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やはり「四畳半神話大系」は一気見すべきではあるまいか

ひとたび視聴を始めてしまうと、全十一話が終わるまで実益のある他のことなど手につかないことを断言しておこう。
異性との健全な交際、学問への精進、肉体の鍛錬など、社会的有為の人材となるための布石の数々をことごとくはずし、能書きと「たられば」ばかりを並べて、目前の現実の好機に向き合うこともしない「私」という学生の物語を見続けてしまうのは、なにゆえであるか。
責任者に問いただす必要がある。
責任者はどこか。

TATAMI GALAXY

英語でのタイトルはTATAMI GALAXYというらしい。
そのタイトルが示す通り、これはSFなのである。
しかしGALAXYと言ってもその広さは、きっかりタタミ四畳半に過ぎない。

「私」の選択の違いにより生まれ出る無数の並行世界が描かれていく。
SFにおける選択といったって、世界を変えるというような大袈裟なモノではない。
薔薇色の大学生活を夢見て挫折した3回生の男子学生。
もし1回生の春に選んだサークルが違っていたらどうなっていただろう?
そうしてその選択によって個性の違う「私」の四畳半が無数に生まれることになる。
「私」の四畳半が連続する世界に閉じ込められ、並行世界が存在することを知った彼は、そこからの脱出を図ろうとする。

SFというには日常的で、ファンタジーというには生臭い。
そしてコメディと笑い飛ばすには、せつない…

明石さん

このセカイを魅力的にしているのは、登場人物たちだ。
彼らは一様に愛すべき存在であるが、決して信頼の置けない人物だ。
ただひとり、黒髪の乙女、明石さんを除いては。

情報源: 四畳半神話大系 (2010)

いや、彼女とて、小津の片棒を担いで「私」を2年間にも及ぶニセの文通でだまくらかしてはいたが、きっとそれには違う側面がある。
毅然としていながらも、ただひとつの約束を待ち続ける健気さがある。

小津

他人の不幸をおかずに飯が3倍食える男。
「私」と運命のどす黒い糸で結ばれた悪友は、「私」がどんな選択をしようとも、「どうせ、あなたはこんな有様でしょう」と律儀にカステラを持って現れる。

情報源: 四畳半神話大系 (2010)

神様たち?

樋口師匠との出会いによって、この並行世界の物語は始まっていく。
大学8回生であるその男は、「私」に「かもたけつぬみのかみ」であると自称する。
その名は、下鴨神社に祀られている賀茂建角身命をあらわしている。
彼が本当に神様であるのかは不明だ。
或いは、いっとき神様が彼の体を借りたのかもしれない。
もっとも大学8回生なんて、現役の学生から見れば神様と呼んで差し支えはないだろう。

もうひとりは、占い師だ。
ただならぬ妖気を垂れ流す老婆は、決まった街角にいて、決まった言葉を投げかける。
しかし彼女は、「私」が並行世界を移動した回数を把握しているように、回数分の見料を請求する。
そしていよいよとなれば、街角を離れ、突然「私」の前に現れるのだ。

四畳半タイムマシンブルース

そして新作が公開されることとなった。

情報源: 『四畳半タイムマシンブルース』公式サイト

続編ということではなく、「私」はまたしても大学3回生であることから、もうひとつの並行世界と捉えるべきなのだろう。

そして「私」は、あいも変わらず目の前の好機を逃し続け、もたもたとしているのだろうか…

責任者はどこか

結局、「私」がいうところの桃色遊戯の達人になることもなく、僕は歳を重ねてしまった。
大学3回生でさえ、あれほどの並行世界が存在するのなら、現在の僕にはいったいどれほどの四畳半が存在するのだろう。
隣の四畳半にいる僕は、薔薇色の人生を送っているだろうか。
しかしもはや僕には、その壁をひとつずつ打ち破っていく体力も気力も残されてはいない。
そこに無尽蔵のカステラと魚肉ハンバーグが眠っていると分かっていても。
責任者はどこか…

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