピアは肌で感じるようになる。
そうして彼の好奇心は、いつからか愛着へと姿を変えていく。
群れで生きる小さな生命への。
しかし、その好奇心がもたらした結果は、人類に急速に発達するか、さもなくば滅亡するかという究極の選択となってしまったが…

外星人第0号 メフィラス

外星人第1号として認定されるウルトラマンより早く、密かに来訪していた外星人第0号 メフィラスは、そんなリピアの性格まで織り込み済みで計画立案していたのだろうか。
IQ 10,000以上と言われる彼の知能なら、そんなことは当然のことなのかもしれない。
しかし彼をもってしても、光の星の掟で禁じられている現生人類への干渉どころか融合まで果たしてしまったリピアの行動は予想できなかったのではないだろうか。
しかし、早速それを融合事例第1号の貴重なサンプルとして活かそうとする回転の速さと柔軟性は大したものだ。

総理大臣との面会では頭を下げ続け、自らのプレゼンテーションの結果、損害を被った浅見 弘子には謝罪の上、かけてしまった迷惑を取り除く。
用意した名刺にいたっては、古式ゆかしき縦書きだ。
マナーとしては非の打ちどころのない立派な紳士であることは間違いない。
たとえ、どのようなたくらみを持っていようとも。
居酒屋での振る舞いを完璧に身につけ、ネットカフェを存分に活用し、覚えたての現地の言い回し、「メフィラス構文」をやたらと披露する。
鼓腹撃壌なんて、さらっと口にするのだから。
そんなスノッブさも、この高知能の外星人のチャーミングポイントになっている。

取引によって彼が政府に要求したものは、ただひとつだけ。
それは、自らを上位概念として存在させること。
つまり、神のように扱えということなのだろうか。
ウルトラマンは万能の神ではなく同じ生命体だと告げるリピアとは、真逆だ。
もっとも、ただの生物兵器の在庫としてカウントするのか、成長を期待するのかで、そのアティチュードは違って当然のことではあるが…

神永 新二を内包するリピア

旧来のシリーズでは、主人公の人間がウルトラマンを内包していた。
平時は、主人公はあくまで人間そのものであり、変身して初めてウルトラマンが降臨するというような。
しかし今回、神永 新二の姿に戻っても、人間の状態であっても、その言動はリピアそのもののように見受けられる。
もちろん、これは融合であり、彼の言動からも、人間の部分が残されていることは明言されている。
しかしそれは、リピアのライブラリーに神永 新二がひとつの領域として追加されたもの。
すなわち、ウルトラマンが人間を内包しているように感じられるのだ。
人間の身体であるリピアが、ベーターシステムでリピア本来の身体を召喚するという感じが。
1対1で融合したとしても、能力や知能指数でいえば遥かに開きがあるのだから、最終的な混合比率としては当然なのかもしれない。
なにしろ2万年はザラに生きながらえる生命体と、どうやったって100年が限界の生命体では、持っている情報量も明らかに違うはずだ。
思えば、融合以降の神永 新二が書籍を読み漁るのも、神永 新二の記憶がなくなったわけではなく、もともとの記憶だけでは不足だと感じたリピアが、さらに情報を補っているということなのだろう。

融合後は、それぞれの外見に変化が見られる。
いわゆるタイプAだったウルトラマンの顔は、融合後にはタイプCになっている。
そして、神永 新二は、いっさい瞬きをしなくなった。

リピア送還の後は

禁じられている現生人類への干渉、さらにはベーターシステムの基礎原理と高次元領域に関する情報まで開示してしまったリピアに、光の星は、どのような裁定を下すのだろうか?
最終兵器ゼットンを倒した件は、裁定者ゾーフィが敬服していることから大目に見てもらえるとしてもだ。

そして未熟な人類は、身の丈にあわない大きすぎるリピアの置き土産を、どのように活かしていくのだろうか?
今後、激化する、あらゆる知的生命体の来訪を受けながらだ。
外敵ばかりとは限らない。
独善的な勢力にわたれば、外星人第2号 ザラブが目論んだように、人類は内輪の戦いで滅んでしまうかもしれない。

目を覚ました神永 新二には、その記憶が残されているだろうか?
もしリピアの、ウルトラマンの思考の記憶が残されているのなら、それは大きな道標になるのだろう。
そのときには、ゾーフィが指摘したように、彼らと、光の星の住人と同じ進化の道程を辿ることができるのかもしれない。

ファーストコンタクトにおいて、外星人が、どんな現生人類と遭遇するのかは極めて重要だ。
最初に目にしたのが、神永 新二のあの姿でなければ、リピアは冷静な監視者として傍観を続けていたに違いない。
さらに禍特対のメンバーに不信を抱くようなことがあれば、彼はウルトラマンの役目を続けることはなかっただろう。

今回の禍特対は、特殊な戦術チームではなく、出向により構成された官僚のチーム。
シン・ゴジラで日本を救った、そう高くない固定給で雇える働きマンたちが、またも大きな仕事をしてくれたことになる。
巨大不明生物第3号「ペギラ」の弱点を発見した女性生物学者とは、あの尾頭ヒロミではないかと夢想してみる。

さらに、「政府の男」として登場する名前のないアノ人物。
竹野内豊演じる、その男は、赤坂 秀樹 内閣総理大臣補佐官にそっくりだ。
国連を向こうに回して交渉を繰り広げている、その働きぶりさえも。
率直で引き際のいい交渉ぶりは、リピアの人間への信頼を損なわせることはなかった。

では、彼はやはり、あの赤坂 秀樹 内閣総理大臣補佐官なのだろうか?
名前も役職も、もしかしたら同一かもしれない。
しかし、彼は、あの世界の彼ではない。
別のマルチバースの彼なのだ。
だって、それはそうだろう。
もし、シン・ゴジラが存在する世界なら、ただ凍結しているだけのそいつをメフィラスが活用しないはずがないではないか。

懐かしさは感じなかった

今回、僕は、まったく懐かしさを感じることはなかった。
いや、これは批判しているわけではない。
初代ウルトラマンがリアルタイムでなかったせいもあるだろうが、ウルトラマンの内面が描かれているという点で、まったく新しい作品だと感じたからだ。
そして、情景として、もうひとつ理由がある。
僕のウルトラマンとのファーストコンタクトは、帰ってきたウルトラマンだ。
覚えているのは、夕暮れの中、苦闘する彼の姿。
青空の下、圧倒的な強さを誇る銀色の巨人ではなかった。
夕暮れのなか、黒いシルエットに点滅するカラータイマー。
そんなシーンがあったならば、反射的に懐かしさを感じていたことだろう。
そういえば、新マンとは、あの頃、帰ってきたウルトラマンのことを指していた。

帰ってきたウルトラマンといえば、まさかのDAICON FILM版 帰ってきたウルトラマンもAmazon prime videoで配信されている。
製作当初は激怒した円谷プロも、庵野秀明がフェイマスになったことで、今では重要なアセットのひとつとして活用しているようだ。
ウィンドブレーカー以外はモノホンといってもいい出来栄えを、是非ご覧あれ。

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