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NFL 2022 AFC Championship Game 「アンネセサリーなせつなさ」

NFC Championship Gameの失望感を抱えたまま迎えたAFC Championship Game。
シンシナティ・ベンガルズとカンザスシティ・チーフスの対戦は、予想を上回る激戦。
お互いの守備がお互いの強力な攻撃を封じ込めながら、それでも攻撃が渾身のプレイで活路を開く。
素晴らしいゲームの典型的な展開となった。
だからこそ、幕切れは、せつない…
ビターエンドという表現では、とてもじゃないが賄いきれない…

DT クリス・ジョーンズ

このゲームでMVPを挙げろというのなら、彼の名前を出さないわけにはいかない。
安易なブリッツが命取りにつながるエリートQBを擁する両チームにあって、4人以下のラッシュでいかにプレッシャーをかけるのかは最大の課題だ。
そうして彼は、その課題を見事にクリアしてみせた。

彼は中央のみならず、エッジにもポジションを取り、最後までジョー・バロウにプレッシャーをかけ続けることになる。
1Qだけでも3サック、合計5サックをあげたチーフス守備の原動力だった。

2.5秒でリリースできるジョー・バロウが受けたこの日最速のサックは、3.8秒。
そう、後ろではジョー・バロウの苦手なカバレッジが待ち受けていた。

カバー2 vs ジョー・バロウ

このゲームでも、これでもかというほどカバー2のマンカバーが多用されていた。
それぞれのレシーバーにマンカバーで貼りつくことでクイックなパスを許さない。
もしパスキャッチされても、ディープゾーンに構えるSが大きなゲインを許さない。
YACの怪物にあっという間にクイックデリバリーしてしまうオフェンスに対峙するのなら、これがベターなのだろう。
迂闊に誰かをダブルカバーするには、ベンガルズのレシーバーユニットは粒が揃いすぎている。

そうしてクイックにデシジョンできなくなったジョー・バロウが、強力パスラッシュの餌食になるという構図だった。
しかし、TE ヘイデン・ハーストもチップブロックを多用するようになり、バックフィールドにもTE ミッチェル・ウィルコックスを投入してプロテクションを安定させると、カバー2の弱点を狙撃する。

世界中にこの弱点をさらしながらもカバー2が採用され続けるのは、その弱点を正確に狙撃することが、甚だ困難なことだからだ。
それには、あのデス・スターの排水溝を雷撃するほどの正確さが求められる。
解説のトニー・ロモが、ハイレベル!と絶叫しているが、ジョー・バロウは、若き日のマスター・スカイウォーカーが受けたような賞賛を浴びていいはずだ。

僕は、11年前のスーパーボウルでイーライ・マニングが魅せた、あの完璧なスローを思い出していた。

そして、もうひとつ。
4th & 6のギャンブルプレイで、ベンガルズは6ヤードを狙いにいかなかった。
彼らが目指したのは、もっともっとフィールドの奥の方だ。

6ヤード必要だった彼らは、35ヤードものゲインを手に入れた。
それもランアフターキャッチの結果なんかじゃない、パス自体の飛距離は39.5ヤードだ。
インのフェイクでSを前に上げると、真っ直ぐにぶち抜くイン&ゴー。
これもカバー2の弱点をピンポイントで狙撃する。
弱点を狙撃するとは言っても、その難易度は相当に高い。
パスプレイによるギャンブルで、過去3年間でもっとも成功の見込みが低いプレイだった。

しかし、カバー2の強みはCBとSのコンビネーションが組みやすいこと。
やられっぱなしで終わらせられないチーフスは、逆サイドで展開されたおんなじプレイにカバー2の強みを発揮してやり返す。

しかし、ベンガルズは、今度はTE ヘイデン・ハーストを送り込んで、このカバーを打ち破る。

マンカバーでショートゾーンのディフェンダーが消えることを確認したジョー・バロウは、決め打ちでど真ん中の自らのランプレイも選択した。
さらに、スクランブルでも、いつもは早々にスライディングする彼が、この日はジューク!

