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ラグビーワールドカップ2019 日本対南アフリカ戦「ナビゲーターとしてのスプリングボクス」

南アフリカ戦が終わって脱力した夜。
大敗の可能性もあったがそれは避けられた。
日本に弱さは感じない。
ただただ南アフリカが強かったのだ。

リザーブにもFWをたんまりと補充して、ペース配分を考えなくてよくなった巨人たちは接点で思いの限り力を発揮した。
ようやく手に入れたボールを、日本代表がお得意の光速展開を仕掛けようとすると外側からカーテンをかけるようにパスコースを遮断した。
アウトサイドインで遮断された日本代表は、光速のパスの飛ばしどころをなくした。
フェラーリのための高速道路も交通規制が解除されることはなく、仕方なく一般道に降りてきたフェラーリは、ひどい渋滞に巻き込まれるか、ひどいクラッシュに巻き込まれるか、いずれにせよエンジンの回転数を上げることができなかった。
それに、そもそもフェラーリにパスが渡ること自体がほとんどなかったのだ。
フィジカルとディフェンスで勝つと腹を括ったスプリングボクスは、どれだけボールを支配されようと、黙々とタックルをし続けた。
対戦相手が得意なはずのダブルタックルも、あちらこちらで炸裂していた。
まったく上がらないボール支配率と引き換えに、彼らは敵陣に居座り続けた。
そうして世界中が恋に落ちたブレイブ・ブロッサムズの魅惑的な攻撃を発揮させることはなかった。
その防御の固さは、前評判の高かったアイルランドどころの騒ぎじゃなかった。
日本代表は、もうひとつのチャームポイントである粘り強いディフェンスをし続けていたが、常に自陣で繰り広げられる展開に、ようやく手にしたボールを接点で奪われる状況に、ミスも生まれつつあった。
自陣でのミスは、反則も含めて、得点に直結してしまう。

プレーヤーオブザマッチ SHファフ・デクラーク

最も象徴的だったのがスクラムハーフだ。
超攻撃的なSHといえる。
いや、一般的に使われる攻撃的という意味ではなく、まるで3人目のフランカーのように攻撃的なディフェンスをするという意味でだ。
最初のタックル を決めようとアタックしてくる彼は、単にプレッシャーをかけるということだけでは満足せず、実際にタックルを、それも相当なハードタックルをお見舞いしていた。
小型の闘犬のように猛然と飛びかかってくる彼に口火を切られ、外側への抜け道はカーテンで塞がれ、困り果てたところにフレッシュな巨人がハントにやってくる。
ここまで獰猛なSHは見たことがない。
この日、スプリングボクスは彼をリーダーとした狩猟民族のようだった
。
そのご褒美に彼はトライだけでなく、POTMも手に入れた。
当然のことだろう。

ブライトンの奇跡という重石

彼らは、4年間抱え続けた重石からようやく解放されたのではないだろうか。
奇跡と呼ばれ映画にまでなったしまったあの試合の主人公ではない方の当事者として。
なまじ開催国日本のホスピタリティが優れているばっかりに憎めばいいというわけにもいかず、メンタリティのコントロールは難しかったんじゃないだろうか。

「日本大会の開催は、本当に称賛に値する。日本の方は誠実で素晴らしい。ただ、分かってほしいのが我々にも誇りがある。いろいろなことがあり、さまざまなものを背負ってここにいる。母国のために信念を貫き、満員の会場で攻撃的なラグビーを見せたい」

情報源: 南アフリカ監督強気「日本メリットなくなり平等だ」 – ラグビー : 日刊スポーツ

あの日と今日とを経験した両者が迎えたノーサイドは、他の試合と一線を画す親密さが感じられたのは気のせいだろうか。

ただし、初めての黒人主将となった彼の個人的な重石はどうなんだろう?
あのブレイブ・ブロッサムズのお膝元で、ワールドカップのノックアウトステージで、赤白のオールブラックスとも言われた光速アタックをノートライに封じて、きっちりと借りを返しベスト4に進んだのだ。
彼のキャプテン就任は成功だったと本国でも評価されていればいいなぁ…

126年の歴史を誇り、白人が大多数を占める南ア代表チームで初の黒人キャプテンとなった。

情報源: ピッチ外でも輝く、南ア初の黒人主将コリシ

ナビゲーターとしてのスプリングボクス

それまでまったく対戦することはなかったのに、2015年に唐突に対戦すると、日本が決勝トーナメントに進める力があることを、結果的に教えてくれた。
そして、今回の対戦では、日本がこの先を勝ち上がるには、まだまだ力不足だぜと指し示してくれた。
不思議なタイミングで始まった南アフリカとの因縁は、節目節目で日本のバロメーターを表すナビゲーターのようだ。

2023年も対戦することになるのだろうか?
それは、どんな状況で行われ、どんな結果になるのだろうか?
あるいは対戦しないのだろうか?
そのときブレイブ・ブロッサムズは、どんな旅の途中だろうか?
アイルランドがオールブラックスに初めて勝利するのに111年かかったなんて記事を目にすると、その道程は気の遠くなるような長いものになるのかもしれない。
たかが4年ごときでジャンプアップを望むなんてと、ラグビーユニオンの爺様たちの高笑いが聞こえてきそうだ。
僕らは、桜の花びらが散ってしまわないように、長い目で、本当に長い目で見守らなければならないのだろう。

「にわか」スプリングボクスファンの誕生

さて、ワールドカップはまだ終わっていない。
残された4チームは、どれもガッチガチの本格派だ。
ここで「にわか」スプリングボクスファンの誕生を宣言しようと思う。
アメリカンフットボールでも、ディフェンスファーストで守り勝つチームは嫌いじゃない。
推しメンは、SHファフ・デクラークだ。
敵に回すと本当に厄介だが、味方であれば、この上なく頼りになるはずだ。
決勝の当日、スプリングボクスが思いっきりフィールドを蹂躙する姿を期待したい。

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