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2024 第58回 スーパーボウル「A duel for life」

4年前の再戦となったカンザスシティ・チーフスとサンフランシスコ・フォーティーナイナーズの対戦は、予想をはるかに上回る激戦となった。
その死闘を演出したのは、間違いなく両チームのDC。
モメンタムは観戦を決め込んで、席を立とうとはしなかった。
そして、ゲームにケリをつけたのは、死闘に相応しくないユーモラスな名前のキャラクターだった。

マイナスのRYOE

両チームのDCがいかに仕事したのかを顕著に表しているのが、この項目だ。

クリスチャン・マカフリー

情報源: Christian McCaffrey | NFL Next Gen Stats

情報源: Isiah Pacheco | NFL Next Gen Stats

両チームのエースRBのRYOEが、そろってマイナスヤードに封じ込まれている。
AWSの機械学習は、プレイのたびに、そのプレイがどれくらいゲインするかという予測値を弾き出している。
いつもなら、OVER EXPECTEDなRUSHING YARDS を尋常ではなく稼ぎだす2人が、この日は揃って期待値を超えられていない。
逆に言えば、両チームのディフェンスが、AWSの機械学習を遥かに超えた働きをしたということだ。
しかも、この日は両チームともボックスを手厚くするようなことはしていない。
OLD SCHOOL な日本語で言えば、集まりの良さでこの結果を出したのだ。
この日、両エースRBは、そろってファンブルロストを記録させられた。
だとすれば、その集まりは、相当に強力なものであったに違いない。

それでもブリッツを

49ersのQB ブロック・パーディはブリッツに対して高パフォーマンスを挙げることで知られている。

そんな彼にチーフスの名DC スティーブ・スパグニョーロが、どんなディフェンスで望むかは注目のポイントだった。
だが、ファイヤーゾーンの大将は、いつもよりブリッツレートを上げて、 Mr. Irrelevantに対峙した。

そしてブリッツが最も顕著に結果を出したのが、レギュレーション 4Qの49ersの最後のドライブだ。

誰もが、この試合を決めるドライブになると覚悟するなか、スティーブ・スパグニョーロは7人のDBをフィールドに送り込む。
そして、DB2枚をブリッツさせた。

そのブリッツを決めたのは、トレント・マクダフィー
スロットCBという専門職で、今シーズンのAP通信によるオールプロのファーストチームに選出されている。
NFL最速のブリッツは、土壇場でミズーリ州の王国を救った。
TDも奪えず、時間も消費できなかった49ersは、ほぼほぼ2分間という時間と3点差のみのリードという状況でチーフスに攻撃権を与えてしまうことになる。

最速のケルシー

何かと話題のTE トラビス・ケルシーは、この日の前半、1ヤードの1キャッチのみと沈黙させられていた。
ゾーンを自由に泳ぎ回るトラビス・ケルシーに、49ersは、AP通信のみならず、Next Gen StatsのAll-Proにも選出されたコンセンサス All-Proのフレッド・ワーナーをあてがって鎖につなぎとめていた。
だが、最後の最後に、ケルシーは、その鎖を引きちぎった。

最もマンカバーしにくいアクロスで、しかも過去7年間で最速の記録を叩き出したレセプションに、さしものフレッド・ワーナーもなすすべがなかった。
土壇場の、らしいプレイはチームを敗戦 から救い上げるFGに繋がった。

両チームとも素晴らしい守備だったが

この日、両DCとも、簡単に判別させないカバーを敷いて、QBからクイックデシジョンを奪っていた。
チーフス DC スティーブ・スパグニョーロは、ブリッツでプレッシャーをかけると、DB陣の芸術的なカットで阻んだ。

49ers DC スティーブ・ウィルクスは、ゾーンカバーで威圧すると、パトリック・マホームズに微妙なタッチミスを強いていた。
そのミスはランプレイにも影響していた。
デトロイト・ライオンズがNFC Championship Gameで見せていたプレイをコピーして、49ersの強力なエッジを逆手にとったピッチを行おうとした際、ファンブルにつながってしまう。
あれは、アイザイア・パチェコのミスではなくマホームズのピッチミスだ。

それでいて、お互いの爆発的なランアフターキャッチも封じ込め、エクストラヤードの上積みなんて許さない。
挙句にランプレイでは、マイナスのRYOEという有様だ。
この両チームのオフェンスを、それぞれが2TDに抑えられる展開なんて、ロースコア勝負もいいところだ。

両チームとも素晴らしい守備だったが、あえて違いを挙げるのならば、それはQB自身へのカバーだ。
スティーブ・スパグニョーロは、NFC Championship Gameで苦しむオフェンスの活路を開くスクランブルを披露したブロック・パーディにきっちりスパイをつけていた。
だが、パトリック・マホームズについては、そうしたミッションをアサインされたものはいなかった。

Pat Vick

そうしてパトリック・マホームズはテイクオフする。

昨年のスーパーボウルでは、足首の負傷もあって、最後の最後まで封印していたその脚で、パトリック・マホームズは、この日活路を開いた。
スクランブルで、オプションキープで、9回もダウンフィールドを駆け抜けたパトリック・マホームズは66ヤードを稼ぎ出し、この日のチーフスのラッシングリーダーとなった。

2回のFG新記録

簡単にTDが許されない状況では、FGの距離も長くなる。
過去57回のスーパーボウルで、わずか7回しかなかった50ヤード以上のFGが、この日だけで3回も記録される。
最長記録が生まれると、それはすぐに更新された。

まずは、49ersのルーキーK ジェイク・ムーディが55ヤードのスーパーボウル最長記録を樹立。

すると、今度は、チーフスK ハリソン・バトカーが57ヤードで、これを更新!