走る回数は極めて少ないが、必要な時には十分な効果を発揮する彼のラン。
そういえば、この間の対戦で、バッファロー・ビルズは、しっかりと彼にスパイをつけていたっけ。

昨シーズン、9回もサックを浴びながらプレイオフを勝ち上がったジョー・バロウの涼しい顔は、5回のサックを浴びた程度では、崩れることはない。

ルー・アナルモ vs パトリック・マホームズ

パトリック・マホームズが苦手とするのは8メンカバー。

昨シーズンのAFC Championship GameでもDEをドロップさせた3メンラッシュのカバーに苦しめられた。
しかし、昨年それを多用したベンガルズは、この日は、あまりコールすることはなかった。
だが、ベンガルズのDC ルー・アナルモは、情弱の僕にはよくわからないカバーを使用する。
この日も、足首に不安があり、よりクイックにリリースしたいパトリック・マホームズ対策だとは思うが、6人がショートゾーンに待ち受けているシーンもあった。
さらに、プレスナップのポジションからは全く予想できない最終形のカバレッジ。
フロントヘビーに見せかけといてゾーンカバーを敷くなんてのは、よく見かけるだろう。
ところが最終形はタンパ2で、通常MLBが落ち着くポジショニングにSが代わって待ち受ける。
しかし、チーフスは、そんなカバーを打ち破るプレイを用意していた。

どうしても弱くなるど真ん中にタイトなレシーバーを送り込むのも、これまた定石。

マイク・ヒルトンが懸命に手を伸ばすが、ただでさえ不利なポジショニングに、どストライクを投げられては、黙り込むしかないだろう。
マイク・ヒルトンは、この日もブリッツを見せていた。
数々のビッグプレイを生んできた彼のブリッツは、しっかりと警戒されており、チーフスはその影響を受けることのないプレイコールを続けていた。
そこに持ってきて、このマイク・ヒルトンを打ち破るTDパス。
ベンガルズの守備のひとつの象徴を、来るであろうカバーを先読みして打ち破ったのは爽快極まりないことだっただろう。

WR マルケス・バルデス・スカントリング

そのパスをキャッチしたのが、マルケス・バルデス・スカントリング。

今年、チーフスに加入したスピード自慢のWRは、今シーズンのパトリック・マホームズのディープ・ターゲット。

6回で116ヤードのキャッチを記録した彼は、このゲームのリーディング・レシーバーだ。
この日も要所でキーになるキャッチを見せていた彼は、タイリーク・ヒルばりのスピードを持っている。
もっとチームに馴染んでくれば、様々な形でボールにタッチする機会が増えていくのではないだろうか。
彼も、このゲームのMVPと言っていいだろう。

TE トラビス・ケルシー

パトリック・マホームズとトラビス・ケルシー。
ひとりでも強力な彼らが、デュオとして存在しているところがチーフスの強みであることは間違いない。

ゴール前でよく見るトラビス・ケルシーのコーナーパターン。
僕らは、何度そのシーンを見せつけられただろう。
それが骨身に染みているベンガルズのジェシー・ベイツ3世は、先回りすように見事なカバー。
ルートを変更したトラビス・ケルシーに阿吽の呼吸でストライクを投じるパトリック・マホームズ。
周到に用意されたプランも、息のあったアドリブの前では無力だ。

このデュオは、トム・ブレイディ&ロブ・グロンコウスキーのデュオの記録に肉薄しており、なんと、このゲームでジョー・モンタナ&ジェリー・ライスをも超えてしまった。

トラビス・ケルシーは、TEとしてレシービングヤードの最高記録を樹立。

そして、全レシーバーの中でも第2位に登り詰めた。
もうその上には、ジェリー・ライスしかいない。

アンネセサリーなせつなさ

先の見えない素晴らしいゲームは、思いがけないプレイで決着がついてしまった。
またしても反則だ。
不必要な乱暴行為という名前のとおり、それはまったく無意味な行為だった。

