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2022 RICE BOWL お正月の A Game of Inches

75回目を迎える今回よりライスボウルは、またまたその趣を変えた。
国内シーズンのラストゲームであるライスボウルは、正真正銘、国内最高峰のゲームとしてXリーグのチャンピオンシップゲームとなった。
ゲーム内容が問われる新フォーマットでの一戦は、ひとつのタックルが勝敗を分ける、予想を遥かにこえたA Game of Inchesの好ゲームとなった。

ライスボウル 2度目の生まれ変わり

実況放送が開始されるまでのNHKのアヴァンタイトルは、ライスボウルの歴史を振り返る懐かしいものだった。
昭和末期のフットボール人気を高めた頃の、誰もそのランを止められなかったレナウンの松岡、怪物くんと呼ばれた太々しさナンバーワンの京大の東海、唯一無二の個性である篠竹監督。
そうしたアイコニックで強烈な個性を持つ面々が登場していた。

学生オールスターのお祭りだったゲームは、よちよち歩きの実業団リーグを高めるためのハシゴになった。
「練習してねえ実業団が学生に勝てるのか?」
にモデルチェンジしたゲームは、いつからか
「学生がセミプロに一矢報い流ことができるのか?」
と関心の対象が変化していた。
そうして国内の正真正銘のチャンピオンを決めるゲームとして、この度生まれ変わることになったのだ。

しかし、人気と伝統のある学生チームを対戦相手に迎えるという恩恵が受けられなくなったことで、今回のゲームは、その内容と質に注目が集まることになった。
とりを務めるボウルゲームにふさわしいものなのかと。

一人二人のガイジン

本場ものの、錚々たるカレッジ出身のガイジンがXリーグに参加するようになると、彼らは猛威を奮い続けた。
わかっていても止められない一人二人のガイジンに、リーグはいいようにやられていた。
しかし、もう一人二人のガイジンではゲームを決定することができないほどに、リーグ全体のレベルは上がっていた。
わかっていてもどうしようもなかったはずのガイジンRBのショートヤードは、ことごとくロスに追いやられた。
ガイジンDL一人のラッシュでポケットが破壊されることもなく、ガイジンCB相手に日本人レシーバーはパスキャッチしてみせた。
そうして何より、ガイジンQBがスクリメージのように簡単にパスを成功させることはできなくなっていた。

フロンティアーズ #34のタックル

このゲームのOne playを上げろというのなら、文字通り勝敗を決した、インパルスの最後の望みを断ち切ったフロンティアーズ #34 樋田 祥一のタックルだろう。
ゲーム開始から、ほぼオートマチックに通されていたパス。
エンプティで5人のレシーバーをラインアップされて広げられ、QBの目の前、5ヤードあたりに投じられるパス。
インターセプトもパスカットも望めない、ランアフターキャッチを抑えられれば儲け物という、ウォーミングアップのキャッチボールより簡単なパスを失敗に追い込んだ確実で思い切りのいいタックル。
彼は、最後尾から最短で最善のルートを取ると、そのスピードをまんまヒットにのせた。

彼は別のプレイでも、ディープゾーンからルートを見切ると思いっきりショートゾーンに駆け上がり、もう少しでインターセプトという動きを見せていた。
思えば、ゲームを通じてインパルスのQB アンソニー・ローレンスは、投げあぐねるというか、判断に時間をかけさせられていた。
画面には映らないところで、フロンティアーズ守備陣が難解なカバーを見せていたのかも知れない。

一人二人のガイジンにいいようにやられていた頃を知る36歳のベテランDBが、ガイジンのホットラインを勝負所で封じたことは、Xリーグがネクストレベルに上がったことを証明している。

A Game of Inches

ものすごいハリーアップなインパルスのオープニングのノーハドルオフェンスが、奇襲として成功していながらTDどころかFGにさえも結びつかなかったこと。
そして、第4Q終盤のTD目前でのファンブル。
このふたつが、スコア的に見ればインパルスの敗因ということになるのだろう。
もし、フロンティアーズが負けていたなら、残り1分50秒でFGを選ばずギャンブル失敗したことが話題になっていたであろう。

