Sports / NFL

NFL 2023 NFC Championship Game「Unexpected Bowl」

人生においては、予測外の出来事は、常につきまとう。
しかし、これだけ事前準備のスポーツと言われるフットボールにおいて、それはなかなかにお目にかかれない。
NFC Championship Gameが、サンフランシスコ・フォーティナイナーズとデトロイト・ライオンズの対戦によって行われる。
この組み合わせになったことさえ、昨年までのデトロイトを思えば、Unexpected。
そうして蓋を開けたゲームは、まったくの予測外の連続だった。

開始4プレイのTD

1991年シーズン以来のChampionship Game出場となるライオンズが、その常連である49ersに楽に勝てるわけがない。
なんだったら、場慣れしてないヤングライオンたちは蹂躙されてしまうかも知れない。
そんな杞憂は、あっという間に吹き飛ばされた。
ライオンズが先制TDをあげたのは、ゲームが始まって、わずか4プレイでのことだった。

ビッグゲームの頭にスペシャルプレイを盛り込むなんて、以前は、ずいぶん流行ったが、お目にかかるのは久しぶり。
しかも、リバースが鮮やかに一発TDに結びつくなんて、本当に久しぶりの光景だ。
AWSの機械学習が弾き出した予測ゲインは、わずかに8ヤード。
もう捕まる、もう止まるという幾多の場面でタックラーを振り切って34ヤードも上積みして、しぶとくエンドゾーンに持ち込んだジェイムソン・ウィリアムズに大きなクレジットを与えよう。

しかし、アンダードッグのチームがスペシャルプレイで一発かまして、あとは沈黙してしまうというのも、往年のビッグゲームでよくある展開。
だが、そうはならなかった。
ライオンズは、当たり前のプレイで、当たり前にゲインと得点を重ねる。
特に49ersの強力なエッジを逆手にとったピッチは効果的だった。

中距離パスの名手 ジャレッド・ゴフも、強力なパスカバーを誇る49ers LBを向こうに回して、こともなくパスを決めていく。
AP通信のみならず、Next Gen StatsのAll-Proにも選出されたコンセンサス All-Proのフレッド・ワーナーがポジショニングしているにも関わらず。

ライオンズの守備陣も素晴らしかった。
予測値を大幅に超える爆発的なエキストラヤードを稼ぎだす49ersの豊富なウェポンに対して、最低限の前進しか許さなかった。
ブロック・パーディに至っては、カバレッジサックとINTまでお見舞いされている。

前半終わって24-7。
3ポゼッション差で折り返す、こんな一方的な展開を誰が予測できただろう?
フォード・フィールドでパブリック・ビューイングに詰めかけた愛情深いデトロイトのファンも、大盛り上がりだ。

モメンタムは存在するのか

モメンタムなんて存在しないよという昨今の風潮に対して、ジョージ・キトルは異を唱える。
それじゃあ、スタジアムを包み込んでいたアレはなんなんだと。

Next Gen Statsがなんらかの方法で測定してくれない限り、その存在に明確なエビデンスはない。
しかし、日本人の伝統的な表現方法を使えば、潮目が変わった瞬間は肌で感じ取れる。
もちろん、センサーやチップは持ち出すまでもなく。

ブランドン・アイユーク

Kindle VildorのINTが成立していたら、それはスーパープレイだった。
しかし、気まぐれなボールが弾んだ先は、ゴールド&レッドのユニフォーム。
集中力を途切らせなかったブランドン・アイユークに運とボールが飛び込んできた。
この後のライオンズの攻撃で、彼らは自陣深くでファンブルフォースを喫する。
これで潮目が変わったことを確信する。
時を同じくして、Next Gen Statsの勝敗予測のグラフも大きく動く。

だが、49ersのオフェンスも、いつも通りに爆発力を発揮できていたわけではない。
ブリッツに強いブロック・パーディに、ライオンズは相変わらずカバレッジによるプレッシャーを与え続けていた。
そうして彼は、緊急発進を決断する。

Scramble パーディ

スクランブルした彼は、ターゲットを探し、見つからなければ、躊躇なくダウンフィールドに飛び出した。
安易にスライディングに逃げないのは、全くの不完全燃焼に終わった、やるせない昨年のNFC Championship Gameのせいだろうか…
そうして彼は、自らの足でも51ヤードを稼いだ。

拮抗したゲームで、予測されていないQBのランが活路を開く。
古典を紐解けば、涙の日生球場の関学の猿木に行き当たるだろう。

だが、彼の脚は、決してUnexpectedなんかじゃない。
なぜなら、ドラフト時のスカウティングレポートに記されているからだ。

3日間に及ぶ長いNFL ドラフトを締めくくるのはMr. Irrelevant。 毎年恒例の僕が最も楽しみにしている瞬間だ。 262番目に最後に名前を呼ばれたのは、アイオワ州立大学 QB ブロック・パーディ! Next Gen Stats による分析レポートもある。

情報源: NFL ドラフト 2022 Mr. Irrelevant アイオワ州立大学 QB ブロック・パーディ | ALOG

「強靭なランナーである」という正確な記述もあるが、間違った表現もある。
「その脚は、パッサーとしての欠点を補うほどではない」と。
冗談ではない。
その脚は、行き詰まったオフェンスの活路を開き、チームをスーパーボウルに導いてくれたのだ。

49ers守備のアジャスト

惜しむらくは、後半のライオンズがドライブを継続できなかったこと。
いくつかのミスが生まれていたこと。
と、思っていたら、それは49ers守備のアジャストによるものだった。

カバーで惑わし、ジャレッド・ゴフの判断を遅らせ、レシーバーとの呼吸を乱す。
そしてランアフターキャッチでしぶとさを見せるアモン=ラ・セントブラウンに、お馴染みのひと伸びを許さなくなった。
そうして残ってしまったショートヤードをギャンブルするしかなくなる。

Go for it

指摘されていたダン・キャンベルの判断は、どうすべきだったんだろうか?
AWSの機械学習によれば、どちらの選択でもそれは間違いではない。

ライオンズのプレイ選択も間違いだとは思わなかった。
ただし、49ers守備が、流石に一枚上手だった。
ギャンブルもFGも成功してこそ、勝利の確率は変わらない。
それでは、成功の確率の高い選択をすべきだったのか…

ダン・キャンベルは、以前、ギャンブルすべき場面でしなかったことで連勝記録を途絶えさせた教訓を持っている。
初めてのプレイオフ、しかもChampionship Gameで得た教訓は、彼の判断を変えていくだろうか…

ここがスタート地点

90周年のデトロイト・ライオンズの旅は、全くもってUnexpectedだった。
プレイオフは期待したが、まさかChampionship Gameにまで辿り着けるとは…
ひょっとして初めてのスーパーボウル?
なんて期待してしまったぶん、失望も感じることになってしまった。

だが、ここからが勝負だ。
今がスタート地点なのだ。
あの49ersでさえ、ようやく、ここを勝ち上がっていけるのだ。

ブロック・パーディも、ようやく去年の忘れ物を取り戻すことができた。
来年は、誰が、どんな忘れ物を取り戻すシーズンになるのだろうか…

コメントを残す