最後の最後にキッカーのミスでケリがついちゃうなんてハートブレイクなゲームは、せつなすぎる。
そういう意味では、このゲームは、ひとつのハッピーエンドなのかもしれないね。

ルール変更後の初めてのポストシーズンゲーム

そしてこのゲームは、OTルール変更後の初めてのポストシーズンゲームとなった。
そう、両方のチームに最低限の攻撃の機会が与えられることになる。
もし、ルールが以前のままならば、49ersがFGを決めた時点で勝者となる。
だが、ルール変更によってチーフスにもチャンスが生まれた。

ここまでの死闘を見せつけられると、優しい日本人としては、敗者を生み出したくなくなってくる。
もし延長戦がなければ、4Qで同点のまま引き分け終了という結果になるわけだ。
いや、それならば、最後のFGを選択せずにTDを奪いにいくという選択肢も生まれるわけか…
まあ、ダン・キャンベルなら間違いないくGo for it!となりそうだが、他のコーチならどんな選択をするかというドラマも生まれそうだ。
もっとも、白黒のつかないルールなんて選手自身が望まないだろう。
俺たちは、そんな味気ないもののためにやってるわけじゃねえんだと…

トムとジェリー

そして、この死闘に終止符を打つプレイが生まれる。
そのプレイは、死闘に似つかわしくない名前でコールされた。
トムとジェリーと。

アンディ・リード自身による解説もある。

解説のトニー・ロモが、アンディ・リード Special!と叫んだ通り、このプレイは、昨年のスーパーボウルで多用された。
マンカバーを多用するフィラデルフィア・イーグルスのミスマッチとオーバーリアクトを誘った必殺のプレイがコールされたのは、これが初めてだった。
もっとも、エンドゾーン直近の、このシチュエーションになったのは、この日初めてのことではあったが…

このプレイの開始まで、残り6秒になってもチーフスはタイムアウトをとるそぶりさえ見せなかった。
彼らは、確信を持って、このプレイに臨んだのだ。
これで必ず決めると。

4年前の対戦では、1948年のRose Bowlの中からピックアップされたパレードというプレイが脚光を浴びた。

奇しくも同じ顔合わせとなった今年のスーパーボウルでも、またアイコニックなプレイが誕生することとなった。

このゲームで2人のインプレッシブな選手がいる。

WR マルケス・バルデス・スカントリング

ひとりはチーフスのWR マルケス・バルデス・スカントリング。
彼は、この日、チーム最初の、レギュレーション唯一のTDを決めた。

タッチ数は、それほど多くはないが、ディープターゲットとして、しばしば決定的な働きを見せる。
AFC Championship Game でも、しっかりとゲームをクローズする決定的なキャッチを見せた。

どフリーで絶好球をドロップしてしまうという、ありえないミスから立ち直った男は、カバーを見てすぐに投げ込まれるほど信頼されている。

WR ジャウアン・ジェニングス

彼は、ニック・フォールズ以来のスーパーボウルでTDパスとTDレシーブを記録した、史上2人目の選手となった。

えっ!投げるの?
と誰もが驚いたプレイは、強力な守備に手を焼くオフェンスに最初のTDをもたらした、まさにスペシャルなものになった。

そして、TDレシーブは、あのラジャリウス・スニードを打ち破ってのもの。
Next Gen StatsのAll-Proに選出されているラジャリウス・スニードは、数多のエースレシーバーとマッチアップしながら、ここまでTDを一本しか許していなかったのだ。

4%のチャンスをものにした男は、一昨年もチームを救っている。
AWSの機械学習が、勝てる見込みは0.4%しかない、つまり、あのMiami Miracleよりも厳しい状況で勝負をひっくり返した時の立役者なのだ。

エースと呼ばれることはないであろう、この2人が、死闘の中、チームを救う働きを見せる。
層の厚さという事実とともに、チームスポーツであるということをあらためて実感する。
もっとも、彼らは、自分自身が何もであるのかを証明してみせたのだ。

A duel for life

とかくMr. Irrelevantにスポットライトが当たりがちだった今回のスーパーボウルだが、証明が必要なのは彼だけではない。
それは1巡指名の選手でも、ベテランだって、いや、シーズンMVPだって、コーチに至るまで、このゲームで、自分が何者であるのかを証明しなければならない。
いや、証明したいのだ。
フランク・シナトラのMy Wayを聴きながら、人生を賭けたゲームというものが実在することに思いを馳せている。
砂漠で行われたそれは、決闘と表現するべきなのかもしれないが…

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