同点のままボールを保持しているチーフスは、残り19秒で3rd & 4のシチュエーション。
わずかにベンガルズ陣内に入ったフィールドポジションでは、FGを狙うにも15ヤードは進めなくてはならない。
チーフスはFGにたどり着けるのか?
もし狙えなければ、どんなギャンブルプレイを見せるのか?
この緊張感のまま、OTに突入するのか?
僕の頭をよぎった諸々のサムシングは、このワンプレイで全て吹き飛んでしまった。
なんとかプレイを成就させようとするホールディング、あるいは、決定的な瞬間を防ぎたいインターフェア。
そうしたものなら共感も得られるだろう。
しかし、このプレイは、何も生み出さない、全くの馬鹿げた行為だ。
そして15ヤードのペナルティは、きっかりFG圏内に届く距離だった。
もちろん、このプレイだけでベンガルズが敗退したわけではない。
様々なプレイが積み重なって勝敗は決まる。
遡れば、チーフスのルーキーWR スカイ・ムーアに29ヤードもパントリターンされるべきではなかった。
さらに言えば、この日、猛威を振るっていたクリス・ジョーンズの処理をひとりだけのプレイヤーに任せるべきではなかった。

このプレイが序盤であれば、ため息をひとつ吐けばいいだけの話だ。
しかし起こったタイミングがまずかった。
最後の最後で起きてしまったこと。
そのことが、ため息ひとつでは、とても吐き出しきれない苦味を残す。
もちろん、ジョセフ・オサイに悪意があったとは思わない。
QBに僅かなゲインも与えてはいけない責任を持ったものとして、つい反応してしまったのだろう。
そのことが、この結末をいっそうせつなくさせてしまう。

だが、本当にアンネセサリーなことは別にある。

バロウヘッドとラマー・ハント・トロフィー

ジョー・バロウを擁するベンガルズは、これまでチーフスに3戦全勝。
負けることを知らなかった。
そうしてベンガルズの選手は、対戦前に、チーフスのホームであるアローヘッド・スタジアムをバロウヘッドと揶揄していた。
ジョー・バロウが活躍するホームみたいなものだという意味なのだろう。
このことにチーフスの選手たちは激怒していた。

AFCのチャンピオンに渡されるラマー・ハント・トロフィー
そのトロフィーにラマー・ハントの名前がつけられたのは1984年のこと。
そしてチームが、そのトロフィーを、チームの創設者の名前がついたトロフィーを手に入れるのに、実に35年の月日が必要だった。

石油王となり、NFLに対抗するリーグを立ち上げ、レベニューシェアという画期的な手法を作り上げた。そもそも彼が、AFLという別リーグを立ち上げなければ、スーパーボウルというチャンピオンシップも生まれることはなかった。
そんな彼は、NFL100年の歴史の中で偉大なゲームチェンジャーの一人にあげられている。

情報源: 2020 第54回スーパーボウル「ジャージの勝敗予想とラマー・ハント BOWL」 | ALOG

単なる優勝カップ以上にチームにとって重要な、そのトロフィーを奪った相手が、もう50年以上も自分たちのホームであるアローヘッド・スタジアムを揶揄している。
これでやらなきゃ男じゃねえだろ!
というペップトークまで聞こえてきそうだ。
そうしてチーフスの選手たちは事前の舌戦などは行わず、ただ黙って結果で見せたのだ。

スポーツ選手がイキって余計な口を叩く場面は、国内外を問わずあちこちで見られる。
そうしてそれは、得てして相手方にエキストラチャージを与えてしまう。
いや、損得の問題ではないのだよ。
敬意を欠いた言動は、シンプルに不愉快だ。
そうしたものこそ、本当にアンネセサリーなものなのだ。

AFCでは新しいジェネレーションのグレートライバリーが確立した。

だから、それに水をさすようなアンネセサリーなものは、本当に余分なのだ。
そうして余計な添加物のなくなった、来年の対戦を本当に心待ちにしている…

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