両チームのディフェンスがゲームを締めた上でのシーソーゲームは、フットボール的にはいちばん面白い。
そしてショートヤードを簡単に諦めないA Game of Inches。

今ではとても考えられないが、NFLは始まって40年ほど経ったころの、あるひとつの劇的なゲームによって一気に国民に広がったと言われている。

NFLの人気を一気に高めたゲームだと言われているが、その表現がすごい。「このゲームは、NFLを国民の情熱に変えた」
それを目撃した少年のひとりは、感動のあまり帰りの地下鉄の中で涙を流してしまった。
ブルックリン・ドジャースがLAに移転してココロに穴の空いた少年は、一気にフットボールに引き込まれてしまった。
それまでNFLに興味を持っていなかった人たちを一気に取り込んだ、
それほどに伝説的なゲームなのだ。

情報源: ライスボウルとNFL100年の史上最高のゲーム | ALOG

今回のライスボウルのようなゲームが観られるのならば、いつの日にかと希望は持てる。
それには、文字通り、こうしたゲームを面々と積み重ねていかなかればならないけれど…

12分Q?

素晴らしいゲームだっただけに、なぜ12分Qなのかという疑問が大いに残る。
プロ野球の日本シリーズが7回で終わりなんて聞いたことがない。
いや、レギュラーシーズンにしても。
野球のトップレベルで7回で終了するのは、女子だけだ。

どうして日本のフットボールは、かたくなに15分Qを採用しないのだろう?
本物のフットボールより丸々12分も少ないゲームを国内最高峰のゲームと謳っていいのだろうか?
レベルが上がりましたねえなんてふんぞりかえる前に、こうしたことをちゃんとやるべきじゃないのかね。
高校野球だって9回までやってるぜ。

特に、このゲームでちゃんとした時間が取られていれば、二転三転じゃおさまらない、どれほどのドラマが生まれていただろうか…

水道橋が聖地なの?

誰も何の疑問も持たずに、当たり前のように東京ドームで開催され続けているけれど、それでいいんだろうか?
フットボールを見るのには邪魔な余白を含んだ、薄暗いフィールド。
これを聖地として目指し続けるということでOK?

リニューアルした国立競技場には、どうせ芝が傷むからと門前払いを喰らうだろう。
何よりあちらには、人気急上昇中のラグビーという大事にしなきゃいけないお客がいることだし…
でも、寒い時期に寒さを味わいながら、陽の光のもとで観戦することはひとつの醍醐味だ。
つくづく、ラグビーには秩父宮ラグビー場があることが羨ましい。

まあ、フットボール専用スタジアムができる可能性については諦めているけれど、ずっとこのまま東京で、水道橋の開催でいいんだろうか?
他の地域での開催は全く視野に入れないんだろうか?
甲子園ボウルとは違う、ライスボウルが水道橋に縛られる理由はないはずだ。

それには、日本フットボールの構造上の問題が気になるからだ。
CFLに参加する選手も出始めて、確かに確実にレベルは上がっている。
しかし、裾野は広がっていない。
限られた地域の有力な高校生が有力な大学に入り、そしてXリーグの変わりばんこに優勝している僅かなチームに進んでいく。
どのレベルも有力チームのトーナメントでいいんじゃないの?と思うくらいに勢力図は変わらない。
狭い範囲で先っぽだけが尖っていく鉛筆構造。
そう、鉛筆はすぐに倒れやすい。
トップレベルも著しく進化し、裾野もぐんぐん広がっているラグビーの巨大なピラミッド構造とは対照的だ。

もしフットボールを全国的に普及させる気があるのなら、関東関西のボンボンがやるニッチなスポーツで終わらせたくないのなら、地方に営業に行くべきじゃないだろうか。
好ゲームというお土産を持って。

あらためて、今回のゲームは本当に好ゲームだった。
シーズンの最後を飾る、国内最高峰のゲームと呼ぶべき、正真正銘のチャンピオンシップゲームだった。

受信料を納めてる立場として、スポンサーとしてNHKに命令できるのならば、バラエティづいてる暇があるのなら、Xリーグをシーズン通して追いかけろと言いたいよね。
せめてセミファイナルからでもいいからさ…

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